カオスドラマX

Gray Traveller / 585

585
わったん 2026/04/19 (日) 19:31:41 >> 580

夜が明ける。
ずっとその場で縮こまって、
ただ静止していた。
あれだけ焦燥に駆られていた俺の心情は既に停滞しており、
最早感情の揺れ動きなど存在しなかった。

「……」

結果は明白。
最早帰路につく迄もない。
見えもしない、ティダの村の方角に視線を置く。
其処にあるはずの村は、きっともう無くなっている。
分かっている。
無くなっている。
既に、何も。もう。全部。あぁ、何も、何も……何も……。

「……」

しずくの溜まったクリスタルケージ。
これは最早、俺の周りを聖域に変換させるだけのただのしずくであった。
希望でも何でもない。ただのしずく。

「……」

叩き壊そうかと思った。
だが、神に死を祈った俺は、
そうするだけの気力さえ無かった。

「……」

何をすればいい?俺は、何をすればいい?
誰に問えばいい。
俺の周りには誰一人居らず、
既にティダは崩壊している事を受け止めてしまっている。
どうすればいい。

「――さん」
「――いさん」
「おにいさん」

締め付ける心に、不必要な声が叩いてくる。
力無く、ただ項垂れる俺を起こす少女の声。

「……」

リバーベル街道に居たクリスタルケージを抱えた子だった。
後ろで少年が不安そうにこちらを見る中、少女は健気にも心配気に俺の肩へ手を置く。

「大丈夫?」

「……」

「どうしたの……瘴気ストリームの前で立ち止まって……」
「帰らな――マール峠には行かないの……?」

言い淀みながら、少女はただ俺の顔色を伺い続ける。

「……」
「……」
「もう、いいんだ」

「……」

「君達は帰らなかったのか……」

「怪我も治って、動けるようになったんだ」
「近くを通ったティパの村の人に色々渡して」
「おにいさんを探しました」
「まだ、近くに居ると思って」

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