―ヴェレンジェ山―
「焼土」と呼ぶにはあまりに冒涜的な、腐敗の山道を歩み続ける。
幾重にも襲いかかる狂暴な魔物の巣窟を抜け、
俺達ティダの村のキャラバンはケージを抱えて希望を求める。
武器を握る掌からは、生命の灯火が零れ落ちるように力が失せ、
歩みは泥濘に足を取られるように鈍っていく。
息をするのも、目を開けるのもやっとの地獄。
だが……。
「山の最奥地はもう少しだ」
「ケアルの準備を頼んだ、トルブジータさん」
「ミルド=デリスはいつもの殿ね」
「だから逆に背中は気にしないでよ、アタシたちも気にしないから」
「夜道は月夜に照らされてこそ見えるもの」
「我々が突き進むこの道は、満天の輝きに護られし聖なる道」
「訳わかんねぇ口上は相変わらずだな」
「いつも通りで助かるよ、お前ら」
そんな絶望の淵は、これまでの旅路で幾度となく跨いできた境界線に過ぎない。
今回もまた、無事に勝利を刻み、黄金の故郷へと帰還する。
その不変の信条に、一欠片の疑念も差し込む隙はなかった。
ダンジョン奥地で態勢を整え、
より一層濃霧となった瘴気の中で山道に足を踏み入れた時、
其処にいた瘴気の根源との戦いとなった。
「はぁっ――!」
烈風のごときミルド=デリスの槍が、本体を護る触手の数々を悉く無力化していく。
ラ・セナが放つ軽やかなる挑発がテンタクルの妨害を惹きつけ、戦場を支配する。
トルブジータが紡ぐ治癒の調べと、天空を穿つ大魔法の奔流。
あらゆる要素が俺達の力となり、瘴気の根源との戦いの最中に見えた勝機。
俺は隕石の如き質量を持つその魔物へ肉薄し、魂を乗せた必殺の一撃を繰り出し
ガンッ!
その巨体から出てきた触手が本体である事を理解した。
「――」
肺の中の酸素が凍りつく。
対峙して初めて、心髄にまで響く戦慄を覚えた。
目の前に座するのは、単なる魔物ではない。この世界を蝕み、思い出を奪い去る「瘴気の理」そのものなのだと。
それは、俺達クリスタルキャラバンが毎年成し遂げてきた瘴気の災いから逃れる為の旅が、
終息を迎える事の他なかった。
「レビ!」
力無く地面に倒れ込む本体に剣を振りかざそうとした時。
「――やめろッ!」
聞いたこともない深淵から這い出た邪悪の咆哮。
その声に呼応するように、安寧であったはずのケージから、身を焼き焦がさんばかりの光が氾濫した。
俺達は成すすべもなく、光に飲まれた。