最初に失われたのは、痛みへの嫌悪だった。
白い部屋で横たわり、光に晒され、数値として扱われる日々の中で、
痛覚は次第に「不快な信号」ではなく、「正しく反応している証明」へと変質していった。
針が刺さる。液体が流れ込む。
骨の内側が軋み、臓器の輪郭が曖昧になる。
「素晴らしい数値だ。K社アンプルには劣るが、これを用いれば――」
そのたびに研究者たちは頷き、記録を取り、僅かな高揚を滲ませる。
それが、嬉しかった。
彼らは僕を見ていた。
正確には、僕の身体が示す変化を。
だが、その視線は確かに僕に向けられていた。
誰かが僕の存在を必要としているという事実だけが、
当時の僕にとっては生きる理由として十分だった。
本質は治癒だった。
僕の病気を治すために集まった人々は、やがて医者としてではなく研究者として僕を見るようになっていた。
「回復の見込みはない」
治癒は早い段階で打ち切られた。
それは僕の病気が治らないからだと思ったけど、そうじゃない。
僕という研究データが技術に成り得るから、治癒を終わらせたんだ。
研究が始まっただけ。なんて冷酷なんだろうか。
でも、それは表面の話。
白衣の人々は、冷静で、合理的で、そして優しかった。
感情を挟まず、期待を持たず、失望もしない。
だからこそ、彼らの言葉は純粋だった。
「このデータは多くの人を救うぞ」
「君の反応は前例がない」
「君が居てこそ完成するアンプルだ」
それらは命令でも、慰めでもなかった。
事実の提示だった。
だが、僕はその事実に救われていた。
だけど、治癒が打ち切られた時も、研究が進んでいるときも、
決まって1人だけ、叫んでいた人がいたんだ。
今もそうだけど、その時何を言っていたのかはわからない。
でも、僕の為に何か行動を起こしてくれていることだけは、なんとなくだけど分かっていた。