わったん
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2025/12/28 (日) 21:26:35
生気のない無機物の廊下に、人のものではない鮮血が壁に伝う。
先まで存在していた流動は既に潰え、その足元に転がる球体は動く事もなく。
死の概念は無いにせよ、その有様は決して生きていると形容できるものではなかった。
鋼鉄の側面に沿って流れる赤を振り払い、一人の男は戦闘意識を最早興味無さげに解く。
その対となるように、薄ら笑みを常に崩さなかった男もまた、E.G.Oを投げ捨てて小さく呻く。
「ハッハッハァァァ~~」
「お前本当に人間かよ」
「一介の工房製武器片手でこの幻想体の山を鎮圧するとか」
「つーか強化施術もしてねーし、教育強化マニュアルやら限界解除の影響もないんだろ」
自身の怪我、返り血。
戦闘痕跡を隠す事なく、オーウェンは不敵な笑みを崩さぬままユンフへと近づいた。
互いの瞳の色しか、まともに認識できない程に暗い中、二人はその視線を交わし続ける。
「互いに話すにはちょいと暗すぎだなここ」
「まぁ、俺という存在がいるなら、闇の中も光同然なんだがな……フッ……」
「……」
「補助電力がまだ生きている中央本部に行こうや」
散らばった肉塊を避けながら、オーウェンは暗がりを先導する。
彼はその後ろを、力なく追従していった。
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―中央本部 メインルーム―
神々しさの消滅した中央本部メインルーム。
在ったのは管理されることのなくなったエンケファリンの塊と、黒ずんだ血の跡のみ。
廃墟にも近しいその場で、二人の男は地べたに腰かける。
「ウェルチアース」と書かれたソーダ缶を片手に、互いに盃を上げた。
「いつぶりだろうなぁこれ飲むの」
「独特の香りと甘味、元気が溢れるこの感じが溜まんねぇのよ」
赤い缶を口から離し、わざとらしく「っかぁ~!」と喉を鳴らす。
その仕草を凝視し続け、やがて自分も手元に握った青いアルミ缶を口元に追いやった。
「……」
「炭酸水だな。仄かにソーダの味がする」
「俺はあいつに本能作業しかさせてもらえなかったのよ」
「チェリー味のジュースばっかり飲まされたのさ」
「お前が今飲んでんのは洞察作業の――」
「もう完飲したのか?男らしい飲みっぷりじゃねーか!」
「喉乾いても知らねーぞ。まぁどうしても欲しいってんなら俺の飲んでるコレやるよ」
僅かな雑談を挟む。
暗がりに眼の慣れた頃合い、静寂なL社の中で、互いの呼吸と服の擦れる音が神経に感覚を及ぼす。
そうして互いの神経が無残にも落ち着いてきた頃。
「――記憶に関する幻想体」
「お前が求めて、俺に会いに来た理由はそいつだろ」
憂いを帯びた柔和な笑みを、同情に近しい感情を以てして、オーウェンは口を開いた。
「俺は勘のいい男だから分かんだよ」
「しかも顔と性格もいい」
「時空閉鎖の概念の外からお前は俺に会いにきて」
「爺さんの後悔を背負って、更には其れさえ持って帰ろうとしていやがる」
「人の頼みを勝手に引き受けた。それを遂行する事は当たり前のこと」
「どうだかな。お前が主とする目的は、幻想体に関する情報を得る事のはずだ」
「その目的に達するために、爺さんとの縁を繋いだだけ。あとはどうとでもなる」
「だっつーのにお前は俺にわ~ざわざ指輪を見せた」
「本来要らねぇ過程なんだよそれは。結果に基づくにはあまりにも非効率的だ」
「あぁ、都市の人間ならな」
「だがお前はそうじゃねぇ。L社の外、都市や外郭どころか、その更に外の人間」
「俺達という存在と、そもそも無関係極まりない不純物」
「だからなんだろうな。無駄な過程を背負って、それを最後まで持って行って」
「……」
「あ~……」
「……」
オーウェンの言葉が途切れる。
ユンフが成そうとしている現状は、奇しくもオーウェンが取りこぼさず成そうとした夢であったから。
大事な餌を守る過程に意味を成さないこの世界で、それさえ許される事無く牢獄に囚われた人間の憂鬱たる表情が、
彼の瞳に入りこむ。
「……都市に生き往く人々の中でも、そうして過程を拾い上げる人はいる」
「俺は、そんな人達と向き合って、此処まで物語の種を蒔いていくことが出来たから」
「貴方も本来、そうなんだと思う。オーウェンさん」
「そして、そうしようとL社の中で護ってきたんだろ」
コトリッと缶を床に置く。
楽な姿勢で腰かけていたものの、その瞳からはオーウェンの本質を理解しようとする渦巻があった。
「フッ、よ~~~くわかってんじゃねぇ~の」
「オーウェン検定1級の道は近いぜぇ?」
「……で、なんでそー思うわけよ」
「ティファレトさんが言っていた」
「貴方の幻想体を管理するその姿勢は、誰にも傷ついて欲しくないものだと」
「そして、貴方の祖父も言っていた」
「貴方は、誰も傷つける事のない人だと」
「L社という地獄の中でさえ」
「貴方は誰よりも優しく、誰よりも強く」
「誰よりも諦めずに居たと思う」
ユンフは懐から取り出した指輪を眺める。
最早遠い日だったかのような、懐かしささえ覚えるその金属に、湾曲した自身の顔が映る。
それはまたオーウェンも同じで、暗がりの中でさえ見えるその小さな鏡に向かって、小さく笑みを浮かべた。
「お前が思うその人物像ってのはな」
「地獄の中で迷い、憂い、絶望し、諦めた奴にしか味わえない希望みてぇなもんだろうな」
「貴方は正しく生きようとしている」
「……だが、ある人格は貴方をまた別角度で評した」
「地獄を受け入れ、適応して「しまった」と」
自傷するかのような呼吸。
姿勢を更に崩し、オーウェンは天井を仰ぎ見た。
「夢見てたんだよ」
「都市に生きていた頃と違って、俺ァここで正義を貫けることを」
その声色は普段通り明るかった。
だが、同時に少し影を落としていた。
「俺ァL社に入った頃の記憶が曖昧だ」
「だが、ループを自覚出来るようになった時のことは鮮明に覚えている」
「ある幻想体の収容違反を止めた時だった」
「助けたんだよ。あらゆる職員やオフィサーを」
「誰一人として欠ける事を許さず、死の行進を止めた」
「いやぁ~、あんときは気持ちがよかったなぁ~」
「いつか来るボーナスのことでも考えながら、俺ァ眠りについた」
「当たり前のように明日が来るはずだってな」
「だが、希望の明日はやってこず、訪れたのは希望の昨日だった」
「同じ会話をする俺の仲間」
「同じアナウンス」
「同じ管理方法」
「夢の中だと思ってな」
「いつも通り過ごした。いつも通り救えたんだよ」
「また眠りにつく」
「覚えのある昨日」
「……絶望に塗れた昨日を過ごす事になったさ……」
「……お陰で、絶望を引きづった明日を迎えられた……」
「光の種シナリオの弊害」
「名称は知らねぇけど、そうなんだろうな」
「だから俺は抗ったよ。俺を構成するこの肉体が、記録されているものだってことさえ認識した」
「台本の一部でしかない俺。主役じゃねぇだろうよ」
「だが、モブだからといって正義を主張しちゃいけねぇ道理はねぇ」
「身を引き裂きながら、全てを護りたかった」
「だが全ては無に還る」
「俺の成す事は、なんの意味も成さねぇ」
「だが、それでも俺は諦めることはしなかったよ」
「最善の正義は貫けずとも、俺の思う最高の生存率を常に更新した」
「……まさか……」
「一回事に、俺は職員を見殺しにしながら、多くを救う事にした」
「エラーが何度も耳を殺す」
「その度に、死者を増やし、最低限を見定める」
「正しさだけじゃ誰も生きていけねぇ世界」
「だからといってその正しさの振れ幅を小さくする訳にはいかねぇ」
「俺は、死に往く仲間たちの絡みつく残像を思い出しながら」
「明日を迎え続けた」
ユンフに視線を戻す。
その瞳に映るのは自身ではなく、過去に起きた出来事を追憶するような虚ろな記憶。
オーウェンが最善を取るために見捨てた、職員との記憶。
「俺は、都市の人間になっちまったんだ」
「大切な仲間を見捨てて、L社の明日を得る事を選んだ」
「多分、壊れたって表現すんのが正しいかもな」
「だからこそ縋りたかったんだよ」
「俺の知る仲間達が生きる日々に」
「……」
「だけど俺は出来なかった」
「お前が評した俺のようにはなれなかった」
「全てを取りこぼさずに居たかったが」
「まぁ、それはカッコよすぎるからな」
「多少傷のある男の方が親しみ持てんだろ」
バツが悪そうに歯を見せて笑う。
そうして空気を換えようとした発言を基に、オーウェンは再び口を開いた。
「……お前の思い出、俺も見たぜ」
「額に収めて飾りたいほど綺麗な風景や、瓶に閉じ込めて部屋に保存したいほど鮮麗な人々」
「多くを護り、救い、成してきただろ」
「だが、たった一つの憂いがお前を此処に誘うまでに」
「その欠片は全ての正しさを投げうってでも集めたい一欠片」
「……クカカ……なんだろうな、なんか似てんな、俺ら」
「そうだな……」
「全てを魅了する程の美しさって奴を、俺もお前も兼ね備えてるからな」
「悪いな、身の上話すんのなんて初めてだったから、つい熱くなっちまった」
「元々聞きたかったことの一つだ」
「話してくれてありがとう」
「いいってことよ」
「ふっ、こうして礼を言われるのも何年振りだろうな」
「ったく、アイツら――」
「『わかりやすい照れ隠し』しやがって」
「――」
「クッ……クハハッッ!!」
「だぁーっははは!!!」
思わず自身の脚を叩きながら豪快に笑う。
「さてはハリーだな!?ったく、何処まで俺の事が好きなんだよ」
「おまけにその様子だと、アーリンも俺について話してたんだろうな!」
「どうりでくしゃみが止まんねぇわけだよ」
「雪の女王の決闘作業中並みにバカ寒かったのはそれが理由かよ!」
「……皆、貴方との思い出を持っている」
「確かに、もう手に取れる程、残っていない欠片かもしれない」
「それでも、貴方はそんな小さな欠片さえ集めようと、大事にしようと戦ってきたんだろ」
「この旅の終着点」
「そこに辿り着く迄は、言葉では言い表せないような苦痛が訪れる」
「だけど、その道中を乗り越えるには」
「そんな小さな欠片が、貴方の力になってくれるはずだ」
「喪い、砕け、奪われる」
「だが、その礎を記憶できるのは貴方だけ」
「……」
「そして、そんな貴方との記憶を語りつげるのも、俺だけです」
「オーウェンさん、貴方はこの地獄の中で最善を成そうと多くを考え抜いたと思う」
「そしてその上で、多くの犠牲を受け入れ、多くの感情と戦ってきたんだろう」
「背負う事が出来るのは貴方だけの戦いだ」
「背負う事が出来るものが限られている事も、過酷で苛烈で、本当に辛いことだと思う」
「だからこそ、やり遂げて欲しい」
「その過程で、確かに貴方を慕い、敬い、嫌ってくれている人たちの為にも」
「どうか最後まで、戦い抜いて欲しい」
「……」
「ったく、L社の物語ってのは俺達はお互いがイレギュラーなんだぜ?」
「だってのに、お前はその物語さえ美しく彩ろうって言うのかよ」
「俺には強く突き立てられた方向標がある」
「その過程が如何なる舞台であり、俺がどんな役であっても」
「俺という人間はその道を歩むただ一人の人間であるが故」
「だからその道の中で、貴方という人と会った小道でさえ」
「綺麗にしておきたいんだ。『楽しい道だったよ』って事も、伝えたい」
「そしたら、貴方の人生を少しでも彩れたんじゃないかって」
「俺の中で、貴方という存在をより良いものに出来るから」
「――」
「おいおいおいおい、お前マジでイケてんじゃねーの」
「くぅ~~~!オーウェン語録にお前が言った言葉丸パクリしていいかァ!?」
「こんなサイッコーに自己中心的でありながら」
「他者に投げかける言葉が優しい奴いるかよ!」
「あぁ、でも分かったぜ。お前、俺と居るから今輝いてんだな?」
「分かるゼェ~、俺という存在……っぱガイアが俺に輝けと囁いているわけだ……」
高笑いを交えながら、オーウェンは空になった缶を投げ捨てる。
軽い金属の音が響き、それを皮切りに彼は再び表情を小さく落とした。
「俺が記憶抹消技術の影響を受けなくなったのは、ある幻想体と接触してからだ」
「識別名称は『旅人の思い出(クリスタルクロニクル)』」
「あいつは自身を『ラモエ』と言っていた」
「……」
「その日、付きっ切りでそいつの管理をしてた」
「多くの情報を引き出している最中、俺の悲しい記憶が欲しいと叫んできやがった」
「幻想体ってのは何するかわかんねぇからな。俺は断って収容室を出ようとしたんだが」
「俺の脳内にあらゆるノイズが奔った」
「黒い甲冑のちいせぇ種族と、ヘンテコな服装をした詐欺師みてぇな奴」
「魔物に襲われて怯える人々や、瘴気に魘され嘆く人々……」
「……そして最後に、温かい『思い出』が流れ込んできた……」
「……そうか、誰かの家族とのあの思い出」
「お前が探し求める物の一端なのか……」
「……」
「その瞬間、『旅人の思い出』は収容違反を起こしてL社を攻撃し始めた」
「俺は交渉したんだ。俺の記憶をやるから戻れと」
「だが、アイツが求めたのは今までの記憶ではなく、この先の永劫の記憶」
「俺がL社で味わう地獄を、ひたすら食らいつくす物語」
「――」
「その日から『旅人の思い出』は出現しなくなった」
「そう、出現しなくなったという記憶があった」
「あとは話した通りだ」
「アイツは、L社の中で眠りながら、永遠に俺の記憶の一部を食っている」
「――」
「――」
「――オーウェンさん、俺は――」
オーウェンの現状。
それは、ラモエがこの世界に抽出されたが故に起きた地獄。
そのラモエを追いやったのは他でもないクリスタルキャラバンである彼。
ユンフは、その物語の元凶が自身にあることを悟ると、視線を落とした。
そんな彼を、オーウェンは酷く優しい目つきでただ見守り、次の言葉を待っていた。
「……」
言葉を紡ぐにはあまりにも責務が重すぎた。
彼はオーウェンのL社でのループ。その物語の過程を抱える利己的な指針を見せた。
だがその発端は自身にありながら、
地獄を味合わせている相手に投げかけた言葉がどれ程残酷であったかを心の中で渦巻かせていた。
「……俺の言葉が欲しいか?」
「……」
「お前なら大丈夫だろ?」
「……」
「いくらでも待ってやるぜ」
「……」
「待つのは得意なんだよこちとら」
「……」
視線を向ける。
オーウェンは小さく笑い、話してみろと手で合図をした。
「1万年にも及ぶ光の種シナリオの追行」
「その地獄に向き合わせてしまった……ラモエをやりきれなかったばかりに……」
「……」
「……申し訳ない……」
「……」
「……」
「その苦痛の物語は、美化するにはあまりにも黒く、壮大で、呪縛的だ」
「俺が信じ歩む道。その道を拓いたが故に、貴方という道を封じ込めてしまった」
「追憶する事のない、永遠の苦痛を、与えてしまった」
「……」
「だが、それでも……俺は……この道を……歩む……」
「そうだ」
「この残酷な物語でさえ、背負って行かなくちゃならねぇ」
「お前の瞳から見えたあの信念」
「お前は歩まなくちゃならねぇ」
「お前は、旅人だからだ」
「その軌跡は綺麗なまま、語り継ぐんだろ」
「あぁ……」
「……」
「しゃ~ね~な~……」
「手伝ってやるかー」
「お前は元の世界に帰って、アトリに多くを告げるんだろ」
「そしてこの道もまた、本に綴って読むんだろ」
「だったらシャキっとしろ」
「お前に心配されるほど、俺は柔なメンタルしてねぇの」
「つーか、1万年の苦痛だけじゃなくて、1万年の俺という存在を俺が放出させているんだぜ?」
「考えようによってはお得だろお得!ったく、求められるのも悪いもんじゃねぇな……」
「……」
「……オーウェンさん……」
「辛気くせぇこと言うんじゃねーぞ!」
「……ありがとう……」
「……ったく」
「元々俺はお前を責めるつもりはねぇよ」
「悪いのはそのラモエって奴だろ」
「ほ~んと、俺で良かったなァ!」
「俺という心も器も広い男じゃなかったら、こんなん耐えられねぇぜ!」
「……だからそんな悲しい顔すんじゃねぇよ」
「笑って会いてぇんだろ」
「俺もこの時の牢獄から抜け出す時、笑うって決めてんだよ」
「……」
「ユンフ、お前には感謝してるよ」
「正直複雑ではあんだけどな……」
「俺に多くの仲間と出会わせてくれた」
「いいか、これは俺の物語なんだ」
「俺が書く本には、大量の仲間の名前が綴られることになるぜ!」
「大作になること間違いなし!」
「ランク1時代の俺様物語から始まり、ランクEXの最強職員武勇伝!」
「極めつけは都市での物語でエピソード0!」
「んでもって……」
「お前の名前だって書くさ」
「――」
「お前だけじゃねぇぞー利己的な人間は」
「そして狂うんじゃねぇ、お前は見据えろ」
「方向標が突き立ってんだろ?迷い、憂うんじゃねぇ」
「その本質は何処までも、力強く」
「秩序さえ切り捨てる覚悟で突き進め」
「……ありがとう、オーウェンさん」
心の枷を取り除こうと、オーウェンはひたすらに笑った。
そうして笑みを浮かべた彼に、ユンフは指輪を取り出し、彼に差し出す。
「……持っていけるかも分かんねぇぞ?」
「貴方達が持つべきだ」
「貴方が取りこぼした欠片の一つ」
「大切な思い出だと思うから」
「ったく」
2つの指輪を受け取り、目の前で輪を見つめる。
常に不敵だった彼の表情は、子供のように柔らかく、そして純粋であった。
「爺さん、ただいま」
暗がりの空間の中、突如ユンフを包むように光が訪れる。
N社の時と同じ、転送を意味するものであった。
「ユンフ」
「頑張れよ」
「俺も頑張るからよ」
「――はい」
光が包み込まれる。
ユンフを形成していた粒子は潰え、その場に残ったのはオーウェンただ独り。
「……ったく……」
「やりきれねぇよな~……」
静謐な空間に、数多の呻き声が響いた。
O-09-115の収容室。
転送された時と同じ空間に、彼は足を付けていた。
「……」
「ラモエ」
L社で紡いだ物語。
その収穫は、旅人の思い出と表された幻想体である『ラモエ』が存在していたこと。
「ケジメは付ける」
「――待ってな」
そして、彼はただ――
何処にも属さない地図の前で、立ち尽くしていた。