長期戦。
魔石や回復薬を扱いながら、魔物の群れを対処していく。
針の隙間さえ通さない程の密集した隊列は、一キャラバンを襲うには統率が取れすぎていた。
本来、魔物は群れを成さない。
縄張りでもなければ、盆地で集団戦を行うことなどあり得なかった。
「ファイア!/ブリザド!/サンダー!」
「パワーソード!/せんぷう斬り!/パワーボム!/オーラショット!」
数多の技が絡み合う。
俺も且つては戦いに身を置いた旅人。
前線に立ち、敵視を常に稼ぐ。
だが、その敵視に異常を感じる。
「――俺の居る位置に魔物が多い」
「前線に居るだけで此処まで寄ってくることは無い」
「意図的なものだ」
感じる違和感。
理性を放つ統率。
俺に対する執着。
「……」
絶望に叩き落された日。
水門に顕れたグリフォン。
あれもまた、違和感を覚える出来事だった。
そして現状の魔物の突撃。
剣を振るいながら過る一つの答え。
「――」
「ラモエ」
奴が俺を生かした意味。
それは「哀しい思い出」を欲するが故。
俺を通して、奴は俺が得た思い出を再び奪おうとしていたんだ。
「クソ野郎が――ッッ!!!」
そして同時に導き出される答え。
奴が狙うのは、『俺』だ。
ティパのクリスタルキャラバンを崩壊させる事は、一時の哀しみに過ぎない。
それはラモエの望む哀しみは生まれない。
なら何を望むのか。
俺単体から落とされる、絶望を振り払った思い出を、
再び絶望へと叩き落す思い出。
「――」
「――」
「――ッッ」
俺は帰る。帰るんだ。必ず帰る。
絶対に、帰る。
それは俺が再び生きる上で決めた、最も大切で、俺の核となる部分。
何をしてでも帰る。例え何かを捨てても――。
「――」
背後で戦うクリスタルキャラバンの面々に視線を向ける。
彼らと共に戦い抜き、魔物の群れを制覇出来ればいい。
そうだ。捨てる必要なんてない。
俺には、今、仲間が――。
「――」
実体はないが、確かに奴がいた。
笑っていた。
嘲笑うかのように。
それと同時に過る記憶。
ラモエによって最期を遂げた、仲間達の残滓。
俺は、矛盾していた。
帰郷の為に、彼らを利用するべきだ。
でも、護らねばならない。
俺が紡いだ希望を、此処で潰す訳にはいかないんだ。
どうすればいい。
お前は、俺にどうして欲しいというのだ。
ラモエ。
「――」
……。
護る。
その上で、俺は帰郷する。
「――」
俺は
「――おにいさん……?」
お前の言いなりにならない。
「――どうか、希望を紡いでくれ」
「――いままでありがとう――」
中央に位置する馬車の天井に飛び移る。
そうしてティダの方角を見据えた。
「おい、レビ!なにして――」
応える間もなく、俺は大きく飛び上がった。
魔物の群れを超え、平地に着地する。
「――」
瘴気が身を焦がす。
「おい!!レビ!!!!」
魔物の視線が、全て俺に向く。
やはり、ラモエがすぐに作った魔物だったか。
俺に敵視が向くように設計されていた。
「来――いよ」
「俺は、此処にいる」
キャラバンの包囲が解かれるのを確認した。
群れは一心の乱れも無く、俺へと向かってくる。
激痛の中、俺はただ、群れに追いつかれまいとティダの村へと走った。
幾度も追いつかれ、幾度も薙ぎ払う。
瘴気の中、俺はただひたすらに剣を振るい、歩いた。
最早身体の感覚は失われていた。
正気を保っていたかは、分からない。
ただただ、闇雲に走り続けた。
呼吸さえ出来ない、疲労の限界。
でも分かる。あと少し。
あと少しで、俺は村に着く。
まだ見えない。もう少しで帰れる。
ただいまを言って、けじめを付けるんだ。
「ゲホッ……!ゲホッ!!!」
吐血が止まらない。
先まで攻勢に出ていた魔物は、もう居ない。
「――」
瘴気で身体が持たない。
だが今は関係ない。
この歩を止める者が居ない限り、俺は――。
グシャッ……
「……」
『感動したぞ、ティダのキャラバン』
「……」
胸を突き刺す鋭利な爪。
背後から聞こえる、邪悪の声。
瘴気で蝕まれた身体が、楽になった。
『何処までも足掻き、何処までも立ち直り、何処までも堕ちる』
『キサマの救いようのない人生は、このラモエ、未来永劫美酒とするだろう』
「……」
あぁ、結局、こうなんのかよ。
『手向けの花だ』
『ティダの村の最期。それはこのラモエにとって』
『それはそれは、またとない美味だった』
『あの味は、二度と味わえない程』
『残酷だったぞ』
『キサマが今、味わっている瘴気の味を』
『あの村の人数だけ、見る事が出来たのだ』
……ダメだ……俺は、何が何でも帰る……。
『どうした。キサマの声が聞きたい』
『このラモエが、わざわざ現界してまでキサマに会いにきたのだ』
『ならば、声を聞かせてくれ』
帰るんだ……。
『惨いな。生きる希望を見付けてしまったが故に』
『キサマは死ぬというのに』
あの、輝ける思い出が詰まった村に
『希望を分け与えたのはティパの村か』
絶対に、帰るんだ
『さて、その希望が絶望に変わるのはいつになるか』
俺は――。
『……最早生を成さぬか』
『興覚めだ』
『……?』
『……フハハハ!!キサマ、死して尚、帰ろうというのか!』
『素晴らしい、素晴らしい信念だ!』
『このラモエ、感服したぞ』
『だが、惜しいな』
『這い蹲ってでも背負ったその信念』
『長く続く事はなかったな』
『帰郷は出来ず、託された生きる希望も、潰えた』
『ティダのキャラバンよ』
『我が退屈を和らげた事』
『感謝するぞ』
『その魂、このラモエの魂魄に刻もう』
もう少しで――。
着いたのに――。
俺は――。
里に――。
帰――
<帰りたい?>
<それが、貴方の望む事?>
<貴方の心はとっても痛そう。貴方が成せなかった帰郷が、貴方の魂を縛っているのね>
<もう遅かったわ>
<『旅人の思い出』から放出された記憶を、映像として認識出来る>
<その故郷はもう既に、瘴気に覆われた無残な廃墟>
<その前の存命していた故郷はどうかしら>
<そう。貴方を待っていたわ>
<皆、祈るように、キャラバンの帰りを。貴方達を待っていた>
<誰一人、逃げる事無く、最後まで信じていたの>
<滅びるその時まで、希望を捨てずに>
<駄目よ、レビ。貴方のせいじゃない>
<思い出してみて。この世界の原因は何なのか>
<メテオパラサイトという巨大な存在が、思い出の管理人の存在を歪にした>
<その歪が生み出した魔物の数々が、貴方達を苦しめているの>
<そんな根源から腐った世界に、貴方一個人が成せることなんてあるのかしら>
<そうね。決して諦める事のなかった貴方が諦めてしまったこと>
<世界を救って、平穏の中で黄金畑の揺れ動きを眺めること>
<でもそれって、貴方の生きてきた世界の中では、ほんの些細なことじゃないかしら>
<そっか、貴方にとっては、その些細な願いが希望だったのね>
<その希望を叶える為の、隣を歩く人達は居なくなってしまったけど>
<貴方はそれでも前を向き続けようとしたのね>
<尊い事だと思うけど、それって貴方がすべきことかしら>
<レビ。ここは全てを曝け出すところ>
<もう貴方はその世界に居ないの>
<思い出の存在として、ラモエに取り込まれてしまった貴方>
<そのラモエが今、私達の病巣に潜んでいるわ>
<ここは都市>
<貴方が居るべき世界じゃない>
<例え貴方に実体が無くとも>
<すべきことがあるでしょ>
<言ってごらん>
<世界は正しく見えて、貴方は正しくない>
<そんな悲しい事、認められないよね>
<だから自分の心に耳を傾けていいのよ>
<貴方がこの都市でしたいことを>
<矛盾に満ちていたとしても、それが貴方の望む姿>
<光になって、溶けていって、貴方だけの色を咲かせるの>
<自分の望んだ姿形になれるように>
<自分の故郷に帰れるように>