かとかの記憶

生き神様考 / 16

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勇士の精神は破滅寸前に近づいているこのとき、彼の目にするものはみな声を上げ発言するような幻覚的な状態にある。自然の草花や動物、空や川、身近な器物が一斉に語り出すという不可思議な体験をしたことがある、という人はいると思う。

わたしはその経験あるが――そんな経験は「ない」という人は以後相手にしないので、そんな人はいないと思う。

森に入っていくとき、牧場の草は露を帯びて泣き、そこで罪の犯された土地は嘆いている。森の花々の中を歩いていけば、綺麗な花々さえ彼のやった凌辱、取り返しのつかない犯罪を思い起こさせる。ヒースの花は咎め立てしている。彼が少女を破滅させたせいで、その花は咲いて育つことがなかった。

この世のあらゆるものが語りだすのは、詩人の境地でもあるのだが、狂人の心境でもある。狂おしい心になったにしても、勇士は勇士なので、破滅する心の周りでものみなが喋り始めたとき、勇士は何よりも自分の剣を相手に訊ねてみる。

――俺みたいな罪人の血肉を喰らう気があるか、剣よ?
すると剣は、彼の言葉を理解してくれ、理路整然と答えるのだった。

「喜んで食べないことがなぜあろう、
罪深い肉を食べないことが、
汚れた血を啜らないことが?
わたしは罪のない肉を食べ、
汚れていない血を啜ってきた。」(『カレワラ』小泉保訳)

情け容赦もなく無辜の血を啜ってきた剣が、今や、有罪の者の血に対して躊躇うことがあるだろうか? それがあるじの望みなら、剣に任せればよい。勇士は地面に逆さに立てた剣の切っ先に胸を押し当て、自ら貫いて死んだのだった。

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    katka_yg 2026/01/21 (水) 23:47:48 修正 >> 16

    われら

    この話が理解できない人がいるだろうか? わたしはわかるが――「わからない」という者がもしいれば、そんな者は以後無視する、「そんなやつはいない」とみなすので、誰もがわかっていると考える。