カオスドラマX

Gray Traveller / 608

678 コメント
views
608
わったん 2026/04/26 (日) 21:34:46 修正

長期戦。
魔石や回復薬を扱いながら、魔物の群れを対処していく。
針の隙間さえ通さない程の密集した隊列は、一キャラバンを襲うには統率が取れすぎていた。
本来、魔物は群れを成さない。
縄張りでもなければ、盆地で集団戦を行うことなどあり得なかった。

「ファイア!/ブリザド!/サンダー!」

「パワーソード!/せんぷう斬り!/パワーボム!/オーラショット!」

数多の技が絡み合う。
俺も且つては戦いに身を置いた旅人。
前線に立ち、敵視を常に稼ぐ。
だが、その敵視に異常を感じる。

「――俺の居る位置に魔物が多い」
「前線に居るだけで此処まで寄ってくることは無い」
「意図的なものだ」

感じる違和感。
理性を放つ統率。
俺に対する執着。

「……」

絶望に叩き落された日。
水門に顕れたグリフォン。
あれもまた、違和感を覚える出来事だった。
そして現状の魔物の突撃。
剣を振るいながら過る一つの答え。

「――」
「ラモエ」

奴が俺を生かした意味。
それは「哀しい思い出」を欲するが故。
俺を通して、奴は俺が得た思い出を再び奪おうとしていたんだ。

「クソ野郎が――ッッ!!!」

そして同時に導き出される答え。
奴が狙うのは、『俺』だ。
ティパのクリスタルキャラバンを崩壊させる事は、一時の哀しみに過ぎない。
それはラモエの望む哀しみは生まれない。
なら何を望むのか。
俺単体から落とされる、絶望を振り払った思い出を、
再び絶望へと叩き落す思い出。

「――」
「――」
「――ッッ」

俺は帰る。帰るんだ。必ず帰る。
絶対に、帰る。
それは俺が再び生きる上で決めた、最も大切で、俺の核となる部分。
何をしてでも帰る。例え何かを捨てても――。

「――」

背後で戦うクリスタルキャラバンの面々に視線を向ける。
彼らと共に戦い抜き、魔物の群れを制覇出来ればいい。
そうだ。捨てる必要なんてない。
俺には、今、仲間が――。

「――」

通報 ...
  • 609
    わったん 2026/04/26 (日) 21:36:04 修正 >> 608

    画像1

    実体はないが、確かに奴がいた。
    笑っていた。
    嘲笑うかのように。
    それと同時に過る記憶。
    ラモエによって最期を遂げた、仲間達の残滓。
    俺は、矛盾していた。
    帰郷の為に、彼らを利用するべきだ。
    でも、護らねばならない。
    俺が紡いだ希望を、此処で潰す訳にはいかないんだ。
    どうすればいい。
    お前は、俺にどうして欲しいというのだ。
    ラモエ。

    「――」

    ……。
    護る。
    その上で、俺は帰郷する。

    「――」

    俺は

    「――おにいさん……?」

    お前の言いなりにならない。

    「――どうか、希望を紡いでくれ」
    「――いままでありがとう――」

    中央に位置する馬車の天井に飛び移る。
    そうしてティダの方角を見据えた。

    「おい、レビ!なにして――」

    応える間もなく、俺は大きく飛び上がった。
    魔物の群れを超え、平地に着地する。

    「――」

    瘴気が身を焦がす。

    「おい!!レビ!!!!」

    魔物の視線が、全て俺に向く。
    やはり、ラモエがすぐに作った魔物だったか。
    俺に敵視が向くように設計されていた。

    「来――いよ」
    「俺は、此処にいる」

    キャラバンの包囲が解かれるのを確認した。
    群れは一心の乱れも無く、俺へと向かってくる。
    激痛の中、俺はただ、群れに追いつかれまいとティダの村へと走った。

  • 610
    わったん 2026/04/26 (日) 21:39:10 >> 608

    幾度も追いつかれ、幾度も薙ぎ払う。
    瘴気の中、俺はただひたすらに剣を振るい、歩いた。
    最早身体の感覚は失われていた。
    正気を保っていたかは、分からない。
    ただただ、闇雲に走り続けた。
    呼吸さえ出来ない、疲労の限界。
    でも分かる。あと少し。
    あと少しで、俺は村に着く。
    まだ見えない。もう少しで帰れる。
    ただいまを言って、けじめを付けるんだ。

    「ゲホッ……!ゲホッ!!!」

    吐血が止まらない。
    先まで攻勢に出ていた魔物は、もう居ない。

    「――」

    瘴気で身体が持たない。
    だが今は関係ない。
    この歩を止める者が居ない限り、俺は――。

    グシャッ……

    「……」

    『感動したぞ、ティダのキャラバン』

    「……」

    胸を突き刺す鋭利な爪。
    背後から聞こえる、邪悪の声。
    瘴気で蝕まれた身体が、楽になった。

    『何処までも足掻き、何処までも立ち直り、何処までも堕ちる』
    『キサマの救いようのない人生は、このラモエ、未来永劫美酒とするだろう』

    「……」

    あぁ、結局、こうなんのかよ。

    『手向けの花だ』
    『ティダの村の最期。それはこのラモエにとって』
    『それはそれは、またとない美味だった』
    『あの味は、二度と味わえない程』
    『残酷だったぞ』
    『キサマが今、味わっている瘴気の味を』
    『あの村の人数だけ、見る事が出来たのだ』

    611
    わったん 2026/04/26 (日) 21:41:52 修正 >> 610

    ……ダメだ……俺は、何が何でも帰る……。

    『どうした。キサマの声が聞きたい』
    『このラモエが、わざわざ現界してまでキサマに会いにきたのだ』
    『ならば、声を聞かせてくれ』

    帰るんだ……。

    『惨いな。生きる希望を見付けてしまったが故に』
    『キサマは死ぬというのに』

    あの、輝ける思い出が詰まった村に

    『希望を分け与えたのはティパの村か』

    絶対に、帰るんだ

    『さて、その希望が絶望に変わるのはいつになるか』

    俺は――。

    『……最早生を成さぬか』
    『興覚めだ』
    『……?』
    『……フハハハ!!キサマ、死して尚、帰ろうというのか!』
    『素晴らしい、素晴らしい信念だ!』
    『このラモエ、感服したぞ』
    『だが、惜しいな』
    『這い蹲ってでも背負ったその信念』
    『長く続く事はなかったな』
    『帰郷は出来ず、託された生きる希望も、潰えた』
    『ティダのキャラバンよ』
    『我が退屈を和らげた事』
    『感謝するぞ』
    『その魂、このラモエの魂魄に刻もう』

    もう少しで――。
    着いたのに――。
    俺は――。
    里に――。
    帰――

    画像1

    613
    わったん 2026/04/27 (月) 15:51:47 >> 610



    <帰りたい?>
    <それが、貴方の望む事?>
    <貴方の心はとっても痛そう。貴方が成せなかった帰郷が、貴方の魂を縛っているのね>

    <もう遅かったわ>
    <『旅人の思い出』から放出された記憶を、映像として認識出来る>
    <その故郷はもう既に、瘴気に覆われた無残な廃墟>
    <その前の存命していた故郷はどうかしら>

    <そう。貴方を待っていたわ>
    <皆、祈るように、キャラバンの帰りを。貴方達を待っていた>
    <誰一人、逃げる事無く、最後まで信じていたの>
    <滅びるその時まで、希望を捨てずに>

    <駄目よ、レビ。貴方のせいじゃない>
    <思い出してみて。この世界の原因は何なのか>
    <メテオパラサイトという巨大な存在が、思い出の管理人の存在を歪にした>
    <その歪が生み出した魔物の数々が、貴方達を苦しめているの>
    <そんな根源から腐った世界に、貴方一個人が成せることなんてあるのかしら>

    <そうね。決して諦める事のなかった貴方が諦めてしまったこと>
    <世界を救って、平穏の中で黄金畑の揺れ動きを眺めること>
    <でもそれって、貴方の生きてきた世界の中では、ほんの些細なことじゃないかしら>

    <そっか、貴方にとっては、その些細な願いが希望だったのね>
    <その希望を叶える為の、隣を歩く人達は居なくなってしまったけど>
    <貴方はそれでも前を向き続けようとしたのね>

    <尊い事だと思うけど、それって貴方がすべきことかしら>
    <レビ。ここは全てを曝け出すところ>
    <もう貴方はその世界に居ないの>
    <思い出の存在として、ラモエに取り込まれてしまった貴方>
    <そのラモエが今、私達の病巣に潜んでいるわ>
    <ここは都市>
    <貴方が居るべき世界じゃない>
    <例え貴方に実体が無くとも>
    <すべきことがあるでしょ>
    <言ってごらん>

    <世界は正しく見えて、貴方は正しくない>
    <そんな悲しい事、認められないよね>
    <だから自分の心に耳を傾けていいのよ>
    <貴方がこの都市でしたいことを>
    <矛盾に満ちていたとしても、それが貴方の望む姿>

    <光になって、溶けていって、貴方だけの色を咲かせるの>
    <自分の望んだ姿形になれるように>
    <自分の故郷に帰れるように>