「貴方は加害者だ」
「研究者で、観測者で、黙認者で、最後には破壊者だった」
「残酷な話ですよ」
「貴方と、彼だったからこそ、そうなってしまった」
「貴方の気紛れの選択が、彼の善良な心を灯すきっかけとなり」
「その全てが解れ、彼は空の花瓶となった」
「……だが、会う資格がないからといって」
「他者が望む道筋を途絶えさせるのは、貴方が嫌う後悔になりえませんか」
言葉が刃のように並べられる。
だが、それは切り捨てるためではなく、逃げ道を塞ぐためだった。
「……」
「……透明の軌跡、一ついいか……」
「どうぞ」
「お前なら、どう選んだ……」
「一つの命を犠牲に、多くを救うか?」
「それとも、多くを見捨て、善良な一つを救うか……」
「……」
「俺はきっと、貴方と同じ立場だったら」
「都市の人間であれば、前者を選んだでしょうね」
「……」
「都市の人間の病を一手に救う研究」
「1を捨て100を得る選択」
「それはどれも間違いではなく、限りなく未来に貢献できる犠牲だろう」
「……あぁ……やっぱり――」
「だが、貴方は違うんだろ」
「貴方は、善良な一つを護ろうとした」
「それが、ニゲラさんの選択であり」
「後悔を担った未来だ」
沈黙が落ちる。
それは拒絶ではなく、理解が追いつくまでの時間だった。
「その未来は、自らが消される事を覚悟していた」
「『忘れられなかった判断、止めなかった選択』」
「そう、誰かに言われたんだろうと、彼は言っていた」
「――」
「貴方が背負った後悔の中に、彼は後悔を感じる事はなかったんだ」
「幸せだったと、役に立てたと」
「だが実際は、彼は空っぽになってしまっただけ」
「憂鬱に呑まれ、ただ役割を終えたがっていた」
「だが空っぽになったということは、同時にまた何かを満たすことの出来る器が出来たって話なんだ」
「その器が成り立ったのは、ニゲラさん。貴方の選択が故に」
「彼は花を受け入れる器に成り得たんですよ」
「――」