brrrrrrrr(アルゴン)
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2025/02/23 (日) 23:34:20
「困りましたねぇ...」
シンシンと雪の降る、ハバロフスクにてほっと息を吐く銀灰色髪の美女。
どうやら彼女はこの街の人間では無いようだ。
あからさまにキョロキョロと辺りを見回しつつスマートフォンと睨み合うその様はさながら、道に迷う観光客とも見て取れるだろう。
「事前情報によれば、この辺りにてよく活動を行っているそうなのですが...」
そうして辺りを見回していた彼女の視界に飛び込んできたのは1人の女性であった。
160cm程の背丈に流れるような銀糸。そしてアルビノともまた違う紅い瞳。人ならざる者たる証。
(間違いありません。彼女がそうです)
その女性──────ミーナは確信した。
「すみません、少しお尋ねしたいのですが……」
「はい、なんでしょう?」
銀髪の女性はスマートフォンから顔を上げ、ミーナに応対する。その顔立ちは日本人ともロシア人とも違う、しかし整っていると感じ取れるような顔立ちである。
「実は...」
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■ ■ ■ ■ ■
上手く行きました。
やはり同性であったことが幸をそうしたのでしょうか?子供の身体を用いて、迷子を装い接触することも考えましたがターゲット...、サラ・シコルスキー氏と接触する前に第三者に保護されてしまうことも考えられますし、やはり今回の判断は無難といえるでしょう。
しかし...。
(人ならざる者というものは本当に見分けがつきにくいものです)
その絶対数が人類と比して非常に少ないとはいえ、その存在があまり周知されて居ない要因としてはその擬態精度の高さに由来するのでしょうか?
(...、単にその時代ごとの権力者が高度に秘匿しているということも考えられますが)
「?ボクの顔に何か付いていますか?」
(あまり、凝視するのも良くありませんね)
「いえ、何でもありませんよ。それより...。ここが件のハバロフスク大聖堂でしょうか?」
「やっぱり観光名所といえばここかと思いまして」
''あの当時''はロシア正教会の宗教施設など破壊され尽くしていて酷い有様でしたが...。
(それにしても...)
吸血鬼という割には聖堂に入っても何の問題も無いのですね。そういえば80年前に吸血鬼を研究していた方がそのようなことを仰っていたような...。まぁ、良いでしょう。
「あっちで写真を撮りましょうか。有名な撮影スポットなんです」
「写真ですか。被写体になったことはあまりありませんが、そうですね...。たまには良いかもしれません」
私はどちらかといえば撮る側であることが多いということもありますが。
「はい、笑顔でお願いします」
「...?シコルスキーさんは良いのですか?」
「ボクのことは気にせずに。折角の旅行ですし」
「折角の旅行だからですよ。一人だけの写真というのも味気ないものです」
吸血鬼が鏡に映らないという話はブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』で有名ですが...。写真はどうなのでしょうか?
「そちらのご婦人。よろしければ一枚撮影していただけると助かります」
同じく観光に来ていたものと思われるあちらの老婦人に撮影していただくとしましょう。
「まぁまぁ、仲の良い姉妹だこと。2人きりで旅行かい?」
「いえ、ボク達もさっき出会ったばかりで...」
「......。」
(...、これは?)
何なのでしょうか、この感情は。
これは私のモノでは...。とすると''彼女''の...?
(不思議と悪い気はしませんが...)
「シュヴェスターさん?」
「...少し考え事をしていました」
いけませんね。折角人ならざる者のうちの一人と触れ合える機会です。今できることを存分に試さなくてはなりません。
「いえ、この後の予定について考えておりましてね。実の所、今回の旅行では具体的なプランは筋立てていないのですよ。直接、現地を歩いて面白そうな物を見つけるのも一興かと思いまして」
「それなら''マースレニツァ''などどうですか?毎年この時期に行われるイベントで催しやイベントが盛りだくさんですよ」
■ ■ ■ ■ ■
"マースレニツァ''
ロシア語でバターの祭典を意味するこの催しは、古くから行われているロシア正教の祭典行事の1つであり、''冬送り''の祭りとしても知られています。
西方諸国の教会にて行われている''謝肉祭''に近しいものと言えばわかりやすいでしょうか?
「華やかなものですね。本来の宗教行事が形骸化し、イベントとしての様相が強まった結果なのでしょうか?」
「元から春の訪れを祝う祭典でもありますからね」
そういうものなのかもしれません。それはそうと、吸血鬼が教会の祭典に堂々と参加している様子は、何とも違和感のあるものですが。
やはり、吸血鬼が''神へ敵対する不浄なものである''という概念はどこかのタイミングで教会がイメージ付けたものなのかもしれません。
となると、伝承でよく謳われる白木の杭や十字架、聖銀が効くかどうかも正直眉唾ものといったところですね。
これまでの人ならざる者達と同様に、''単なる種の一種''としてみなすべきでしょう。
もしくは銀そのものが''たまたま吸血鬼''の弱点であったために、伝承のいうところの''怪物''の類に特攻があると信じられているのかもしれません。現に恐らく、人狼の類であろうジン・ツキヨ氏についても''銀が弱点である''などといった情報は入っておりません。
しかし...、かの大戦期に記録された資料によれば''銀は人狼の弱点であった''との記述もありますが...。
まぁ、いずれの場合であったとしても...。
(直接、メスを入れてみなければ詳しいことは分かりませんね)
やはり、''人ならざる者''という存在は私の興味を引き付けて離しません。実に興味深いものです。
「あそこにブリヌイの屋台がありますよ」
「ブリヌイですか」
確か、薄い生地を幾重にも重ねた''硬く焼き上げないパイ生地''もしくは''クレープ生地で作ったパンケーキ''のようなものでしたか?
「そろそろお昼時ですし、折角なので買っていきましょうか」
食事が不要となって久しいですが、私は他の私達と違います。
味は...、良くも悪くも食事のベースといったところでしょうか。付け合せのソースや果物の味を良く引き立てています。
「気に入りました?」
「ええ。私の国にはあまりない味です」
そういえば普通に食事を行うことができるのですね。我が国に保管されている吸血鬼に関する資料には食事事情にまで言及はされておりませんでしたが...。
■ ■ ■ ■ ■
「──────それで、アレが最終日に燃やすためのカカシです」
十字架にかけられたようにも見える一体のカカシ。その様は罪を犯し、これから刑にかけられる罪人。もしくは...。
「その年の厄だったり、自分の分の罪だったりをカカシと一緒に燃やして冬を見送り、新しい春を迎えるためのものです」
"身代わり''でしょうか。
「最終日には他に特別なイベントが?」
「"赦しの主日''というものがありますね。その年に犯した罪を親しい人に打ち明けて互いを赦しあうといったものです」
罪の意識──────ですか。
(私は、''罪の意識を感じないように''造られています)
善悪の判断は知識として持ち合わせておりますし、被検体となる方々へ対して敬意の念を忘れたことは一度たりとてございませんが...。
("彼女''はどうだったのでしょう)
■ ■ ■ ■ ■
──────は自己表現が苦手な子でして。それでも彼女には理解してくれるお友達がいます」
シコルスキーさんの行きつけだという飲食店にて注文した料理を待つ間、私の運営する施設での話を持ち出してみましたが、概ね他者理解・共感といった部分については人類と同じと言ったところでしょうか?
(シナノさん、ジン・ツキヨ氏に関するデータが不足していることを踏まえると、比較対象がルェンさんのみとなる点が問題ではありますが)
しかしそれだけで、彼女の感性が人類寄りであると結論づけるには少々早計かもしれません。
例えば彼女に大切なものがあるとして。その大切が彼女にとって''隣人として大切である''とは限りません。
(単なる''所有物''とみなしているという可能性も捨てきれません。ですが...)
もし、その''大切''を彼女自身の目の前で傷つけたら?奪ったら?
どのようなデータを得ることができるのでしょうか?
何を知ることができるのでしょうか?
(何を試すにしても、現状データが不足しているという事実に変わりはありませんが)
「私ばかり話しているのもなんです──────
貴女の事を教えていただけませんか?」
見苦しい言い訳:
一応、ミーナさんとサラさんで敬語の使い方などは分けましたが...。敬語口調の時雨が思ったよりムツカシイかったデス(:3 」∠)
新規の人外さんで他に比べて素材が少なかったということも相まって、本編内容がミーナさんの内心=9割九分IX厘となってしまいました...。ホントウニモウシワケナイ
その代わり...。
今回の茶番を一通り終えた上で、次回以降に使えそうなトラブルの種をいい感じに撒いておきました(ぐう畜)
本編解説:
今回のミーナさん:
1を聞き10を知り100万のろくでもないことを思いつくイカレサイコ。
今回はフェルセン・シュヴェスターを名乗るアルゴン人観光客として入国。小さな孤児院を運営する発明家であり、卒業生達がプレゼントしてくれた旅行券でつかの間の休暇を楽しんでいる途中...。という設定である()
サラさん:
☆研究大好きハッピーMAD☆に目をつけられた可哀想なヒト?吸血鬼?半キュウケツ?これからどうなるかは不明()
出会い:
事前情報を元にサラさんを待ち伏せするミーナさん。道に迷った観光客に扮して接触した。
ハバロフスク大聖堂:
観光名所。写真を撮ってもらった。同じ銀髪であったことも相まって、老婦人に姉妹と勘違いされ...。ミーナさん自身も自覚していない何らかのツボを押しちゃった☆(トラブルの種1)
マースレニツァ:
ろしあんふぇすてぃばる。
色々なところを一緒に楽しく見て回った!コレデトモダチ!!
ミーナさんとサラさんの雑談:
サラさんの精神構造を探るためにオハナシ中。ミーナさんがろくでもないことを思いついた()デモ、ベツニヒトヲクルシメルコトガスキナワケジャナイノヨ
お待たせしました(迫真)
読んだ上で、「これなんか違うなぁ」と感じた修正点等ございましたらドシドシご指摘ください。ゼンリョクデナオシマス
何気に仁君の情報は少ないんですね
ルェンさんほど濃密♡な時間を一緒に過ごした人外は他にいないので、相対的にいえば情報は少ない方です()
いやもう完璧です()ブンショウリョクスゴスギ
お疲れ様です。続きはお待ちください…
いつか仁君にもう一度合わせて見よっかな……