カオスドラマX

Gray Traveller / 705

705
わったん 2026/07/26 (日) 23:13:58 修正 >> 703

「隣座るぞ」

男は「よっこらせ」とわざとらしい掛け声をしつつ、背凭れに重心を預けて空を仰ぐ。
透明の軌跡はその言動に微かに反応を示し、横の男に視線を傾けた。

「誰だよ、アンタ」

「そういうお前さんこそ誰だってんだ」
「名乗んのは相手からさせるってか?いや結構結構」

「そうやって近づく奴は、皆俺の事を知っているように語る奴なんだよ」
「……俺は……」
「……」

「……」
「どうした、名乗るの躊躇しやがって」
「特色たる透明の軌跡様はいつも特色であることをわざわざ言わねェからな」
「回りくどい感情表現と自己紹介はいつものことだ」
「あと喜怒哀楽が全部一緒の顔な」
「まぁ怒は分かりやすい方か。たまにゃ笑ってくれたがアレはファミレスの間違い探しレベルの難易度」
「その癖『笑っている』とか抜かす矛盾兵器だ」

「なんなんだよ、急に」

「何って、ユンフとの思い出話に華咲かせようとしてるだけだろ」
「こうして顔合わせんのは久々。19区の『労働感謝劇場』鎮圧依頼の事前準備が最後だったか?」
「あと俺の声聞かせたのは『レッドウォール』の時だろうな」
「あんときは親指の連中が押しかけてきてそりゃ大変だったぜ」
「お前さんが居てくれりゃ、今頃俺はまだ工房構えて煤塗れだったかもしれねェってのに」
「ハムハムパンパンの親父さんも元気してっかな~、最近顔出したか?」

「……」

「手紙寄越すとか言ってわざわざヂェーヴィチに頼んだろ?」
「モグに手紙を渡す感覚と同じ~みたいな。いやわかんねェよって話」
「都市で物を届けるって結構高いんだぞ。電子媒体でやりとりすりゃいいものをお前さんはいつも執筆だ」
「まぁ確かに届いた。んで、なに?1級フィクサーになれたからこれからも工房を繁盛させますってか?」
「いや結構結構」
「お前さんの支えは確かに俺にとっちゃありがたいもんだが、俺は特異点を買えるぐらいにゃ資金持ち合わせてんだよ」
「翼の理事だとか、協会長だとか、コネクションはいくらでもあるけど」
「まぁそんな中でお前さんが黒霧事務所の意志を継いでくれてたんなら、それでいいって話よ」
「だから自由に旅してくれや。お前さんは俺の事なんざ心配しねェってのは分かってるから」
「まぁ、ただ見守らせて欲しいってだけ。サミーが残した意志を、最後まで見届けて」
「お前さんが方向標に辿り着くところを、見守らせて欲しい」
「だから、ガンパウダー工房って肩書きに縛られず、軌跡を描いてくれ」
「……そう、話したかったのさ」
「だが、もう俺の事なんざ思い出の一片として背負って生きて欲しい」
「そう願っていた」

「……」

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