自転車道場

僕の自転車半世紀の記録 / 11

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ディープインパクト 2025/07/13 (日) 14:09:27

第9回 プロとアマ
 競輪選手って自転車好きと思ってる人が多いかもしれません。その常識間違ってます。僕の見てきた競輪仲間だけで言うと「嫌いな人の方が多い」だから引退したら自転車乗らない。でもその気持ちなんとなくわかる。はっきりいって「自転車乗る=修行」、痛さ、苦しさに耐えて走る。理由はそれで金稼いでるから、それ以外に何もない。あんまり追い込むと朝、ハンドル見ただけで吐き気がする。お金あったら自転車なんか乗らないよ・・・他に稼げる仕事ないし・・・借金払わないとダメだし・・・。
 何かを背負わないと、とてもやってられない。

 ボクサーってお金もらえなくてもボクシングやるのかな??たぶんしないでしょう。自転車も同じ。
 僕の師匠が強かったのも才能というより「借金背負ってたから」高級車を次々と買い、1000万の車、一ヶ月で廃車にしたり、たぶん3億くらいは自動車で散財してる。ある日、次のレースで300万稼いでこなければ不渡りで破産だというとこまで追いつめられてレースに出発していった。そして3連勝で優勝し見事に300万稼いできた。副賞に自動車がついていて、それはすぐに売却。こういうのを背水の陣というんだろうな。競輪のようなハングリースポーツは余裕があるとクソ力は出ない。
 本当の姿は誰も知らないところにしかない。

 アマのチャンピオンとかが競輪選手になると下位クラスではそこそこの成績を残す、しかし上位20人のバトルには入ってこれない。師匠はよく100人までならアマの走りでも入れる、しかし上位20人に入るならプロになるしかないと言ってた。その違いは何を背負っているかだと思う。

 中野さんが世界戦10連覇できたのは「勝つ以外なかった」中野さんは日本を背負って戦った。世界の自転車三流国日本、レース用部品はカンパ、アンカンシェルが許されるのはカンパだけ、そんな時代に日本の部品だけで組んだナガサワのピストで戦った。日東のハンドル、新家のリム、スギノのクランク、和泉チェーン、三ヶ島ペダル、サンツァーハブ、日本はオールジャパンで戦った。

 一番危なかった6連覇のシングルトンとの戦いでは「中野を倒せばボーナスとして3億円」が用意された、自転車王国ヨーロッパがいつまでもアジアの三流国日本に世界一を続けさせるわけにはいかない。シングルトンは中野さんを骨折させ負傷棄権を狙って攻撃した。レースというより格闘技。でも競輪は格闘技の本家本元。自転車を転倒で壊され、肋骨を折られ、本来なら負傷で棄権だったけど骨折を隠し(ろっ骨折るとめちゃ痛いよ、僕もろっ骨折ったことあるけど・・)決勝で勝った。
 負けたら日本に帰れない、文字通り「決死の覚悟」、新家も日東も三ヶ島もみんな決死の覚悟で戦っていた。だから中野さんに棄権の選択はなかった。本当にオールジャパンでつかんだ10連覇だと思う。中野さんが新人の時にいろいろ教えた縁で師匠とはつきあいがあり、世界選の実録話を僕も聞かせてもらったけど、日本の社会全体が昭和の終わり頃、みんな世界一をめざして戦っていた。ホンダもソニーも任天堂も、今では自転車競技から遠ざかったパナソニックもオールジャパンの自転車競技を引っ張っていた。

 心が躍る、躍動するそんな時代のムードが漂っていた。ナガサワさんがデ・ローサに修行に行き帰ってきて中野さんと出会う。今ではリムを撤退した新家の技術者も真剣に世界一をめざして技術改良。アジアの端の島国、日本が世界を追い越せと動いていた。そしてJapan is NO1と言われる1990年に到達する。

 僕もSEになって世界で初めてのロボット開発してたけど、コスパタイパ、損得関係なしに「世界一」だから挑戦していた。今なら残業200時間なんて絶対許されないけど、Japan is NO1時代の技術者って、なりふりかまわず全力で突っ走っていた。僕は自転車で金稼ぎたいとは思えなかったのでプロの世界を知ってすぐ場違いを悟った。プロのメンタルとアマのメンタルは全然違う。そしてそのメンタルに周囲の圧力がかかると、とんでもない爆発力を発揮する。中野さんの世界10連覇を近くで見て日本が世界一になっていくのを見れたのは僕にとっては大きな財産だった。フランスで中野さんが神様扱いされて日本とのギャップにも驚いたけど、日本では自転車はマイナーなんだなあと実感。

 ツールドフランスで優勝するような日本人選手が出てきたら、この日本の自転車マイナー扱い変わるのかな??

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