カオスドラマX

Gray Traveller / 581

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わったん 2026/04/19 (日) 19:24:59 >> 580

「……」
「おにいさん」
「ティパの村の様子は、どうでした?」

去ろうとする俺に、背中から声を掛ける少女。

「……皆、君達の帰りを待っているよ」
「あと、この剣を持っていた元キャラバンの爺さんに、世話になったと伝えてくれ」

「おにいさん、身体の具合良くなったんですね」
「はい、どうか良い旅を」

「……」

声のリズムは一定。
だが、その抑揚の無さが、俺は絶望に染まりかけた声である事を良く知っている。
感情の摩耗。
知っているが、分からないフリをした。
ケージを抱え、歩む。
歩む……。

「……?」
「おにいさん、どうしたの」

「……」

足が止まる。
意志ではなく、反射でもなく。
ただ、止まっていた。

「……」

進行方向を僅かに逸らす。
彼らの前へと歩み寄る。
無言のまま、ケアルの魔石を取り出し、少年へと施術を開始する。
淡い光が傷口を包み、組織を繋ぎ止める。

「……重症だな……」
「時間がかかるぞ」

「おにいさん、大丈夫。村はすぐそこだから」

苦し紛れに俺に気を使う少年。
事実、時間に追われた俺にとって、この行動は首を絞めるようなもの。
それ故、治しきるという選択を取るには、余裕がなかった。

「……」

発動中のケアルの魔石を落とす。

「あ……」

渡すのではなく、落とす。

「俺はもう行く」
「その魔石は落としたやつだから」
「君達が拾って使えばいい」
「返す宛ても、拾わない理由も無いだろ」

責任を伴わない施し。
関係性を生まない距離の取り方。

「……ありがとう、おにいさん」

傷を負わない自信でもあったのか、俺は魔石を彼女らに渡す選択をした。
再びケージを抱え、街道を歩む。
背後から聞こえる、「ありがとう」の声を受けながら、俺はただ強張ったままの表情で帰路についた。

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