凄まじい風圧で荒れ狂う瘴気の勢い。
小隊が通るのにも一苦労な細い道。
どうにか通れる細さの道の両脇には奈落の穴がぽっかりと口を開けている。
キィンッ!
甲高い音と共に、クリスタルの聖域であろう範囲を球状の膜が覆った。
淡く輝くその障壁は、外界の暴威を拒絶し、
内部に静寂を強制的に生成していた。そう、静寂だったんだ。
この希望の枠の中、命の綱渡りをしながら、
暴風に負けず渡り切っていたあの日々。
あの日々は、酷く煩かったのに、今は違う。
ただ、揺れ動くエーテルとクリスタルの輝きの反撥。
その安全地帯の中で、前へ進み往く俺の身体。
これだけが音を成す、実質無音の領域。
「……」
危ないぞ、と。
握っていろ、と。
「……」
こんな絶望の中でさえも、
お前達は俺の希望として囲んでくれていた。
今、俺は、希望を運んでいる。
「……」
何度繰り返すのだろうか。
前を向き、下を見下げ、また前を向き。
度重なる俺への重圧。
決して拭いきれない過去への羨望。
諦めてはならない未来への前進。
「また来年も、一緒に居ようね」
「……」
必ず帰らなければならない。
戦士としてだけではなく、テトを想う一人の人間として。
瘴気ストリームの絶望の中、俺の心の根に何かが芽生えた気がした。
これだけ世界の現実を突きつけてくる場所。
それも孤独の中で、俺は思ったんだ。
生きていかねばと。
「……」
喪った仲間と、その思い出。
俺はその経験を、今後死ぬまで苦痛として抱えていくだろう。
だが、その苦痛を和らげる天使が居る。
その苦痛に負けないようにと、支えてくれる天使が居る。
なれば俺は振り返る事はしない。
喪った者に瞳をやり、弱る俺など要らないんだと。
「――」
感情としては間違っているだろう。
だが、絶望に染まりきった人間の思考は、酷く極端になる。
それでも、あの時の俺は自身のこの考えにきっと救われたんだろう。
以前よりも、生きることへの渇望が強く、より帰郷したい思いが強くなったんだ。
瘴気ストリームの中枢を超える。
暴風から身を護る膜は消え、クリスタルケージの流れは収まった。
もう外に出れば夜になっているはず。
俺は長い歩行を終え、瘴気ストリームから歩みでた。