- 「今日の海の気分はどうかな。船に乗るかい?ちなみに乗るのは俺もはじめてだ」おまえ陸サーかよ!?
- イリアはにぎやかな国だと聞いていても、遠くてここまで来たことなかった。港に《たんぽぽ号》を泊めて
- ハーバーの使用料を払うと、逆に何日か余分に滞在しないと割に合わないって思った。人間の宿泊費は安い
- 温暖な港町に滞在中、海辺の魚だいぶ釣って、あと、ここの大魚はわたしの手に負えなかったので、最後は
- 冒険者のネットで見た「山方面」を攻めてみようとトレッキング装備を固めた。「定番の穴場」だそうだ
- ふもとの神社に参拝し、峠越えの道を行く途中、脇に目立たない登り口がある。こっちは裏ルート
- 登り道は藪が深くて、秋口でも長袖必須。やぶ蚊よりヒルが危ない。蜘蛛の巣だらけ帽子必須。登りきると
- 藪を抜け、木々が開けて、そこに静謐な沼が広がっている。思わずほーーっと息をつく。水辺には
- 昔のミサイリスト像が立ってて、どれも風化して首がもげていた。たぶん一万年くらい人の目に触れてない
- 列をなして並ぶ首なしトルソはぶきみだった。でも足下に転がる石頭の、このひとたちの温和な無表情には
- 斬首された仏陀みたいな寂寥感あった。沼のはたに座って釣り糸を垂れていると、時を忘れるみたいで
- 静かだ。静止した沼が木漏れ日を映している。気がつくと……緑色の水面に、緑色の頭が一個浮かんでいて
- こちらをじっと見ていた。ぬっと水から浮きあがり、そいつはこちらにざばざばと歩いてきた
- わたしはとっさに釣竿を捨てて、護身用のデリンジャーで当てられる自信なかったけど、固まってしまい
- 不審者に襲われる小学生の気持ちわかったと思った。狂暴性をふりしぼり、近づいてくるそいつに
- 「南無八之地大菩薩」の八字をとなえ、しゃあっと髪を逆立ててやると、威嚇におびえたのか向きを変えた
- 河童の飛び込んだ沼にどぼんと波が広がって、興奮のさめないわたしは、あんなゴブリン敵じゃないわって
- 言いたいけど、あのまま襲ってきたらきっとわたしは死んでた。正直こわかった
- ニオベからカーク海域に入ると潮の色が変わる。空は灰色。この暗い空の色が、わたしには今なつかしい
- 船の向かう先は、わたしの島。波の上に標識ブイはなくても、海にも見えない道があって
- 遠くの海を見てくると、それがわかる……丘の上に、うちのアンテナがみえる。工作所の鉄塔が見えている
- 岸壁に船をつないで、身ひとつで船をおりた。波に洗われたコンクリートはローファーだとすべる
- 海に出て手に入れた、この島はわたしのたったひとつの領地。もちろん生まれ故郷じゃないけど
- ときどき帰ってくるここを、「わたしの家」というのかな。管理人さんに任せてあった、わたしのお花畑は
- わたしの手入れよりずっと綺麗にしてあって、ずっと元気そうな草花たちにわたしは少し嫉妬おぼえた
- 花壇の前で沈んでるわたしのメランコリーを管理人さんは放っておいてくれた。二時間くらいして
- わたしは部屋の勉強机から、窓の下の花壇をやっぱり見ていた。電子サンドイッチ、海月味コーヒーゼリー
- 来週にはまた船出する。わたしがこのまま、二度と帰ってこなくても、春には咲くんだよ
- 期末試験があけてようやくまた船に乗れる。海に出れる。《たんぽぽ号》の舵は錆びついてない?
- フジツボついてない? 友達と仲直りはしたけど、わたしが船乗りってことは言えない。たぶんずっと秘密
《シーツリーを放浪する船乗りの日誌 たぶんつづく》
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また民話、説話というわけではとくにない。これは過去に、Sea Treeのゲーム中のアイテム「釣り日誌ノート」(自分だけの記入する単文テキストを投稿して公開できる)で『電子海のはなし』の小花をフィーチャーして連続投稿していたもの。アスラの初期頃について触れているから2016年頃か。事典から用語に注記を入れつつ再掲。
『旅したいなー』はリスト表示から小花のプロフィールに書いてある。