Data Ghost (Martha Wells)
今度はスペースオペラ、というか、しがない宇宙運送業者のシップが遭遇したステーションからは応答がなく、あたかも無人のようなその事情を探る間にシップの乗組員が消えていく……。ステーションを襲った脅威の正体は何か? という、SFサスペンス。
言えば、古典的なシチュエーションなのだが。そんなに古典的でないSF要素は脳インプラントがあり、この時代の宇宙ワーカーには一般的な、脳直結のデータ・ストレージ・インターフェースで移植者には内言(心の声)としてインターフェースと対話できる。それもサイバーSFではすっかり見慣れたガジェットで、相当に古典的かもしれないが。本作の印象はここ数年のAI事情を踏まえている気がする。
その高性能モデル「インターフェース」をインストールしている主人公だけど、おかしな事情で上手く適合できず使いこなせない。機械の声にいつも煩わされ、苛々している。謎の宇宙の脅威に立ち向かう段では、これが凸凹の相棒になる。
ちょっとコミカルで、自立しきれない年頃の心情と、思春期の癇の強さと不安さと、思いがけないユーモアの発見。というと、『たった一つの冴えたやり方』みたいなものが先に連想されるが、リーのジュブナイルのヒロインっぽさでもある。素直に面白かった。第一話と同じく主人公のDeniは性別を限定しないtheyで指示され、今作ではそれにまた別の含みがあるのはすぐに想像がつくので、フェミニズムというよりは、ジュブナイル・ファンタジーだと思いたい。
作中、自分の心に心で語りかけるインターフェースを果たして信用していいのかという不安があるのは、タニス・リー作品でもテレパシー絡みのテーマでずっと続いている。前回Visシリーズでもmind talkのそれが不離だったが……案外、リーが「心の会話」をその後どれだけ掘り下げたのか把握されてなく、その方面でもトリビュートとしてコアなところを突いていると思う。
Deniの心の成長に焦点があって、謎解きで引っ張らないのもタニス的かもしれない。階段を昇って降りるフィジカルな描写に努力を尽くしている。
theyは日本語には訳せないな……。というか、読んでいる間はそれを意識しないようにしているが、ここには日本語で書いているのでやはり気になる。
まずそのジェンダーの文化が違うので、日本語であえてぎこちなくやってもいいんだが、前回は、それと関係ない箇所で一人称を「おれ」と呼ばせておくみたいな日本語独自の搦手を想像していた。「あたし」だったら必ず女子言葉になってる。
今回はそれでは行かない。「あたし達」と言っては言い過ぎな日本語だろう。英文では違和感のない「これ」とか「こいつ」という言い方は日本語では違和感が強いので、あらかじめそう言わせておくとか、か。原文を逐語訳しては作品を損なうのがわかっているので、和歌みたいな詩心が要るところだろう。ユーモア。