カオスドラマX

Gray Traveller / 574

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わったん 2026/04/12 (日) 19:09:07 >> 569

ヴェオル水門の裏手。
その崖を登る。
断崖に等しいその岩肌は、もはや「登る」という行為を拒絶する形状をしていた。
雨に打たれ、削られ、滑りやすく磨耗した岩肌は、手をかけるたびにわずかに崩れ、指先の支点を奪っていく。
息が、浅い。
肺に空気を送り込んでいるはずなのに、取り込めている感覚がない。
まるで呼吸そのものが外界に拒まれているようだった。
濡れた手が滑る。
爪を立て、指の腹で無理やり摩擦を作る。
その度に皮膚が削れ、鈍い痛みが神経を叩く。
それでも、手を離さない。

一段。
また一段。

脚は既に自分のものではなかった。
力を入れているのか、入っているのかさえ曖昧なまま、ただ上へ、上へと命令だけが通っている。

風が吹く。

体が揺れる。

「――ッ……!!」

その一瞬、意識が遅れる。
落ちる、という未来が脳裏に過る。

だが、掴む。

崩れる岩ごと、掴み直す。

――落ちない。

その一点だけで、身体をねじ伏せる。

やがて。

崖の縁に腕がかかる。

泥と血に塗れた腕で、地面を引き寄せるようにして身体を引き上げた。

「……は……ッ……」

崩れ落ちるように、地面へ。

視界が揺れる。

焦点が定まらない。

雨粒が視界に叩きつけられ、それが涙なのかすら判別がつかない。

息も絶え絶えに、登り切った先にあるミルラの木。

「……」

これまでの苦労がやっと形になった気がして、内心安堵した。
魔物の気配も無く、ケージを抱えてしずくを溜める。

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