カオスドラマX 検索除外

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654
わったん 2026/05/19 (火) 19:13:43

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653
わったん 2026/05/18 (月) 22:23:56 修正

「――大好きだよ……」

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「アトリちゃん」

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651
わったん 2026/05/18 (月) 22:20:32 修正 >> 647

「――」
「――」
「――」

「ユンフ」

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650
わったん 2026/05/18 (月) 22:19:55 修正

――あぁ、違う。

違う。君に話したい事、たくさんあるんだ。

でも、違う。

色んな思い出を君に伝えたい。

けど、違うんだ。

あぁ、口下手だよな。

くそ、皆の言う通りになっちまった。

……ありがとう。

こんな俺を、彩ってくれて。

本当に、ありがとう……。

俺は絶対、君にまた会いに行く。

それは先の事になってしまうけど、

いつか絶対おはようを言う。ただいまを言う。

絶対に言う。絶対に会おう。絶対に帰ってくるから。

だから、ごめん。

俺の罪を、その時に赦してもらおうと思ったのに、

俺は、ダメな奴だな。本当。

ごめん。

ごめんよ。

あの時言えなかった、俺の贖罪。

どうか、元気で居て欲しい。

俺の事を、思い出として抱えて欲しい。

――。

だから。

アトリちゃん。

俺は――。

君の事が――。

――。

――。

君の事が――。

649
わったん 2026/05/18 (月) 22:18:13 修正

そこからもいろんな人に出会ったんだ。

音楽を好み、家族の為に生きる事を決心した黒達。

人の本質を正しく律したいと願う探偵達。

都市の流れに抗い、導いてくれた赤の案内人と星に誇りを見出した壱の人。

その期待に応えてくれた方角を示した崇高。

利己を示し、俺の始まりを肯定してくれた正義。

誤った選択をし続けても、不変なる愛に身を置いた未来。

帰郷に焦がれても、死した者達の為に生きる事を選んだ希望。

そんな人たちと出会い、彩る旅をしたんだよ。

誰もかれもが、俺を透明の軌跡って呼ぶんだ。

俺、偉くなったみたいなんだ。

色んな人から注目される、そんな人になったんだ。

不思議だよね。俺、そんな柄じゃないのにさ。

君に会いたいってだけなのに、

色んな軌跡を描いていったんだ。

君に向かって伸びる道。

俺の方向標。

君という太陽。

――。

――。

――。

648
わったん 2026/05/18 (月) 22:17:02 修正

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――。

――。

――。

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アトリちゃん。

俺、たくさん旅をしてきたんだ。

君の記憶を追って、都市って世界に来たんだけど、

最初に歓迎会を開かれちゃってさ。

掃除屋って奴らの相手するはめになって。

それで、黒霧事務所ってところに配属するフィクサーになったんだ。

最初は9級フィクサーでさ、猫探しとか、人探しとか色々して。

あ、フィクサーっていうのは、便利屋で。

恩人との約束で、綺麗なまま君に会う為に、いろいろあって……。

ガンパウダー工房のフィクサーになったんだ。

ならず者の宿舎に居候させてもらったり、

笑う顔に君と俺の話をしたりしたんだ。

色の無い街、時間で色々売買するんだよ。

そんなところで新しい友人が出来て。

太湖という広い湖にも行ったんだ。

泳ぐのも一苦労でさ、本当、参ったんだよ。

そしたら、1級フィクサーになってて。

戻ってきたら、裏路地を牛耳る指達に因縁付けられてさ。

礼儀だったり、信仰だったり、義理だったり、芸術だったり、仁義だったり。

後悔を消し去りたいっていう人もいて。

そんな旅をしていたら、皆が俺を覚えてくれて。

愛と苦痛を解く人と戦って、多くの人に助けられて、

透明の軌跡、なんて言われる特色になった。

そう、特色になったんだ。1級フィクサーの中でも、上澄みの存在だってさ。

まさか俺が、色なんてなかった俺が『色』を授かるなんてね。

でも、透明ってなんだよって話だよな。

どうせなら君の色が良かったなんて思ったよ。

647
わったん 2026/05/18 (月) 22:10:22 修正

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――。

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ページを――。

――。

――。

――。

――。

アトリ……ちゃん……。

646
わったん 2026/05/18 (月) 22:06:36 修正

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645
わったん 2026/05/18 (月) 21:57:04 修正

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644
わったん 2026/05/18 (月) 21:55:36

「――」
「――」
「――」

薄れていく。
俺の思い出。
全てがミルラに繋がっていく。
なんだろうか。
俺は、確かに歩んだものがあったはず。
歩んだ場所があったはず。
でも、感じられないけれど、
きっと……これで、いいんだよな。

「――」

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いやだ。

いやだ。

いやだ。

いやだ。

いやだ。

いやだ。

いやだよ。

破りたくない。

離したくない。

これは、俺の方向標

贖罪の旅。

なのに、なんで――。

――。

――。

――。

――。

――。

君と旅をしたい。

俺の利己

でも。

護らなくっちゃ。

を。

「――」

「――」

「――」

「――」

「――」

643
わったん 2026/05/18 (月) 21:52:10

開かれた冒険記の一頁に指を掛ける。
摘まんだ指先に、迷いはない。
この冒険記は、俺の記憶。
思い出で描かれた、俺の魂。
それを、今から、
俺は――。
――。
――。
……ハッ……。

「――」

俺の利己を貫き通す為に

「――」

へ還すよ。

「――」


みどりの美しい丘の間をぬうようにしてリバーベル街道を行くと――
キノコの森と呼ばれる場所に近づくほどに自分が小さくなって――

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大陸を二分するクトリーマ山脈にゴブリンの壁はある――
ギガ―スの主人に、ラミアの奥さん、トンベリコックまでそろって――

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ティダの村にミルラの木が育ったのは、村が滅んだあと――
平和の時代のシンボル、ヴェオ・ル水門――
ファム大平原の南の森の奥に、大きく口を開けたセレパティオン洞窟の――

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活火山であるキランダ火山は何があるかわからないので――
悪魔の巣窟デーモンズ・コート。多くのキャラバンがここを訪れるころ――

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コナル・クルハ湿原を訪れる。最果てへと長く続く橋に――
レベナ・テ・ラ――

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ライナリー砂漠――

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ヴェレンジェ火山――

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642
わったん 2026/05/18 (月) 21:46:41

手を、添える。
光り輝く冒険記。
俺を彩り、種、発芽、感情。
あらゆる利己を提示してきた、俺の結晶。
不思議と手先に震えはなかった。
心はまだ揺れ動いているというのに、
俺の身体は、さも覚悟を決めきったかのように動く。

「……」

あぁ、いやだなぁ。
これから俺は、
皆に示した軌跡を、
方向標を、
壊さなくちゃならない。
あぁ、本当に。
本当に……。
……。

「……」

……レビさん。
ありがとう。
俺は貴方という存在に命を紡いでもらっただけではなく、
希望として人生に方向標を打ち立て、
隣の太陽と共に瘴気を晴らす事が出来た。
その旅の延長線を俺が彩り、一人のクラヴァットが成した利己を、
思い出として描く事が出来たんだ。
貴方から貰ったミルラのしずく。
本当に、本当に遅くなってしまったけれど、
今ここで、
俺が返すよ。
それが、ティパのクリスタルキャラバンとして成したい、
利己的な村の物語だから。

「……」

……。
は……笑ってくれるかな。
……。
どうか、笑顔であって欲しいな。

「……」

640
わったん 2026/05/18 (月) 21:44:18 >> 637

<……>
<……>
<……>
<辛そう>
<ラモエの好きそうな、苦い顔>
<でも、決して哀しいからじゃない>
<希望を、紡ぐのね>
<思い出で>
<あなたの方向標を>
<……>
<あなたにとって、とても辛いことだけど>
<絶対に、成し遂げるわ>

「……」
「……」
「――ッ……」
「……」
「……」

<冒険記を出して>
<そして、とても美しく、そして残酷だけど>
<あなたの一つ一つの輝きはとても強くて>
<一度に総てを紡ぐ事は出来ない>
<その一つ一つを、貴方の手で手離して>
<しずくに変える>
<そうしたら、彼を帰して、彼女を還す>
<……出来る?>

「……」
「……」

「……」
「……」
「……あぁ」

639
わったん 2026/05/18 (月) 21:42:54 >> 637

「俺の思い出で」
「レビさんを帰してあげて欲しい」
「そうして、この冒険記に記された記憶を」
「――」
「――」
「アトリちゃんに、渡してくれないか」
「頼む。ミオさん」

<……>
<……でも、そうすると……>
<あなたの記憶は……>

「消えんだろうな」

<――>

「んな顔すんなって」
「見えないけど」

<……>
<あなたの冒険記>
<本当に、どこまでも強く輝く希望の灯火>
<でも、それは……あなたが歩くことの出来る>
<方向標なんでしょう>
<それが無くなったら、あなたは……>

「なんとかなる」

<いいえ>
<強がってもダメ>
<自分が一番よく分かっているはず>
<あなたは憂鬱から這いあがり>
<憤怒に身を焦がし>
<傲慢にも道を拓いて>
<想いを伝えようとした>
<でも、それはあなたを支える芯があったから>
<それが無くなってしまったら>
<あなたは……>

「……」

<まだ引き返せるわ>
<方法なんて探せば、きっと>
<あなたのやり方で、いくらでも――>

「これが」
「俺のやり方なんだ」

<……>

「ミオさん」
「頼む」
「これ以上」
「引き留めないでくれ」

638
わったん 2026/05/18 (月) 21:40:32 >> 637

「……」
「……」
「これは打算的な面もあるんだ」
「過去のティパのクリスタルキャラバン達は、レビさんをティダの村へと連れていこうとした」
「それは彼にもらった希望を体現したものであり、同時に彼に生きて欲しいと願うが故の利己」
「でも、それは叶わなかったんだ」
「きっと、悔しかったと思う」
「二度もレビさんに救われたティパの村」
「クリスタルキャラバンが受け継いできた希望」
「それは俺だって同じだ」
「俺だって、クリスタルキャラバンなんだ」
「だから、ティパの村の利己を貫き通すために」
「俺はレビさんを帰したい」

<……>

「其処までは、クリスタルキャラバンとしての俺の願いだ」
「本当の俺は……アトリちゃんを救いたい一心だ」
「そして其処には俺が居て、旅の続きをしようって」
「そう、言えたらなって……」
「……」
「でも、今、都市と故郷を繋いでいるのはレビさんなんだ」
「そして繋ぐ経路となったのは、ティダの村であり、俺の冒険記」
「全ては繋がっている」
「其処に思い出という鍵を差し」
「俺の持つ記憶、『旅人の思い出(クリスタルクロニクル)』を流し込めば」
「レビさんの帰郷と共に」
「この旅日記に秘められたアトリちゃんの思い出を、還す事が出来る」

<……>

「まさかティダの村のクリスタルキャラバンと都市で出会えるなんて思わなかった」
「ラモエの奴がいる事は、漠然とだが分かっていたし」
「L社でまとめた情報を考えれば、今も聳え立つ図書館ってところにまだ囚われているんだろう」
「其処に辿り着いて、奴から奪われたアトリちゃんの記憶を取り戻す事が」
「俺の都市におけるゴールだと思ったんだけどな」
「意外な結末ってあるんだよな」

<……ユンフ……>

「そうさ」
「確かにレビさんを見捨てれば、わざわざ俺がミオさんに頼み事なんてせずに済む」
「でも、それは出来ないんだ」
「彼ももう、俺の方向標の行路の一つに立ってしまった」
「そうなったら、もう」
「これから消え往く俺の思い出の一つになって欲しいって、願ってしまう」
「そうして描いた軌跡を」
「きっと、彼女も見てくれるだろうからって」

<……>

637
わったん 2026/05/18 (月) 21:39:13

―クリスタルワールド―

白一色に染まりかけた世界の中央。
空間そのものが結晶化したような、そんな世界。
ところどころに浮かぶ緑は、生命というより記憶の残滓めいて希薄で、
広大な無機質の中に取り残された色彩があった。

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<また、来てしまったのね>
<ユンフ>

全身を光で纏った存在が、声を響かせる。
光で輪郭を覆ったその声の主は、静かに浮遊しながらも、ユンフへと声を掛けた。

「見ていたんだろう」
「俺のE.G.Oから、全てを」

<えぇ>
<……思い出を、たくさん紡いだのね……>
<強く光り輝く思い出を>
<あの時のあなたは、満たしきれていないしずくだったのに>

「あの時の俺だって、一年で色々紡いだんだ」
「……と言っても、そうか」
「俺の隣に立っていたあの子は、もっと強く輝いていたんだもんな」

<そう>
<あの子は、決して忘れたくない思い出をたくさん抱えていた>
<だからこそ、ラモエに打ち勝てた>

「俺には無かった、光り輝く思い出か」

<今のあなたは、とても多くを紡ぎ>
<とても多くを抱いて、とても多くを語り継いでいる>
<本当に、本当に>
<綺麗で、強く輝いているわ>
<……>
<だからこそ、どうして此処に来てしまったの>

「……」
「思い出という『鍵』を以てして」
「貴方はラモエの元に導いてくれただろ」
「それは消えかけたものではなく、確かに覚えているもので築き上げた行路」
「……ミオさん」
「貴方の思い出の管理人としての力を、ミルラのしずくを築き上げる力を貸して欲しい」

<……それは……>

「俺の記憶で、ミルラのしずくを作る」

<……>

「消えかけた思い出ではなく、強く輝く光を纏う思い出で」
「その『鍵』で、俺の持つ『記憶』で」
「このE.G.Oごと」
「レビさんを帰すんだ」

<あなたのやろうとしている事は分かっている>
<……あなたの旅日記、そして記憶を触媒として>
<ティダのクリスタルキャラバンを帰すのでしょう?>
<でも、あなたはまだ生きている人間>
<都市という世界とはいえど、帰ってこようとする意志のある人>
<何故……>

636
わったん 2026/05/18 (月) 21:36:35 >> 633

「このミルラのしずくを、貴方が纏ったクリスタルに継ぎこみ」
「地下の川と繋がる事で、故郷との繋がりを確固たるものにする」
「その橋渡しを、俺がする」

『――』

「都市じゃ手に入らない」
「でも、ただじゃ帰れない」
「統合はさせたくない」
「……」
「……」
「あぁ……くそ……」
「難しいな」
「言葉が纏まらない」

『……何故、そこまで……』

「……」

『お前は、帰郷を願った人間だろ』
『成せる人間』
『なら、その全てを搔っ攫って生きていけばいいだろうが』

「都市のやり方に沿っていくなら……」
「今此処で、貴方を倒して、再び都市を駆け巡るんだろうな」
「本当はそうしてでも成し遂げたい事がある」

『なら!』

「俺は成せる人間なんです」
「貴方が築き上げた、希望の存在」
「だから」
「だいじょうぶ」

『――』

「俺に出来る恩返し」
「本当に今更だけど」
「ティパの村のクリスタルキャラバンとして」
「俺の出来る事」
「……そして、レビさん」
「お願いがある」

『――』

「生きて欲しいと願った人の分まで」
「どうか、貴方は旅をして欲しい」

『――』

「俺達の救った世界は、貴方が救ってくれた世界は」
「こんなにも高く、こんなにも広く」
「こんなにも美しいと」

『――』

「――」
「――」
「――」
「どうか」
「良い旅を」

旅人の思い出が強く輝く。
そうして放たれた光は、ビルの一室全体に広がり、
二人の姿を包み込んでいった。

635
わったん 2026/05/18 (月) 21:35:09 >> 633

『そいつがなんだってんだよ……』
『俺達がラモエと戦っている時、一切の姿を現さず』
『剰えラモエに吸収されたやつが』

「ミオさんは忘れ去られた思い出を基に、ミルラの木、そしてしずくを作っていた」
「今を生きる人々に希望を持ってもらえるよう、あの人は戦っていたんだ」
「思い出は不定形で、俺達がどれだけ想い焦がれていても、忘却に消え往くものだ」
「思い出すには、別の力が必要になったりもする」
「あの人は、思い出をそうしてしずくに変えて」
「生きる力を俺達に与えてくれていたんだ」
「その力は、やがて魂にまで澄み渡り」
「希望という名の太陽を心に灯す」

『……』

「違和感はあった」
「アトリちゃんの思い出を喰らったアイツが、俺の心根を示すようなE.G.Oを出すのか」
「だが、実際の所、クリスタルワールドで散っていったミオさんが築いた」
「ティパのクリスタルキャラバンの思い出の結晶だったんだろう」
「『旅人の思い出』」
「アトリちゃんがミオさんの問いに思い出で答え」
「ケアルで思い出をミルラに変えた残滓」
「俺と彼女の思い出が入り混じった」
「ミオさんが残した『記憶』そのもの」

『……』

「そんな思い出とは別に、人間ってのは『記憶』する」
「思い出とは異なる、無機質な概念」
「存在に刻まれた履歴」
「感情の有無すら問わず、ただ『在った』という事実を保存するもの」
「魂の深層に沈殿し続ける存在証明」
「例え忘れた事があったとしても」
「記憶という永続的な刻印は」
「嬉しかったことも、苦しかったことも、赦せなかったことも、愛したことも」
「其の全てが堆積し、圧縮して、一人の人間という鉱石を輝かせる」
「削れば痛む」
「砕けば散る」
「然し、磨けば――光る」

『……』

「思い出は『鍵』なんだ」
「感情が触れた過去」
「涙の熱、抱擁の柔らかさ、別離の冷たさ」
「忘れ去られてしまうもの」
「でも、そんな脆い鍵こそ」
「記憶という、魂そのものを変えてしまう強い輝きを、開放出来るんだろうな」

『……お前……』

「……レビさん、貴方は、忘れ去られてはならない人だ」
「それも、都市ではなく、故郷に刻まれるべき存在」
「貴方に今、必要なもの」
「決して今は手に入らないものだ。ただ帰るだけじゃない」
「貴方は、希望を持って帰らなくちゃならない」
「ケージいっぱいの」
『ミルラのしずく』を」

『――』

634
わったん 2026/05/18 (月) 21:32:07 >> 633

「場所が違うだけだったんだ」
「貴方は故郷で」
「俺は都市で」
「その過程で心の縁を彩った」
「だから俺は、決して都市を捨てようとはしない」
「俺の意地」
「本当は貴方の手を取りたくて仕方がない本能が、俺の心を抑え込もうとするけれど」
「……」
「全部、いい思い出にしたいから」
「俺は貴方を救う事にしたんだ」

『……』
『どういうことだよ……』
『何しようってんだよお前は……』
『俺を救うって事は……都市を消す事だぞ……』
『俺が何するか、分かってんのかよ……』

「貴方が世界統合を成す必要は無い」
「貴方は帰れるんだ」
「ティダの村に」

『は……どうやって帰すってんだ……?」

「このE.G.Oは、ラモエから抽出された自我の塊」
「都市と故郷を繋ぐ川へ、釣瓶を垂らしたが故に出来た産物」
「皮肉にも、俺が都市で紡いだ思い出も、故郷の思い出も綴られている」

『……お前の思い出……』
『お前の記憶となる、核か』

「レビさん」
「旅人は、胸に思い出を抱えて生きていくだけでなく」
「忘れない為に記録を持つ事だってする」
「貴方も旅日記を持ち、手紙を書き、思い出を残していったと思う」
「俺もそうだ」
「いつだって思い出は傍にあり、忘れないようにと記してきた」
「思い出は、過ぎ去った過去じゃない」
「これから出会う困難を打ち砕く為の、最も鋭く、最も温かな剣だ」

『――お前――』

「都市での出来事も例外じゃない」

『……』

「これは、俺の思い出そのもの」
「確かに外郭において、ラモエから抽出されたものかもしれないが」
「きっと、本当の抽出元は、もう片方の『思い出の管理人』なんだろうな」

――旅人の思い出(クリスタルクロニクル)
ティダの村という絶望の園から誘われる触媒であり、
ユンフの思い出を書き綴った故郷の冒険記。
其処には彼の軌跡が描かれており、
一人の少女を想う筆先が散りばめられていた。
それらの字は全て『思い出』として保管されている。
ユンフが冒険で得た彩り、蒔いた種、方向標。
あらゆる感情が乗った、彼だけのE.G.O。
外郭の研究所、L社の前身となる嘗ての存在。
その時代に培われた技術で、ラモエから抽出されたE.G.O。
いや、正確には、ラモエと共に誘われた思い出の管理人である、
『ミオ』から抽出されたE.G.Oであった。

633
わったん 2026/05/18 (月) 21:30:27

灰色の旅人

散り散りとなったクリスタルに映る風景は、
嘗ての故郷から見えた夕焼けの色。
項垂れる里帰りを前にして、透明の軌跡の手元には、旅人の思い出が強く輝きを放っていた。

『俺を……救う……?』
『バカが、縋りに縋ったミルラの結晶の中から引きずり出して』
『何言ってやがる……』

「ねじれを解決するためには段階が必要だ」
「強い信念を持った、叶うはずもない願望を掲げたねじれであるほど」
「その心の解消は難解だとされている」
「だから、まずは貴方に俺の声を聴いてもらえるよう」
「貴方にその世界から出てきてもらいたかった」

『……』

「レビさん」
「俺は、思い出を探し、作り、護るために都市を奔走する」
「最初はただただ取り返したかっただけなんだ」
「都市に着いたばかりの俺だったら、貴方の言葉に首を縦に振っていた」
「だけど、俺は軌跡を描いてきたんだ」
「7年目の旅路を、この都市で」

『どうせ、碌でもない旅だったんだろうが』

「本当、酷い世界だよ」
「命の軽さは勿論、人を傷つける事など造作もない世界構造」
「倫理観など掃き溜めに沈む砂より価値も無く、互いが互いを突き刺し合う世界だ」
「だが、俺はそんなクソッタレみたいな世界で」
「絶望に沈みながらも」
「それでも前へと進む人達と出会ってきた」

『……』

「その人達は、俺の軌跡に思い出を乗せてくれた」
「本に綴り、物語とする」
「俺の人生における小道だけど、いろんな方向に繋がった思い出」
「……レビさんが歩む道」
「俺は、その道に繋がった一つの小道で生きる存在」
「俺だけじゃない」
「レビさんの道に、色んな道を作った人たちが居ただろ」

『……』
『……』
『ミルド=デリス』
『ラ・セナ』
『トルブジータ』
『……テト……ホーリー……』

「俺達は、たくさんの記憶を抱えて、この世界に生きている」
「不安に押しつぶされそうになって、闇に心を預けたくなる夜があっても」
「俺たちが諦めずに生き続けていれば、世界は夜明けを連れてきてくれる」
「貴方が生きる始まりの朝に、大事な人たちの記憶が寄り添ってくれる」
「だから忘れないんだ。人の死を」
「恐れず生きて、繋いでいくんだ」
「それを、貴方は成そうとしたはずだ」

『……』

631
わったん 2026/05/11 (月) 22:05:19 >> 623

「――」
「――」
「――」
「俺のやり方で」
「俺の軌跡で」
「貴方を救ってみせる」
「レビさん」

630
わったん 2026/05/11 (月) 22:03:51 >> 623

「……」
「……」
「……」
「大切な人達を喪うことは苦しい」
「だからこそ、俺は喪わないように歩み続ける」
「……そして喪ってしまった人の為には」
「楽しかった日々を思い出すことで、繋ぎとめるんだ」
「俺の心の中に」

『……』

「レビさん、貴方がしようとしたことだ」
「本当は、したかったこと」
「でも、いずれ選択の時が来る」
「全てを選び、何もかもを手に入れる事が出来れば、それは最上の幸せなんだろうな」
「それは無理な話なんだ」
「何かを選んだ上で、何かを捨てなければならない」
「都市では、そんな決断を幾度も経験してきた」
「……そうなったとき、何を選択できるか」

『……』

「結局、自分の心に従うしかないだろ」
「貴方は『声』を聴き、帰郷を望んだ」
「あぁ、そうだ。それは、貴方が捨てた望み。選択したもの」
「だから、俺達はこの世に思い出を残す事の出来る存在となり」
「世界を救うキャラバンになれたんだ」
「……本当に、感謝している……」
「月並みな言葉でしかないが、俺はレビさんを、命の恩人だと」
「希望の存在だと、そう思っています」

『……』

「貴方の心根を掘り返して、ねじれた姿を戻そう、なんて」
「そんな事は考えていないよ」
「まだ、踏ん切りがつかない」
「……でも、今、こうして話していて思うのは」
「貴方も、ティパの村にミルラのしずくを流した時」
「俺が抱える以上の恐怖と、喪失感と、戦っていたんだろうな……」

『……』

「テトさんは、貴方を待っていた」

『……』

「アトリちゃんは、俺を待ってくれていると思う」

『……』

「俺達は、一緒であって、そうでない」

『……』

「だから……」
「……俺は……」
「――」
「――」
「――」

『……』

629
わったん 2026/05/11 (月) 22:02:50 >> 623

『……』

「……」

結晶が破壊された里帰り。
都市の夕焼けに、結晶内の風景が溶け始める。

『……』
『結局……俺は帰る事すら出来ないのか……』

「……」
「……」
「……」

『俺はティパの村を救ったってのに……』
『そのお返しがこれなのかよ……』

「……」
「……」
「……」

『でも、それでいいんだ……』
『お前のやりたいこと』
『それは、愛する者の記憶を持ち帰り、里帰りする事』
『ははは、なんだよ、世界を救う事も、帰る事も』
『全部、全部……お前がすんのかよ……俺じゃなく、俺に救われたお前が……』

「……」
「……」
「……」

『やれよ……』
『お前は都市の人間……』
『染まっちゃいねぇだろうけど、所詮は都市の思い出を選んだ利己的な人間だ』
『俺と言う過去を殺して、お前の行路を示せ』
『俺と言う存在を呪いとして抱き』
『せいぜい、苦しみながら生きていけ』
『俺が紡いだ、俺が残した』
『ティパのクリスタルキャラバン』

628
わったん 2026/05/11 (月) 21:59:26 修正 >> 627

振り上げる。

画像1

627
わったん 2026/05/11 (月) 21:58:50 修正 >> 623

俺達は、成そうとしたことは同じだった。
だからこそ、相容れない。

貴方は故郷を。
俺は都市を。

駆け巡った月日は違えど、
其処に生きた証は在り、
思い出が、種が、咲き芽生える。

画像1

旅に正解はない。
心の中にある方向標さえ失わず、
ただ歩むことが出来れば、
自分自身の定めた目的地にたどり着ける。

理解し合う必要は無い。
違いのやりたい事。
貴方がそうだったように、
俺もそうするだけだ。

納得する事はないだろう。
俺が今、成そうとしている事は、
貴方からすれば理解に程遠い幻想の標。

画像1

帰郷に心を灯す俺達が、手を取り合えなかった理由。
それは、俺にとって、これが帰郷に繋がる物語だと分かったから。
合点がいったんだ。

都市と俺達の世界を繋げるゲートがある。
其処に干渉する貴方を通して、
俺が成せる希望の紡ぎ。

俺は必ず成す。
俺の方向標。
絶対に、倒れる事のなかったこの方向標に沿って、
歩む。

だから、俺は、
都市の思い出を紡ぎながら、
貴方の事を止めながら、
アトリちゃんを助ける為に、

画像1

この『剣』を

ただ

今はただ

思うがまま

力の限り

貴方に意地を見せるために

力の限り

626
わったん 2026/05/11 (月) 21:55:44 >> 623

「――ッ」

――。
里帰り。
レビさん。
俺は、貴方と同じだった。
そして、逆でもあった。

冒険の始まりは、決して美しいものではなかった。
だけど、美しく彩りを保った人がいた。

認識した重責は、簡単にも絶望の園へと誘った。
だけど、希望を捨てず、勇気を教えてくれる人がいた。

自分自身を司る感情は、在ってはならないものだと思った。
だけど、手を引っ張り、生きる事を誇示してくれる人がいた。

貴方は、俺にとっての大切な人を喪ってしまった人だ。
だから、今の俺が居る。アトリちゃんが居る。
皮肉な話だよな。

画像1

ティダの村の存続と、ティパの村の存続は決して共鳴する事は無い運命だった。
決して並列を成さない世界。

だが、俺達は繋がっている。
横に繋がる事は無くとも、貴方から伸びた線は、俺達を紡いでくれている。

レビさん、貴方は既に、俺の過去を垣間見ているだろう。
感情を抑圧した日々から、彩りを経て、
再び憂鬱に沈んでしまった日を。
でも、それはラモエから切り取った俺の一部に過ぎない。

彼女が眠ってしまったその日から、俺は貴方と同様、生きる希望を失った。
だが、それでも、
蒔いた種が。
紡いだ思い出が。
指し示す方向標が。
俺という存在を伸し上げた。

画像1

貴方だってそうだっただろう。
数々の仲間が、故郷の人達が、愛する人が。
貴方という存在を希望と称し、信じてきた。

それは、魂の根源から染みついた善性。
貴方がティパの村に希望を紡いでくれたから、
俺はその延長線上に立つことが出来ている。

クリスタルキャラバンとして、貴方は成せなかった事があるだろう。
諦めてしまった事があるだろう。
でも、喪ったものだけじゃない。
貴方が残したものは、あの世界で芽吹いている。

レビさん。
俺は、貴方の未来なんだ。
貴方が成した、希望の紡ぎ。
それは、俺達なんだ。

瘴気の根源を倒し、思い出の管理人を制し、
世界に平和を齎した希望の欠片。

画像1

625
わったん 2026/05/11 (月) 21:50:12 >> 623

硝煙が塊となり、割れた窓から逃げていく。
黒煙は最早視界さえ奪う暗黒であり、
手練れであっても烈火の中で立ち回る事など困難だっただろう。
生憎、俺の視点に映るのは、薄汚れた都市の空気なんかじゃなく、
帰郷を願う一人の青年のねじれた姿のみ。

画像1

結晶内部から伸ばされた掌。
それは威圧ではなく、招きにさえ思える。
俺を理解しているとでもいうかのように、里帰りは黄金色の結晶から色鮮やかな小さな結晶を出現させた。
二者の狭間で、無数の結晶片が炸裂する。

迫りくるクリスタルの結晶。
蒼。
翠。
紫。
紅。
琥珀。
罪悪を司る色達を、ガンブレードで対処していく。
細かな粒子光が周囲へ拡散し、焦げた空気へ虹色の残滓を刻んでいた。
足元では草木が焼け焦げ、黒く縮れ、火粉が断続的に爆ぜる。
熱風が瓦礫の間を吹き抜ける度、灰燼が渦を巻き、視界を薄く濁らせた。

結晶が、脈動している。
鼓動だった。
生き物のように。
あるいは、未だ燃え尽ききれていない怨念の核のように。

624
わったん 2026/05/11 (月) 21:49:09 >> 623

―22区―

緩やかで長閑な雰囲気を保っていた麦畑。
遠方に見えるビルは、麦畑に囲まれながらも都市の空間を保つ。

「いやぁ、豊作だな!」

村人の笑みと共に、稲が刈られていく。
黄金の恵みと、希望を享受した村人達は、傍らで遊ぶ子供達を見て、
幸せそうに口角を上げていた。

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「……おや」

老人の一人が、ビルへと顔を上げる。

「揺れてるわね」

女性もまた、何処か寂し気にビルへと視線を向ける。

「すっげー!戦ってるんだ!」

子供達は田舎道まで駆け寄り、両手を振ってビルを見上げた。

ド ン  ッ   ッ   ッ !   !

画像1

「村長と仲違いでも起こしたか」
「まぁ、そうなるだろうなぁ」
「村長は不器用だ」
「そして、ユンフも不器用だ」
「なら、不器用な者同士」
「お互いの意地をぶつけるのが」
「お前たちの世界では、普通なんだろうな」
「……」
「都市の人間の俺達がどうこう出来る問題じゃないけど」
「どうか、希望のある結末を迎えてくれ」
「透明の軌跡」

623
わったん 2026/05/11 (月) 21:46:44

黄金に輝く穂波が風を導く。
萌え往く葉先を伝うクリスタルの輝き。
その輝く元の概念の表情を伺う事は出来ず、
ただ敵意の表れを握りしめた拳で示すのみ。
対峙する都市の人間は、背の鋼鉄に手を伸ばし、
弧を描き、その信念を打ち砕く事を誓うかのように抜剣を成した。
鋼鉄に反射する橙にも溶ける日の光が、空間により彩を落とす。

『俺の歩む道は濁流に飲まれている』
『そして此処には堕ちた天使を欲する抜け殻と』
『犠牲の血を見ずして、帰郷を拒んだ穢れた希望』
『お前は、この絶望の世界で、明日への希望を投げ出すんだな』

「零れ落ちた希望の欠片」
「忘れてはならない矜持」
「方向標に沿って輝く思い出」
「だが、時は心を摩耗させる」
「どれほど強く願った想いも、どれほど激しく焦がした想いも」
「その人に紡がれたどの軌跡も」
「決して溢さずにはいられない」
「人は誰しも、希望を抱えながら」
「隣接する絶望に打ちひしがれる」
「故にこそ、記すんだ」
「自身の生きた証を、自身の紡いだ光を」
「レビさん、貴方が示した物語」
「俺の原点」
「今は、ぶつかり合うしかない」
「これは、俺が俺であるから」
「方向標の途中の物語だから」

『俺達は己の運命を投影する作者』
『物語は、二つも要らない』
『……もう、話す事も、話したい事も消え失せてしまった』
『終わりにしよう、ユンフ』

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622
わったん 2026/05/04 (月) 21:55:52 修正 >> 614

都市に蒔いてきた種。
行路を歩み、方向標を立て、流れに抗い、
あらゆる思い出を咲かせてきた彼。

『……何故だ』
『お前は、俺の知るお前は』
『綺麗ごとの中にある汚い感情があったはずだ』
『何故』

その行路はどれも苦しく、美しく、
彼を彩る一つの旅路であった。

「……俺は、見送られた側の人間だからです」

多くの寄り道に、彼が示した旅路の途中の脇道に、
都市で関わってきた人々が立つ。

「レビさん、俺はいい思い出をたくさん抱えているんだ」
「その思い出を抱えられるように、生を宿せたのは」
「貴方のお陰」
「だが、この都市を歩む俺は、俺自身の利己で成り立つ物語」
「根源に浮かぶ思い出は、見送ってくれた思い出は」
「俺のこの物語を喪う事を」
「是としないのは分かっている」
「――だからこそ、俺の取る選択に」
「――きっと、怒るんだろうな……」

故、その瞳に宿された決意の揺らぎは、
レビにさえ捉える事の出来る恐怖の前兆。
だが、その恐怖さえ、彼は受け止め、
言葉を紡ぐ。
瞳を、向ける。

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『……』

「……今、貴方が話しているのはティパの村のクリスタルキャラバンとは違う側面」
「都市の人間として此処に立つ、ガンパウダー工房フィクサー」
「透明の軌跡」
「……里帰り」
「俺の声を聴くのは後だ」
「今は、その胸中に秘められた感情と」
「俺の湧き出す憂鬱への前進を、抑え込もう」
「……」
「今日、都市の星が一つ沈むことになる」

621
わったん 2026/05/04 (月) 21:54:21 修正 >> 614

「……」

『分かんだろ』
『お前なら、分かんだろ』
『帰りたい、なんとしてでも帰りたいと思う俺の気持ちを』
『混濁した意識、最早命さえなかった俺の魂が』
『死を通過してでも縋りついた帰路』
『一度手離したかけがえのない思い』
『ユンフ。お前も手放されてしまった人間だ』
『何も俺だけが良い思いをする訳じゃない』
『ユンフ。俺は、もう一度お前を救ってやれるんだ』
『俺の手で、俺の力で』
『あのラモエの野郎をぶっ飛ばして』
『お前が望む記憶を取り戻すことだって出来る』
『お前の思い出を、傍で護ることだって出来る』
『都市と故郷を繋ぎ、一つにするんだ』
『そしたら、俺達は帰れる』
『ここには故郷なんかないけど』
『故郷を作ることさえも空しいけど』
『故郷に帰る事は出来るんだ』

「……」

『ユンフ』
『何も協力しろとは言わない』
『ただ、そっとしておいてくれ』
『そうしたら、全てが上手くいく』
『もう希望にも、絶望にも振り回される必要はないんだ』
『だから、頼む』
『見逃してくれ』

「……」

肯定も否定も、諭す事も出来ない。
彼の提案は、自身が都市を駆け抜けるに当たって、答えに近しいものだった。
思い出を取り戻し、ただいまを言う。
これからも戻れる保障がある訳でもない。
現実的な観点から考えれば、レビの提案は思い出を持ち帰って、故郷に帰る為の最短ルート。

「……」

だからこそ、彼は答える。

「……出来ません」

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620
わったん 2026/05/04 (月) 21:53:31 >> 614

『……』
『ユンフ、一つはっきりさせよう』
『俺は、必ず帰る』
『あらゆる方法を使い、倫理観にさえ抗い』
『都市という絶大な絶望にも』
『ラモエという邪悪にも』
『お前という旅人にも』
『決して絆される事は無く』
『消えていった希望を記憶に』
『手離せなかった思い出を胸に』
『俺は、帰る』
『その為に俺が今、している事』
『お前も理解出来ていない部分だ』
『なんだか分かるか?』

「……」
「……まさか……」

ティダの村を再現した都市。
崩壊したティダの村が存在する世界。
そしてその二つの繋がりが存在する空間。

『俺は統合する』
『俺達の世界と、都市を』

異なる世界を一つにまとめる。

「それは駄目だ」
「レビさん、それは帰郷じゃない」
「仮に無事に成功したとしても」
「それはもう――」

『ユンフ、お前はどうだ』
『思い出の為なら、手段を択ばず帰る』
『お前もそういう人間のはずだ』

「レビさん」

『例え全てを良い思い出にしようとしても』
『結果が伴わないなら、其れは思い出にすらなれねぇ』
『……俺は、ティパの村で過ごしたが、利己的な人間しかいなかったあの村の中でも』
『俺だけだろうな。こんな下衆に成り下がっちまったのは』

「だが、どうやって――」

『お前の哀しい思い出は、根源から成り立ってはいたが』
『大きなきっかけの一つとしてティダの村の存在があっただろう』
『その絶望の園を通じて、この絶望の都市に舞い込んできた』
『ゲートは出来ている』
『ラモエを通じて潜ってきた俺達のゲートだ』
『感覚的に理解出来ている』
『世界を繋ぐ手法』
『地下に流れる川から聞こえる』
『川の水を宿した花が芽吹かせた木』
『その記憶を繋げば』
『都市と故郷は統合される』

「……」
「統合した世界は、どうなる」

『比重を傾ける』
『都市を、崩壊させる』

619
わったん 2026/05/04 (月) 21:52:39 >> 614

思い出を探し、故郷に帰る。
ただいまを言う人が居る。
彼はその願いを胸に、都市を奔走してきた。
嘗て対峙してきた者達は、そのユンフの胸中を推し量る度量はあれど、
その心中における風景を体験してきたものは居ない。
それ故に、これまでの対話において自身の思い出を語り、
自身の方向標を示す事で、成すべき行路の一つとして語り相手と心を共にしてきた。
だが、目前で縛られた者は違う。
既に、体験してきたものだった。
ましてや、自身の成り立ちの根源であり、
ひいては、自身が存在する所以。
更に、同じ志を持つ都市に生きるキャラバンであった。
だからこそ、ユンフは彼がねじれとして成そうとしている事に、
同じ心を重ねてしまっていた。
そんな彼に理解を示す事が出来なければ、
アトリと共に帰る為に、都市を奔走する自身を否定してしまうようで、
彼は心の内を掴まれているような苦しさを、隠していた。

『ユンフ、お前は何故生きている』

唐突に差し込まれる問い。

『思い出のため』
『そう、お前は言う』
『だがな、それはお前自身や、都市の人間から見たお前の像だ』
『俺は、お前の同類』
『だから分かる』
『お前は、生き残っちまったんだろ』

「……」

『アトリという思い出が眠り、自分が起きたままの世界』
『望まぬ世界』
『お前は、生き残っちまったんだ』

「……」

『本来、お前と云う存在は普通だったんだろうな』
『だが、瘴気に満ちた世界で生まれ、親を亡くし、重責に囚われ、憂鬱に沈んだが故に普通から外れた』
『最初からそうだったんだろ』
『お前はただ生きていた』
『旅の楽しさ、世界の尊さ』
『そんなもん度外視だ』
『ただ生き残る為に、ただ村を存続させる為に』
『ただ同郷の子を護る為に』
『そんな奴が、ある日から生きる意味を見出した』
『希望を持ち始めた』
『だが、結局は生かされていただけ』
『俺もお前も、ラモエの玩具になっただけ』

「……」

618
わったん 2026/05/04 (月) 21:52:16 >> 614

『都市は、あの世界じゃない』
『俺が帰りたいのは、あの世界のティダの村なんだ』

「なら、ここで再現するのは――」

『まだ理解に至っていないようだな』
『縋ってんだよ、俺は』
『希望など何処にも残っちゃいないと悟った日から』
『何度も見せられてきた希望の欠片』
『それを握りしめ、ようやく自身を未来へと送り出そうとした時に』
『ふと燃え上がる故郷への熱情』
『それさえも振りきって生きて往こうとしたってのに』
『結局俺は振り出しに戻って、全てを奪われるだけ』
『故郷にも帰る事が出来ず、拝むことさえ出来ず』
『夕日の微睡に死に往くだけ』
『誰のための戦い』
『誰のために生き』
『誰のために俺は倒れた』
『分からなくなった』
『だが、ただただ思うのは』
『俺は必ず帰らなければならない』
『あの世界に、帰らなければならない』
『声に従った俺の能力は、故郷を思うが故に出来たものだ』
『だから、都市の一部を俺の記憶に変換した』
『そんな再び叶えもしない夢を掲げた俺を、嘲笑うかのように都市はこう呼ぶ』
『里帰りと』
『お前もそうだろ、ユンフ』
『お前も、帰郷を願う一人』
『俺の成す事は、お前にとっても理解の示せるもののはずだ』

「……」

617
わったん 2026/05/04 (月) 21:51:51 >> 614

「……何故そこまで、ラモエの心情を……」

『奴の懐に囚われていたんだ』
『そして、奴の心情に嫌気が差しながらも』
『その渇望する生存本能に、同情さえ感じる』
『俺は目的を成す為に、此処いるからこそ』
『ラモエの存在さえ今は認めざるおえない』

「……」

『不思議か?』
『ティパの村のクリスタルキャラバン』

「……」

『そこまで答え合わせをしたつもりはないが』
『残り半分、分かるだろ』

「……」
「里帰り」
「貴方は帰郷を目指している」
「だが、その身は都市に囚われた思念体」
「だからV社の一部を侵食したその力は」
「帰郷できる場所を作る力だと思った」
「嘗てのティダの村を作ることで」
「都市の中で帰る事の出来る場所を用意したんだと……」
「だが、そうじゃない」
「そうだとしたら、貴方はねじれてなんかいない」
「過去の貴方は、仲間を喪い、故郷を失い、家族を失い……」
「それでも、前へと歩む為に、過去を以てして振り返らず、新たな故郷で生きる決心をした」
「その時の貴方だったら、この都市においても、仲間の死に応える為に立ち上がったはずです」
「でも、そうじゃない」
「帰郷を願うからこそ、声に従い、自身の心根を掘り返してしまった」
「……本当に帰ろうとしているんですね」
「ティダの村に」

『バカげた話だよな』
『俺の目的は常に単一でありながら、欲望に塗れていたんだ』
『黄金畑の中で、妻と子供の笑顔を見ながら、ただ仲間に祝福されたかった』
『そう。だからこそ、帰らなきゃならなかった』
『そんな叶いもしない夢を打ち砕く為に』
『俺は死を選んだ』
『だが結果はどうだ』
『結局、あのクソ野郎に弄ばれただけ』
『クラヴァット一人の人生が、潰えただけ』

「……」
「なら、嘗ての村を再現するこの現象には、何の意味があるのでしょうか」
「貴方も理解しているはずだ」
「これは本質じゃない」
「虚像だという事を」

616
わったん 2026/05/04 (月) 21:51:21 >> 614

『ラモエは俺だけじゃ飽き足らず、お前という存在にも手を掛けてたのか』

「……俺の事は、どこまで?」

『ラモエの記憶が見せた、お前の哀しい思い出ってのは』
『俺にとっちゃ胸糞悪いもんだった』

「それも全て、俺を構築する行路です」

『元々行路が一つだった奴は、基盤となる旅路に総てを委ねる』
『お前は元々がどうしようもなかったから、その哀しい思い出さえ自分のものにすんだろうな』
『……』
『零れ落ちた』
『俺の生きる意志も、仲間達に託された想いも』
『その全ては、俺が今、残存する世界には存在しない』

「えぇ、だから貴方は創ったんですね」
「ティダの村を」
「……村人の人格は、嘗て貴方が思い出として所持してきたもの」
「旅で培った人々との交流が、そのまま反映されているように見えた」

『……敢えて聞くが』
『俺がそうする理由は何だと思う』

「故郷で成せなかった風景を再現するため」

『半分ってところか』
『その半分にしか至らないところが、お前自身が既に都市に染まっている理由かもしれねぇ』

「……」

『……違うか』
『お前も、足掻いている人間だもんな』
『俺と同じ、故郷の風景を胸に秘め、都市を生きるクラヴァット』
『諦観を拒絶したはずが、受け入れちまっている憐れな存在』

黄金畑によって開かれた窓から、高い位置の風が室内に吹き荒ぶ。
結晶内の風景は一切揺れず、大切な時を護るかのようにその固有結界は微動だにする事はなかった。

『何故、お前のような存在が都市に居るのか』
『簡単な話だ』
『何の因果か、都市と繋がれたラモエという存在』
『奴が最後に食ったのは、ティパの村のクリスタルキャラバンの思い出』
『絶望とは程遠い、希望に溢れた尊き思い出だ』
『その中に、お前の存在は無い』

「……」

『裁縫屋の繋がりは、家族を思う呪いだった』
『お前も知らない代々受け継がれたキャラバンの意志』
『その光を浴びたラモエは、さぞ苦しかっただろうな』
『哀しき思い出さえ打ち破る、あの黎明』
『その黎明を愛するお前を見たアレは、その抑鬱を欲するだろう』
『お前を哀しみが続けば、きっといつか復活出来ると』
『だからティダの村を選んだんだろう』
『お前を誘う地』

615
わったん 2026/05/04 (月) 21:50:51 >> 614

『俺を纏う闇は、瘴気のように苦痛で』
『俺と言う自我の殻が裂かれる世界だった』
『ラモエ……アレは、俺の魂を取り込み、その存在をこの都市で確立させようとしていた』
『だがそのラモエでさえ、囚われの身だ』
『ある空間に、本として囚われた奴は、感情の昂りによって具現化しかけた』

本。
その単語に、ユンフは反応を示す。

『だが、不安定な昂りだ』
『其処はシェラの里のような本に囲まれた世界であり』
『戦っている奴らが居た』
『開きかけた本は、そいつらの感情に吸い寄せられるように力を無くす』
『その時だった』
『その本から、俺は飛び出した』
『決して形が合った訳ではない』
『ラモエが逃げたがっていた中で、俺だけが抽出された』
『ギラギラ燃える夕焼けの背景の中』

待って……どうして……。まだ終わってないじゃないか!!!

『その声と共に、俺の魂は都市に投げ出された』

里帰りの抑揚の無い声が、沈むように部屋全体に響く。
否、その響きは、心に直接語り掛けるような反響があり、
彼の内側に語るものがあった。

「……」

ユンフは里帰りから得た情報で、糸を結び直していく。
故郷。都市。ティダの村。ラモエ。L社。図書館。幻想体。ねじれ。感情。転移。
断片。断章。断絶。
決して致命的ではない情報が羅列する難問。
過程を失い、結果だけが累積した難解なる事象。
それでも彼は、目の前のねじれがどういった経緯で此処まで来たのかを、推測した。

「……そうか……」
「貴方は、図書館に居るラモエから引き離された魂」
「肉体は既に無くなっている」
「残留思念となった貴方は、図書館内での戦いに巻き込まれ」
「其処の生存者の転移に巻き込まれたのか……」
「……V社は、楔事務所の構えている拠点だ」
「転移装置を付けられた人や、オスカーさん達に関連しているかは定かじゃないが」
「貴方は図書館での戦闘の区切りで、このV社に辿りついたんですね」
「そして、『声』を聴いてしまったのか」

視線を逸らす事は無く、空洞にさえ思える里帰りの表面を見つめ続ける。
その堂々たる姿を見据えて、里帰りは再びゆったりと首を下ろした。

『……お前』

ほんの僅か。
結晶越しに、苦笑にも似た気配が揺れた。

『そんな声してたのか』
『似ても似つかねぇもんだな』

「……」

意思疎通が図れる事を知ると、彼は鋼鉄に触れる予備動作への思考を取り止める。

614
わったん 2026/05/04 (月) 21:50:03

帰るために

V社に聳立する摩天楼群。
その最上層に位置する一室は、既にティダの黄金畑、その残滓に蝕まれていた。
硝子と鋼鉄で構築されたはずの無機質な空間は、もはや都市特有の硬質性を失い、
黄金色の穂波と、乾いた土壌の匂い、そして懐旧の幻影に侵蝕された異界へと変貌している。

「……」

嘗て、自らの足で踏み入り、そして喪失した故郷の残響。
ユンフは、その魂魄そのものが具象化したかのような空間の只中で、静かに立ち尽くしていた。
視線の先。
結晶の牢獄に封じられた、一人のキャラバン。

「……」

目前で感情に塞がれたねじれ。
それは自身の根幹に関わる存在。
彼が居たからこそ、彼が多くを選択したからこそ、
ユンフという存在が今を成している事。
アトリという思い出がある事。
多くの根源が、今目の前で瓦解していた。
掛ける言葉が見当たらない。
胸奥では、感情が荒れ狂っている。
だが彼は、それを決して表層へ押し上げなかった。
都市に生きる人間の一人として。
フィクサーとして。
そして、思い出を背負う旅人として。
彼は、静かに双眸を開いた。

「……レビさん……」
「俺は今、都市の人間として生きている」
「そして、都市の人間として生きる所以が、俺達の故郷での物語の原点にある」
「こうして此処で対話を成せるのも」
「俺が思い出を探していけるのも」
「あらゆる俺の根源を」
「貴方が護ってくれたんです」
「……だからこそ、掛けるべき言葉はあるはずなんですが……」
「貴方も俺も、今は都市に居る」
「そして、ねじれとして貴方は顕現している」
「……心苦しいですが……」
「どうか、今は都市の人間としての俺に、付き合ってください」

『……』

「俺にティダの記憶を見せた以上」
「貴方には意思疎通が可能な範囲でのねじれ進行度に留まっているはず」
「……俺の声は、聞こえていますか?」

淡泊な声色。
だが、その声の通りは、レビに向けられたもの。
里帰りとしてねじれ化した彼は、その結晶内で力無く首を動かし、
赤き装飾を揺らしながら
拘束具の鎖が、鈍い金属音を響かせた。

『……突然だった』

声が、響く。
それは耳ではなく、直接心臓へ浸透してくるような、異質な共鳴だった。