かとかの記憶

宇宙説話 / 46

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katka_yg 2025/11/18 (火) 23:57:28 修正

冬がくると悲しくなる理由

山あいの村に住む兄妹がいた。幼い妹は体が弱く病気がちで、命はもう長いことはないのだった。だから、兄は妹の望むことはなんでも叶えてやったし、叶えてやろうとしていた。

ある秋の日、妹が兄に「秋になるとどうして悲しい気持ちになるのか」と訊ねた。妹の物思いにいつも努力して付き合ってやる兄は、他愛ない質問にも頭をひねって、日が傾くのが早くて空に金色の光を投げかける時間が長いから……とか、草木が一斉に色を変え 簡単には言い表しがたいグラデーションの印象……、朝夕の寒々とした空気の肌触り……、やがて冬の訪れの予感……など、思いつく言葉をあたまの中で挙げてみたが、どれも秋の悲しい理由を言い当てているとは思えなかった。

妹は、とりとめない自分の気持ちを傍で兄に聞いてほしかったのだけれど、兄は、そんな妹に「悲しいことなどないのだ」と言いたかった。だから、秋の悲しさのわけを探しに出かけた。妹のための答えを考えながら、少年が怒ったような顔をして歩いていくと、集落の外れで小さなフェラリオに出会った。フェラリオは道ばたの境界石に腰かけていた。フェラリオは今も北ヨーロッパ地区に多く住んでいるが、子供にしか見えない。

フェラリオは思い詰めたようすの子供に訊ねてわけを聞き、秋になると悲しくなる理由については、ハンターにきけと言った。言うとたちまちフェラリオは姿を消した。あやふやなことを言って気まぐれに消えてしまうところも子供にしか見えなかった。

若い頃に地球に来たというマハの老人は、特別区で狩れるものは狩り尽くしてしまい、今は秋の山で紅葉を狩ることだけを生きがいにしている。少年の質問に答え、山脈を越えてゆく渡り鳥達も、冬毛に替わるうさぎやキツネも、啼く鹿も、秋が運んでくる悲しさのわけは知らない。さあ行け。藪に伏せているバグに気をつけて帰るがいい。ハンターの思わせぶりな言い方が少年は気になった。木の枝をとって道々に藪をかき分けていくと、やがて、地面に半ば埋もれ、ぎざぎざして突き出している岩にそっくりに身を変えたバグを見出した。バグは何百年も前からここに潜伏しているが、秋ごとにくり返す悲しさの理由は知らない。理由があるものなら、機械としても知りたいものだと言った。山に住むものでバグより長く生きているのは、ドラゴであろう。

宇宙戦争の時代に降ったエンジェルの残骸には、今もそこを巣穴に逼塞する竜に似た獰猛なモビルスーツの強獣がいてドラゴ・ゴトラとかドラゴラーと呼ばれている。ドラゴは、やはり秋の悲しいわけは知らないが、そのことは聖カテジナが詳しいと教えた。秋の悲しさをたずねて旅する聖カテジナは、今時分はきっと近くのウーイッグあたりに来る頃だ。

午後の日射しがきらめくうちに街に近づくと、ちょうど向こうから、古びたワッパに乗った聖カテジナがやってくるところだった。少年は彼女に挨拶し、秋になるとなぜ悲しい気持ちになるんですかと訊ねた。聖女に伴われて集落に帰ると、家では幼い妹が息を引き取ったところで、ベッドのそばには母親が顔を伏せており、父親は妻の側に添いながら、少年の帰りを待っていた。

聖カテジナは家を離れて、山のドラゴのところへいき、そこに棲む荒ぶる竜を慰めた。そして、バグの鋸状の嘆きを収めさせ、ハンターの陰鬱な思い出を終わらせてやった。夜も更けてから元の村に戻ると、少年の家の戸口に佇んでいるフェラリオに微笑みかけた。この盲目の聖女には、子供にしか見えないフェラリオの姿がはっきりと見えるのだった。ベッドでは、少年は自分を責めるのにも疲れ、ようやく眠りについたところだった。

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    katka_yg 2025/11/25 (火) 01:39:03 修正 >> 46

    【潜伏型バグ】

    クロスボーンの時代に登場したという自動兵器バグは、無差別で非人道な虐殺兵器として忌み嫌われながらも後の時代まで複数の組織によって使われ続けた。バグの種類にも形態や用途のバリエーションが生じたことはわかっているが、バグの歴史はモビルスーツのそれよりも実態の明らかでない黒歴史でしかない。

    潜伏型バグは一般に「バグのイメージ」として描かれる大規模一斉殺戮でなく、暗殺または地域の社会不安の醸成を目的に散布される。比較的小型で隠密性にすぐれ、長期間にわたって稼働でき、土中に埋伏するか、自然物や身近な生活機器、玩具等に擬態することでも人目をあざむく。潜伏型の特徴として瞬間的に多人数の殺傷は期待せず、少数を継続的に殺傷し続ける。

    潜伏(アンブッシュ)バグは眼前に標的となる人間を発見しても必ず襲いかかるとはかぎらない。無作為な殺意には「この者を殺す」「この者は殺さない」という選別基準ははっきりしない。その場に惨死体以外の痕跡を残さず、一度の殺害を行うと移動し、再び次の殺害までの潜伏期間は数年から数十年に及ぶ。動機も規則性も確かでない犯行は地域の警察組織には対応が難しく、存在自体が認識されないまま散布から幾世紀を経て活動しているバグは猛獣とも、古来その地に棲む妖怪のような恐怖伝説とも化す。

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    katka_yg 2025/11/25 (火) 21:23:56 修正 >> 48

    古典SFでいうメンシェンイェーガーと化しているバグのこと。

    鉄仮面カロッゾは当時の地球圏の人口を火急に削減しなければならない課題のためにバグを用いた。その思想から派生した潜伏型バグの一体は、稼働してのち五百年間にわたる潜伏の間、機械的無作為に十七人を粛清した。

    平均して三十年に一人の間隔で淡々と殺し続ける行為は、その間の人口増加に較べればきっと微々たる戦果で粛清の大目標には一見して寄与しないが、未来にわたり恒久的に人類に災いをなし続ける意思をもつ。悪意のままに地に逼塞するもの。

    古典的なドラゴンやグリフォンのようには、バグは潜伏する巣に黄金や瑪瑙を蓄える性質はなさそうだが、黒歴史の中にバグ伝説はポピュラーな素材になっていそうではある。

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    【子供にしか見えないフェラリオ】

    ミ・フェラリオ、エ・フェラリオといったフェラリオの階級による区別とべつに、子供に見えるフェラリオ、大人にも見えるフェラリオもいることがわかっている。