「――ウッ……!」
全身を強打するかのような冷水が息を奪う。
既に足場は無く、流れが身体を横へ、下へと引きずり込んでいく。
腕を掻き、脚を蹴るたびに、水は抵抗ではなく暴力として返ってきた。
「クッ……!!!」
それでも俺は手を離さない。ケージだけは護りきらなければならない。
胸元に抱え込んだケージは、泥に濁る水の中でもかすかに光を保ち、俺の掌に冷たい現実として存在している。
「――ガハッ!」
流される。
体勢が崩れ、頭が水面下に沈む。濁った水が口と鼻に入り込み、咳き込む暇もなくさらに押し流される。
腕が何かにぶつかり、皮膚が裂ける感触。流木か、岩か、確かめる余裕もない。ただ痛みだけが遅れてやってくる。
それでも、手は離さない。
「――!」
無理にでも体勢を戻し、濁流を飲み込みながらでも前へと進む。
ほんの一瞬、指が滑る瞬間さえもあった。だが、執念で掴み直す。
爪が食い込み、皮膚が裂けても構わない。
指先の感覚が鈍くなっても、その硬質な輪郭だけは、確かにそこにあったから。
何度も、何度も、何度も。
どれだけ繰り返して、どれだけ苦しくて、どれだけ哀しくて。
ただただ、時間が過ぎながら泳ぎ続けた。息が続かない。
肺は焼けるように苦しく、腕も脚も、すでに自分のものではないように重い。
永遠にも思える濁流の中、俺は
「――ガハッ!!」
暗黒にも聳える暗闇の中、ほんの僅かな淀み。
そこに身体をねじ込み、最後の力を振り絞って岸へと腕を伸ばす。
ガバッ!
指先が泥に触れる。その岸は崩れ、捕まりかけた安堵は流される。
だがそれでも掴むため、腕を伸ばした。爪の間に入り込む痛み。手首の悲鳴などどうでもいい。
濁流に流される身体の痛みを、ただ前進する力に変えながら
「――ハァ……!ッッ――ハァッ……!!」
岸に転がり出ることが出来た。
前進は泥と地に塗れ、呼吸が成立しない。吸っても足りない。吐いても足りない。
雨は変わらず叩きつけ、雷はまだ遠くで唸っている。
だが、その手の中には
「――」
決して離す事は無かったクリスタルゲージがあった。
最後まで。
「――」
身体の悲鳴は現界を迎えていた。
立ち上がる事さえままならず、俺は這いつくばりながらヴェオル高地の岸を進んだ。