わったん
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2026/05/11 (月) 21:46:44
黄金に輝く穂波が風を導く。
萌え往く葉先を伝うクリスタルの輝き。
その輝く元の概念の表情を伺う事は出来ず、
ただ敵意の表れを握りしめた拳で示すのみ。
対峙する都市の人間は、背の鋼鉄に手を伸ばし、
弧を描き、その信念を打ち砕く事を誓うかのように抜剣を成した。
鋼鉄に反射する橙にも溶ける日の光が、空間により彩を落とす。
『俺の歩む道は濁流に飲まれている』
『そして此処には堕ちた天使を欲する抜け殻と』
『犠牲の血を見ずして、帰郷を拒んだ穢れた希望』
『お前は、この絶望の世界で、明日への希望を投げ出すんだな』
「零れ落ちた希望の欠片」
「忘れてはならない矜持」
「方向標に沿って輝く思い出」
「だが、時は心を摩耗させる」
「どれほど強く願った想いも、どれほど激しく焦がした想いも」
「その人に紡がれたどの軌跡も」
「決して溢さずにはいられない」
「人は誰しも、希望を抱えながら」
「隣接する絶望に打ちひしがれる」
「故にこそ、記すんだ」
「自身の生きた証を、自身の紡いだ光を」
「レビさん、貴方が示した物語」
「俺の原点」
「今は、ぶつかり合うしかない」
「これは、俺が俺であるから」
「方向標の途中の物語だから」
『俺達は己の運命を投影する作者』
『物語は、二つも要らない』
『……もう、話す事も、話したい事も消え失せてしまった』
『終わりにしよう、ユンフ』

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―22区―
緩やかで長閑な雰囲気を保っていた麦畑。
遠方に見えるビルは、麦畑に囲まれながらも都市の空間を保つ。
「いやぁ、豊作だな!」
村人の笑みと共に、稲が刈られていく。
黄金の恵みと、希望を享受した村人達は、傍らで遊ぶ子供達を見て、
幸せそうに口角を上げていた。
「……おや」
老人の一人が、ビルへと顔を上げる。
「揺れてるわね」
女性もまた、何処か寂し気にビルへと視線を向ける。
「すっげー!戦ってるんだ!」
子供達は田舎道まで駆け寄り、両手を振ってビルを見上げた。
ド ン ッ ッ ッ ! !
「村長と仲違いでも起こしたか」
「まぁ、そうなるだろうなぁ」
「村長は不器用だ」
「そして、ユンフも不器用だ」
「なら、不器用な者同士」
「お互いの意地をぶつけるのが」
「お前たちの世界では、普通なんだろうな」
「……」
「都市の人間の俺達がどうこう出来る問題じゃないけど」
「どうか、希望のある結末を迎えてくれ」
「透明の軌跡」
硝煙が塊となり、割れた窓から逃げていく。
黒煙は最早視界さえ奪う暗黒であり、
手練れであっても烈火の中で立ち回る事など困難だっただろう。
生憎、俺の視点に映るのは、薄汚れた都市の空気なんかじゃなく、
帰郷を願う一人の青年のねじれた姿のみ。
結晶内部から伸ばされた掌。
それは威圧ではなく、招きにさえ思える。
俺を理解しているとでもいうかのように、里帰りは黄金色の結晶から色鮮やかな小さな結晶を出現させた。
二者の狭間で、無数の結晶片が炸裂する。
迫りくるクリスタルの結晶。
蒼。
翠。
紫。
紅。
琥珀。
罪悪を司る色達を、ガンブレードで対処していく。
細かな粒子光が周囲へ拡散し、焦げた空気へ虹色の残滓を刻んでいた。
足元では草木が焼け焦げ、黒く縮れ、火粉が断続的に爆ぜる。
熱風が瓦礫の間を吹き抜ける度、灰燼が渦を巻き、視界を薄く濁らせた。
結晶が、脈動している。
鼓動だった。
生き物のように。
あるいは、未だ燃え尽ききれていない怨念の核のように。
「――ッ」
――。
里帰り。
レビさん。
俺は、貴方と同じだった。
そして、逆でもあった。
冒険の始まりは、決して美しいものではなかった。
だけど、美しく彩りを保った人がいた。
認識した重責は、簡単にも絶望の園へと誘った。
だけど、希望を捨てず、勇気を教えてくれる人がいた。
自分自身を司る感情は、在ってはならないものだと思った。
だけど、手を引っ張り、生きる事を誇示してくれる人がいた。
貴方は、俺にとっての大切な人を喪ってしまった人だ。
だから、今の俺が居る。アトリちゃんが居る。
皮肉な話だよな。
ティダの村の存続と、ティパの村の存続は決して共鳴する事は無い運命だった。
決して並列を成さない世界。
だが、俺達は繋がっている。
横に繋がる事は無くとも、貴方から伸びた線は、俺達を紡いでくれている。
レビさん、貴方は既に、俺の過去を垣間見ているだろう。
感情を抑圧した日々から、彩りを経て、
再び憂鬱に沈んでしまった日を。
でも、それはラモエから切り取った俺の一部に過ぎない。
彼女が眠ってしまったその日から、俺は貴方と同様、生きる希望を失った。
だが、それでも、
蒔いた種が。
紡いだ思い出が。
指し示す方向標が。
俺という存在を伸し上げた。
貴方だってそうだっただろう。
数々の仲間が、故郷の人達が、愛する人が。
貴方という存在を希望と称し、信じてきた。
それは、魂の根源から染みついた善性。
貴方がティパの村に希望を紡いでくれたから、
俺はその延長線上に立つことが出来ている。
クリスタルキャラバンとして、貴方は成せなかった事があるだろう。
諦めてしまった事があるだろう。
でも、喪ったものだけじゃない。
貴方が残したものは、あの世界で芽吹いている。
レビさん。
俺は、貴方の未来なんだ。
貴方が成した、希望の紡ぎ。
それは、俺達なんだ。
瘴気の根源を倒し、思い出の管理人を制し、
世界に平和を齎した希望の欠片。
俺達は、成そうとしたことは同じだった。
だからこそ、相容れない。
貴方は故郷を。
俺は都市を。
駆け巡った月日は違えど、
其処に生きた証は在り、
思い出が、種が、咲き芽生える。
旅に正解はない。
心の中にある方向標さえ失わず、
ただ歩むことが出来れば、
自分自身の定めた目的地にたどり着ける。
理解し合う必要は無い。
違いのやりたい事。
貴方がそうだったように、
俺もそうするだけだ。
納得する事はないだろう。
俺が今、成そうとしている事は、
貴方からすれば理解に程遠い幻想の標。
帰郷に心を灯す俺達が、手を取り合えなかった理由。
それは、俺にとって、これが帰郷に繋がる物語だと分かったから。
合点がいったんだ。
都市と俺達の世界を繋げるゲートがある。
其処に干渉する貴方を通して、
俺が成せる希望の紡ぎ。
俺は必ず成す。
俺の方向標。
絶対に、倒れる事のなかったこの方向標に沿って、
歩む。
だから、俺は、
都市の思い出を紡ぎながら、
貴方の事を止めながら、
アトリちゃんを助ける為に、
この『剣』を
ただ
今はただ
思うがまま
力の限り
貴方に意地を見せるために
力の限り
振り上げる。
『……』
「……」
結晶が破壊された里帰り。
都市の夕焼けに、結晶内の風景が溶け始める。
『……』
『結局……俺は帰る事すら出来ないのか……』
「……」
「……」
「……」
『俺はティパの村を救ったってのに……』
『そのお返しがこれなのかよ……』
「……」
「……」
「……」
『でも、それでいいんだ……』
『お前のやりたいこと』
『それは、愛する者の記憶を持ち帰り、里帰りする事』
『ははは、なんだよ、世界を救う事も、帰る事も』
『全部、全部……お前がすんのかよ……俺じゃなく、俺に救われたお前が……』
「……」
「……」
「……」
『やれよ……』
『お前は都市の人間……』
『染まっちゃいねぇだろうけど、所詮は都市の思い出を選んだ利己的な人間だ』
『俺と言う過去を殺して、お前の行路を示せ』
『俺と言う存在を呪いとして抱き』
『せいぜい、苦しみながら生きていけ』
『俺が紡いだ、俺が残した』
『ティパのクリスタルキャラバン』
「……」
「……」
「……」
「大切な人達を喪うことは苦しい」
「だからこそ、俺は喪わないように歩み続ける」
「……そして喪ってしまった人の為には」
「楽しかった日々を思い出すことで、繋ぎとめるんだ」
「俺の心の中に」
『……』
「レビさん、貴方がしようとしたことだ」
「本当は、したかったこと」
「でも、いずれ選択の時が来る」
「全てを選び、何もかもを手に入れる事が出来れば、それは最上の幸せなんだろうな」
「それは無理な話なんだ」
「何かを選んだ上で、何かを捨てなければならない」
「都市では、そんな決断を幾度も経験してきた」
「……そうなったとき、何を選択できるか」
『……』
「結局、自分の心に従うしかないだろ」
「貴方は『声』を聴き、帰郷を望んだ」
「あぁ、そうだ。それは、貴方が捨てた望み。選択したもの」
「だから、俺達はこの世に思い出を残す事の出来る存在となり」
「世界を救うキャラバンになれたんだ」
「……本当に、感謝している……」
「月並みな言葉でしかないが、俺はレビさんを、命の恩人だと」
「希望の存在だと、そう思っています」
『……』
「貴方の心根を掘り返して、ねじれた姿を戻そう、なんて」
「そんな事は考えていないよ」
「まだ、踏ん切りがつかない」
「……でも、今、こうして話していて思うのは」
「貴方も、ティパの村にミルラのしずくを流した時」
「俺が抱える以上の恐怖と、喪失感と、戦っていたんだろうな……」
『……』
「テトさんは、貴方を待っていた」
『……』
「アトリちゃんは、俺を待ってくれていると思う」
『……』
「俺達は、一緒であって、そうでない」
『……』
「だから……」
「……俺は……」
「――」
「――」
「――」
『……』
「――」
「――」
「――」
「俺のやり方で」
「俺の軌跡で」
「貴方を救ってみせる」
「レビさん」