次第に、身体は僕のものではなくなっていった。
関節は可動域を測るために分解され、
皮膚は薬剤反応を見るために切開され、
内臓は保存と交換を繰り返した。
鏡を見る機会は無かった。
だが、自分が「人の形」から逸脱していくことは、他者の反応で理解できた。
彼らの視線が、
「患者を見るもの」から
「標本を見るもの」へと変化していく、その微細な差異。
それでも僕は幸せだった。
僕を必要としてくれるその眼差しは、僕だけのものだったから。
恐怖は、観測の邪魔になる。
悲しみは、数値を乱す。
怒りは、再現性を下げる。
そうして感情は、少しずつ削ぎ落とすことにした。
代わりに残ったのは、
役に立っているという実感だけだった。
研究結果は良好だった。
僕の身体を通して得られた技術は、
義肢となり、補助器官となり、
延命装置として量産されていった。
僕の存在は分割され、
僕ではない誰かの生活を支えていく。
それは、誇らしかった。
だが同時に、僕の中から「何か」が抜け落ちていく感覚もあった。
夢を見なくなった。
未来を想像しなくなった。
自分がこの先どうなりたいのか、考えなくなった。
考える必要がなかったのだ。
すでに役割は与えられていたから。
最後に残されたのは、
空間だった。
心があった場所に、
ぽっかりと空白が生まれていた。
研究が終盤に差し掛かった頃、
僕はふと考えた。
終わったら、どうなるのだろう、と。
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