カオスドラマX

Gray Traveller / 603

603
わったん 2026/04/26 (日) 21:30:58

キャラバンの出立の日。
朝日が木漏れ日として差し込んでくるその日。
村人総出で見送る。

「身体には気を付けるんだぞ」

「必ず帰ってくること!しずくなんてなくてもいいから、生きて帰ってきて」

「しましまリンゴのパイを作って待ってるよ!」

今生の別れとも思える程、泣き崩れる人や、
次は自分も一緒に行くぞと、意気込む人。
あのまま手紙を読むことが出来ていなければ、
俺は、それを見送る側から見ていただろう。

「それじゃあ、行ってきます」

俺は、キャラバンになった。

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  • 604
    わったん 2026/04/26 (日) 21:31:15 >> 603

    ティパの村を出てすぐ、小隊を組んで列を成す。
    パマスを中心に、陣を組んで行路を歩んでいた。

    「おにいさん、キャラバンになったんだね」

    近くで少女らが俺に声を掛ける。

    「あぁ。頼み事してたのに、ごめんな」

    「ううん!一緒に旅が出来るの、嬉しいよ」

    「僕も嬉しいです」
    「でも、どうして急に?何かきっかけがあったんですか」

    「……」
    「ケジメかな……」
    「この世界で生きていく上で、俺は色んな幸せと、不幸を味わった」
    「もう十分かなって思ったんだけど」
    「俺に生きろと言ってくれていた事を知ったんだ」
    「……だから……」
    「前を向いて歩く為に」
    「故郷に向かう」
    「そうして俺は、向き合うんだ」
    「この世の残酷さと、今までの不幸を重ねて」
    「希望を持って生きていくと」

    「……」
    「辛いこと、じゃないでしょうか」

    「まぁな」
    「でも、今こうして瓦解せずに済んでいるのは」
    「其処で俺を待っていた人達の声が聞こえたからだ」
    「……俺の心の傷が癒える事はないけど」
    「ティダという希望を紡いだ君達と」
    「ティダという希望そのものである俺」
    「その生き様を、見せてあげたい」
    「……何言ってんだって思うよな。ごめん」

    「ううん、言葉にするのは難しいけど」
    「おにいさんの気持ちは、きっと皆わかってくれるよ」

    「……ありがとな」

  • 605
    わったん 2026/04/26 (日) 21:33:01 >> 603

    旅は順調だった。
    それも簡単に進む。
    メタルマイン丘陵に足を踏み入れた時、
    俺はトラウマのあまりその場で蹲った。
    だが、俺を支えようとしてくれるキャラバンの皆が居てくれたおかげで、歩む事が出来た。
    キノコの森の秘境に迷い、それでもティパの未来を紡ぐ希望達の為に、
    大人たちは先陣を切っていった。

    ……皆、見ているか。
    俺は、もう大丈夫だ。
    お前達を忘れるなんてこと、ありえないけど、
    お前達をずっと傷として扱うなんて、俺は許せない。
    だから、ずっと好きだったお前達の為に、
    俺は生きるよ。


    「ふんっ!!」

    剣を勢いよく振り上げ、魔物を倒す。

    「すごい!」

    子供達が目を輝かせ、剣技を教えて欲しいと言ってくる。


    「~♪」

    焚火を前にして、旋律に鼻唄を乗せる。

    「レビ、上手いな。もっと聞かせてくれよ」

    「あぁ、いいぜ。スケルトンの肋骨の間を通り抜ける風みたいに、響く音色を奏でてやるよ」

    「???」


    「夜空に掛けし数多の星は……あー、えーっと……」

    柄にもなく、本を開いて夜空を見上げた。

    「何言ってんだよレビ」

    「ちょっと黙っててくれよ。アイツが何言ってたか、思い出してんだから」

  • 606
    わったん 2026/04/26 (日) 21:33:16 >> 603

    そんな旅をした。
    楽しくあろうと、楽しかった旅を。
    そうして着いたアルフィタリア盆地。

    「……」

    方角は北東。
    アルフィタリア城が僅かに見えるこの位置。
    まだ形として見れていないが、緊張が先に身体を支配する。

    「……」

    「怖いか、レビ?」

    「おにいさん……」

    「……」

    「俺達が付いてる!」

    「あぁ、大丈夫だ」

    「貴方の過去の仲間のようにはなれないけど」
    「皆、貴方を支える味方よ」

    「おにいさん、手握ってあげよっか?」

    「な、なら僕も握るよ。それで安心するなら……」

    「……」
    「……ハハっ……」

    だが、不思議と柔いだ。
    不思議じゃないか。
    俺を支えてくれる今を感じたから。
    お前たちが、生きろと俺に言ってくれから、出会えた縁。
    俺を確立させてくれている縁だ。

    「大丈夫、ありがとう」
    「行こう」

  • 607
    わったん 2026/04/26 (日) 21:33:40 >> 603

    夕焼けが染まる頃、アルフィタリア盆地の中央部にまで到達した。
    野営の準備をして、明日、ティダへ帰ることとなった。

    「……」

    俺が見る故郷は、俺の知る故郷ではないんだろうな。
    その事実を噛み締めながらも、俺は明日、現実と向き合う。
    そうしてはじめて、この世界を生き抜く事が出来る。
    何も知らず生きて往った方がいいんだろうな。
    でも、そうしないのは、俺にとってティダの記憶は大切だったから。
    決して忘れてはならない、人生の縮図だったから。

    「パマスの毛並みが酷いよ~」

    「野菜達は洗ったよな?じゃあ食材をこっちに!」

    「武器の手入れって職人感あっていいよな……」

    思い思いに過ごすキャラバン。
    俺も武器の手入れをしながら、夕餉の準備をする皆を遠くから眺めていた。

    「おにいさん、明日だね」

    少女が俺に声を掛ける。

    「……あぁ」
    「大丈夫って言ったけど、きっと俺は怖がると思う」
    「……君達に、どうか助けて欲しい」

    「勿論!私達は、おにいさんに助けられたんだもん」
    「助け合いっこだよ!」

    少女の笑みは、勇気そのものだった。
    過去に直面するこれから、この笑顔は俺の恐怖を和らげてくれる希望だった。
    きっと、俺と君の子も、こんな子だったんじゃないか。
    そう信じて疑わなかったな。

    「……あぁ、そしたら、これからも助け合いだな」
    「ティダの村に帰郷したら、その思い出を抱えて」
    「これからは君達と――」

    そうして平和な心で会話をしていた時。

    カンカンカンカンッ!

    魔物が現れた事を示す警笛。

    「襲撃だ!魔物の群れ、複数群確認!」

    武器を手に取る。
    野営に使用されていた火は全て消え、夕暮れの光が武器を照らす。

    「包囲されてんぞ……!」

    円を描くように、魔物たちはキャラバンを包囲する。

    「周囲確認はしたのに……生息地域でもないぞ!?」

    「気張れ!迎撃できなければ、物資を捨てて城に駆け込むぞ!」

    「距離がある!厳しいぞ!?」

    それぞれが状況判断をしながらも、その焦りは溢れるように迫っていた。

    「……」
    「盾を中心に扱うんだ」
    「包囲された時は、攻撃に隙が生まれる」
    「必ず防衛から入るんだぞ」

    子供達に盾を握らせ、前線に立つ。

    「凌ぐぞ……!」