夕焼けが差す前の日中。
彼は常に黄金に輝く街並みを横目に、都市とは異なる空気の音色を感じていた。
やはり、嘗ての思い出に通ずる匂い。
「……」
はやく帰りたい。
そう願う、表には出さない大きな欲望。
その願いを孕んだまま、歩く最中。
「~♪」
嘗て、自身に枷さえ強いておきながら、
自身の感情に付き従う事も出来た音色が、彼の耳を刺激した。
「――」
麦畑の隅。
円状に纏められたロールベールの上で、鼻唄を口ずさむ女性が上機嫌に足を揺らしていた。
「~♪」
「……あら、お客さん?ようそこ、希望のつどう村へ~」
彼に気づいた女性は、鼻唄をやめても尚、何処か飄々とした機嫌の良さで笑みを見せた。
「……」
「水かけ祭りの音色」
「そう。ミルラのしずくが集まった事を祝した希望の音楽」
「村の人々は怯えず、また優しい日々を送れる希望の歌」
「これが好きなの、私」
「ね、すぐわかったって事は、貴方もそうなんでしょ?」
「……」
「あら?違ったかしら」
「大半は憂鬱に沈み往く『僕』の独りよがりな時間でした」
「じゃあ途中からは『俺』になった、みたいな?」
「勘のいい人ですね」
「そりゃそうよ」
「なんたって、このティダに希望を届けてくれるキャラバンに身を挺してくれた」
「セルキーの人、ラ・セナに憧れているんだから」
「……」
「あら、セルキー族には厳しい感じ?」
「しましまリンゴや……ルダの村ではギルを盗まれたものでして」
「あはは、『我』の民って感じだよね」
「でも、ラ・セナはそんなことしないよ」
「彼女は帰ってくるたびに、ミルラのしずくだけじゃなくて」
「皆に希望を持ち帰っていたのよ」
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