「……」
「おにいさん」
「ティパの村の様子は、どうでした?」
去ろうとする俺に、背中から声を掛ける少女。
「……皆、君達の帰りを待っているよ」
「あと、この剣を持っていた元キャラバンの爺さんに、世話になったと伝えてくれ」
「おにいさん、身体の具合良くなったんですね」
「はい、どうか良い旅を」
「……」
声のリズムは一定。
だが、その抑揚の無さが、俺は絶望に染まりかけた声である事を良く知っている。
感情の摩耗。
知っているが、分からないフリをした。
ケージを抱え、歩む。
歩む……。
「……?」
「おにいさん、どうしたの」
「……」
足が止まる。
意志ではなく、反射でもなく。
ただ、止まっていた。
「……」
進行方向を僅かに逸らす。
彼らの前へと歩み寄る。
無言のまま、ケアルの魔石を取り出し、少年へと施術を開始する。
淡い光が傷口を包み、組織を繋ぎ止める。
「……重症だな……」
「時間がかかるぞ」
「おにいさん、大丈夫。村はすぐそこだから」
苦し紛れに俺に気を使う少年。
事実、時間に追われた俺にとって、この行動は首を絞めるようなもの。
それ故、治しきるという選択を取るには、余裕がなかった。
「……」
発動中のケアルの魔石を落とす。
「あ……」
渡すのではなく、落とす。
「俺はもう行く」
「その魔石は落としたやつだから」
「君達が拾って使えばいい」
「返す宛ても、拾わない理由も無いだろ」
責任を伴わない施し。
関係性を生まない距離の取り方。
「……ありがとう、おにいさん」
傷を負わない自信でもあったのか、俺は魔石を彼女らに渡す選択をした。
再びケージを抱え、街道を歩む。
背後から聞こえる、「ありがとう」の声を受けながら、俺はただ強張ったままの表情で帰路についた。
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