廊下は酷く静まり返り、機械音も、人の気配もない。
だが、完全な無音ではない。
過去、自身が製造した技術の痕。
過去、自身が築き上げた覚悟の痕。
過去、自身が成した後悔の痕。
「……」
病室に繋がる廊下の奥底。
且つて彼が立ち尽くした、後悔の焼け跡。
「ニゲラさん、貴方が見据えるべき場所は其処じゃない」
ユンフは一歩前に出て、
ニゲラの視線を遮るように、
その“嘗ての地点”を身体で塞いだ。
「……そうだったな……」
小さく、掠れた声。
そうして、ニゲラは歩き出す。
「……」
彼の背後で、ユンフは一瞬だけ、その悔恨の痕へと視線を向ける。
微細な違和感。
言語化する前に、視線を戻した。
「……」
ニゲラは病室の前に立つ。遅れてユンフもまた、彼の後ろで歩みを止めた。
扉の前に立つと、病院の空気が変わった。
霧が薄れる代わりに、消毒液と金属が混ざった、記憶を直接刺激する匂いが支配する。
「……」
ドアプレートには、掠れた文字。番号。
かつては個体名が記されていたであろう、その痕跡。
手が扉に伸びる。
だが、触れる直前で止まる。
「……」
病室の引き戸に額スレスレになるほど、接近して立ち尽くす。
過去と同じ、邂逅前の恐怖。
だが、それは昔とは異なった。
過去のニゲラは、彼に会いにきた訳ではなかった。
だが今は違う。
会う為に、この扉に手を掛けようとしている。
「……ッ」
それでも、ニゲラの手は震えを止める事は出来ず、カタカタとその場で振動するだけであった。
自身の情けなさに歯を食いしばり、ただ時が流れる。
そんな彼を、ユンフはただ後方で眺めるだけ。
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