「……」
身体を横にしたかった。
しずくが溜まった時、後は陸路に沿ってティダへと帰る為の算段を立てるだけになった。
休んで居られない。しずくを回収して、即座に移動しようとした時。
バサッ……バサッ……!
強風が吹き荒ぶ中、力強く聞こえる重力と羽根の音。
暗雲の中でも分かる、影の大きさ。
俺はその音のなる方を見上げ、僅かに残った喉の力で呟く。
「グリフォン……」
ヴェオ・ル水門に澄み付くグリフォン。
嘗て仲間達と共に相手取った巨大な魔物。
その狩人は、強風の中でさえも地に足を付く事はなく、
獰猛なる瞳を以てして、爪を光らせながら俺を狙っていた。
手元の魔石でグラビデを扱う事は出来ない。
ましてや、その後に急所を突くだけの機動力も、俺には無かった。
重なる絶望に、乾いた笑みさえ出てくる。
「――諦めっかよ……」
「かかって……こいや……」
震える手元で剣を抜く。
ケージを脇に抱えながら、その剣先を巨大な魔物へと向け続ける。
最早虚勢だけで、俺は戦意を示す。
だが魔物とは、そんな虚勢が通じる程、感情に長けた者ではない。
「――ッ!」
強風で力の入らない手元、立つのもやっとの脚を狙う、狩人の攻撃。
剣が弾け、肉を裂く。血は風に乗り、雨で流される。
「クソ……!クソ!!!!」
ただ、悔しかった。
しずくを集め、あとは帰るだけだというのに。
目の前に飛び立つ絶望は、嘗ての仲間と共に倒せた壁だったというのに。
ここまで来て。
あと一歩で。
それでも届かない。
一人では。
何も出来ない。
ただ終わってしまうその時の中で、
抗う事も出来ず……命が削られていく様に……。
「クソァァァァアアア!!!!」
奴の魂ごと削るような、鋭利な爪先が俺を襲う。
それでも、俺はケージだけは護り抜く為に、身を縮めた。
ドガァッ!
強烈な引き裂きが、俺の身体を宙へと飛ばす。
落下し始めたその先、氾濫しきった川の中へと突き落とされる俺の身体は、
無意識下に於いてただ命令を続行していた。ケージだけは離さないという、使命を。
ザバァッ!!
「――テト――」
先に乗り越えた試練の中、俺の意識は消えながら、
濁流の流れに呑まれていった。