ビルに繋がる一本道。
その道中、村全体を見渡せる岬のような足場で、一人の女性が佇んでいた。
「本を捲る度に、その呼吸は楽し気なものになった」
「筆を動かす度に、その字は嬉し気なものになった」
「そんな横顔を見たいが為に、私は旅をした」
「……」
「ある女性のお話です」
「非力ではあるけど、絶対に傍に居たくて」
「力になれなくても、皆を支えていきたい」
「そう、自分の出来る事を最大限まで考えて」
「希望を持ち帰るキャラバンの、希望そのものになっていた」
「そんな女性のお話」
「……」
「クラヴァットは畑でも耕しているのがお似合いだって揶揄されることはあったけど」
「その人は、確かに動機は不純だったかもしれないけど、キャラバンになる意志を自分で固めた」
「恋心はその人の人生観を大きく変化させて、最早別物になってしまう」
「でも、その人は、『それでよかった』と、納得していたそうです」
「……ようこそ、ティダの村へ」
「今、私が話したのは、テトさんの話です」
「――」
「……」
「健気な少女の、大切な人との思い出の話ですか」
「村人以外の人が、そう言ってくれるなんて」
「まるで貴方も此処で育ったかのような感じです」
「……テトさんは、この村を護ろうと、戦い続けたんですね」
「……最期まで、戦い続けたのは確かです」
「でも、きっと違う」
「この村を護るためではなくて」
「ある人を失いたくないから」
「その先に見える思い出まで手放したくないから」
「力の限りを尽くしていたと思うんです」
「……」
「ティダの村は、常に希望を抱えた村ですね」
「利己的に旅をすることが出来るのは」
「間違いなく希望の光となる礎だから」
「えぇ、私もそう思います」
「ティダの村にとっては、テトさんはキャラバンとして希望を持ってきてくれた人ですが」
「キャラバンにとっては、きっと彼女は希望そのものだったはずですから」
「……ごめんなさい、急になんでこんな話しちゃったんだろう」
「……」
「『温』の民は、その性質上争いを好まない」
「彼女は、戦う事以外で、村に平穏を届けたかったんだと思います」
「きっとそれが、その人の恋心が成せる希望だったのだと」
「……そうね……」
「書き続けた日記は、彼女にとっては恋文でもあったから」
「そんな優しい空間を、私達は見守っていたかったです」
「…………ティパの村の人。ありがとう」
「……」
振り返る事も、俯く事もなく、女性は村を眺め続けた。
その横顔に、彼は一礼をおくり、歩み始める。