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マニラ首都圏に位置するフィリピン陸軍司令部、キャンプ・アギナルドは在比日本軍司令部などが設置される大型基地であり、様々な部隊が駐留していた。第16師団付属警務隊もここに本部を置いている。
第16警務大隊隊長の長井二佐は薄暗い警務隊本部室のオフィスチェアでくるくると回転しながら資料を眺めていた。
南部フィリピンの併合以降、管轄地域の増えたフィリピン駐留軍は多くの問題を生み出し、それを対処する警務隊たちは常に疲弊していた。
長井がペンを回して遊び始めたとき、電話が鳴った。
『はいこちら第16警務隊本部です。あなたは犯罪者ですか?』
『...は?いや、上海警務局長官の杜だ。少し協力してもらいたいことがあって連絡させてもらった』
『ふむふむふむふむ。上海の番犬さんたちがフィリピンの警務隊に協力を...麻薬関連ですかね?』
長井は電話を片手に上海警務局の資料を取り出した。日本に属する都市の中でも最大級の都市である上海市を守る警務局、それの長官が直接に師団隷下の部隊に協力を要請するのは珍しいことだった。
『日領ロシアで密造された銃器が紫門の仲介で麻薬と引き換えにフィリピン人民軍に流れている可能性がある』PNP に伝えればよいのでは?』
『あなた方の仕事の範囲から少し離れたことまで調べているのですねぇ。しかしその手のことなら
『PNPの調査力では足がつかめないが、第16警務隊なら可能だろう』
『確かに彼らじゃ取引が終わった後に現場につくでしょうね。しかし我々では人手が足りない、フィリピン全体を調査するのは難しい。それに我々の仕事は駐留軍内の犯罪者を粛清すること、人民軍の調査は業務外です』
『駐留軍が腐敗しているからあなた達に協力を求めているんだ。こちらからはわかる限りの情報を共有する』
『ふーむ。考えておきます、返事はまた明日にでも』
そう告げて電話を切った。あくびをしながら机をあさり、昨日届いた報告書を探す。
書類の山から掘り出された書類には「南部の共産勢力と人民軍の合流について」と書かれていた。
杜 山:上海警務局長官。日本語が使える。
長井二佐:第16師団隷下第16警務大隊隊長。頭のおかしい人。軍内の麻薬密売の調査を行っており、調査の過程で民間人に拷問を行った容疑がかかっているが駐留軍によって黙殺されている。
第16師団:フィリピン駐留軍の部隊の一つ。フィリピンのギャングとその密売に加担する将兵の問題に悩まされている。
フィリピン国家警察:フィリピンの警察機関。日本の進駐以降、権限を縛られ能力が大きく低下し国内のギャングの動向の調査すら満足にできなくなっている。
準備と招待を終えた数日後、アイスランドの指導者、ヨハン・トールは休みを取るためイオニア諸島にあるケルキラへと飛ぼうとしていた。 その前に、旧友のミア・ゴウを空港へと呼び出した。
「旧友よ、して欲しいことがある」
トールは言った。
ミアはこの今までしてきたのと変わらず、喜んで頷いた。
「して欲しいこととは?」
トールは頷き返した。
「ケルキラで休息を取る間、代わりに政府をまとめ上げて欲しい。数日で戻るだろう」
かつて彼女がやっていたことだ。慣れている。また頷き返して、こう言った。
「もちろんです、首相。これほど嬉しいことはない。旅を楽しんで」
ヨハンは何も気づかず、ただ感謝した。
「ありがとう、ミア。君の手にこの仕事を任せれてよかった」
そうして互いに抱擁してから飛行機に乗り、彼は椅子へと座った。努力が実をなす時だ。ミアは相変わらずMI5の長官として情報提供をしてくれている。
アイスランドのためにやるべきことはやった。あとはロンドンの連中とアイスランドの保護国への昇格に向けた交渉のみ。そのためには万全な体調で臨むべきだろう。
今は少し、休息を取る時だ。
その頃ミアは、計画を実行に移し始めた。
・ミア・ゴウ
MI5長官。正直言って30代くらいの設定だから若すぎる気がするけど、よし。連合王国に忠実でテイラーのお気に入り。
・ヨハン・トール
アイスランド首相。ミアとは弁護士時代からの付き合い。そのため彼女から色々と情報をもらっており、それを元にアイスランドの独立のため地道に活動、国民からの支持も高い。
月が見えない。
曇天見下ろす夜の下、灯ひとつない路地裏を人影が進んでいた。顔の上部をバイザーに覆われた彼、または彼女は、深い暗闇の中を迷いない足取りで進んでいく。
「いやはや、あの図体デカいだけのやつに1発もらいそうになるとは思いませんでした。ぶっ殺せて爽快です」
声音に似つかないほど汚い言葉を除けばおおよそ15歳ほどに少女のようにも見えるが、その纏っている服は黒い血と硝煙が染み付いている。
『あんまり汚い言葉を使うな。表で妙なことになっても知らんぞ』
「そう言いながら節介焼いてくれる癖に」
彼、または彼女はご機嫌だった。その時までは。
拡張された視覚、聴覚、嗅覚、その他感覚センサーの警戒をすり抜け、声が聞こえた。
「おや、これは偶然ですね」
知覚の外からの呼びかけ。あり得るはずもなかった。彼、または彼女の「最適化された」脳とそれを補助するバイザーは正常に機能し、この瞬間も暗闇を見通す視界と環境情報を流している。
そんな頭脳が弾き出した結論はひとつ。
「コンタクトオレンジ」
『タイプは?』
空気が変化する。足元を見れば声の主と思われる影が確認できた____真後ろ。
「…ブラック」
即座にAR-14のグリップを握りしめ、後ろに向き直りながらサプレッサーの先を指向する。スリングが擦れ、金属パーツがぶつかる音が路地裏に響いた。
「…丸腰、ですか。舐められたものですね」
路地裏の外から光が差し、シルエットしか見えない。機能の隙を突かれている。
標準的な人型のように見えるその影は、両手を挙げて意思表示をした。
「おおっと、銃を向けられては困ります。今回は別段データ収集をしようという訳ではないのです」
「…はぁ、悪いけどできかねますね。あなたがヒトであればそうしたのですが」
グリップを握る手に力が入る。バイザーが示す情報は影を「Unknown」と判断している。適正と判断するにも情報がなかった。無線がつかない。
「所属と名前を。どうせ国家機関にいるんでしょう?人外なんですから」
影は愉快そうにクツクツと笑う。どうにも人間性を感じられなかった。背中を何か恐ろしいものが這っているように感じられる。そんな機能は彼、または彼女には無いはずなのに。
「そうですねぇ、[第三帝国]といえばよろしいでしょうか?」
「あぁ、そういう。確かに話には聞きますよ…趣味が悪い妙な美人がいるとか」
第三帝国の人外。彼、または彼女の頭に叩き込まれた資料が脳裏をよぎる。…そういう趣味がある変人であるという内容も。銃口を下に向け、ローレディで保持する。相手に敵意がなくとも最低限の警戒は抜かない、それが彼、または彼女のスタンスだった。
「…一体なんの用なんですか?ここは北米のど真ん中、マンハッタンですよ。一番近いのだってグアンタナモの気色悪い収容所でしょう?」
「ですから、お話に来たんですよ」
影が微笑む。悍ましいほど上品に。
彼、または彼女(迫真)
遅れてしまい申し訳ありません…
解釈違いやらなんやらがあったら連絡オナシャスセンセンシャル…
2025年7月12日、海南島近海。
嵐が吹き荒れる中、2隻の船が辛うじて
海の上に必死に浮かんでいる。
1隻はチェコ海上警察所属の巡視船、
もう一隻は国籍不明の輸送船だった。
「あの船、こちら側の停船命令に従いませんね」
「クソォ… 完全にこっちをなめてやがる」
ユーリア・シュチェトコヴァー級巡視艇『ツィリル・カレル』の
船長と副船長であるノルベルト・コジーネクと
ボレスラフ・クドリチュカは、
そう言いながら双眼鏡で不審船を眺めていた。
船が止まる気配は全くなく、
むしろ走力を上げようとしているようにも見える。
「どうします。向こうさんは増速して逃げようとしてますよ」
「警告の後に威嚇射撃しろ。沈めても構わん」
「了解」
巡視船のスピーカーから、
再び定型句の警告文が流れ始める。
「こちらはチェコ海上警察の巡視船である。
不審船舶に次ぐ、直ちに停船せよ。
繰り返す、直ちに停船―」
チェコ語や中国語、英語などで一通り流しても
不審船は停船する気配を一切見せなかった。
「駄目ですね」
「仕方がない… 警告射撃しろ。
こっちは3回も呼び掛けてるんだ」
その命令を聞き、船首に搭載された
1基の30mm機関砲が狙いを定めたその時だった。
「射撃中止! その船は中国国籍の一般貨物船です!」
「何!? 畜生、いったいどこの情報だよ!?」
「それが… 海南武警の本部からです」
「…!?」
それを聞いて、船長のコジーネクは絶句した。
どうして沿岸警備隊の仕事に、
海南島の武装警察なんてものが手を出してくるんだ?
そう思いながら、巡視船の船員達は
離れていく輸送船をただ眺める事しかできなかった…
ただ一人を除いては。
「艦名は『ルイ・マンドラン号』、国籍は中国。
現在の場所は瓊州海峡の―」
ルジェク・ノヴィー、チェコ保安・情報庁所属。
上からの指令を受けて海南島のあちこちに潜り込んだ
潜入捜査員の一人だった。
海南島のありふれた街並みの中、
一台の乗用車が路肩に止まっていた。
それを見て、一人の会社員らしき
中国系の容貌をしている男が近づいていく。
「ん、どうした? 俺はタクシー業者じゃないぜ」
窓から身を乗り出してそういう男の顔を見ると、
彼はためらうことなく話しはじめた。
「すみません、文昌市でおすすめのカフェを知ってますか?」
その言葉を聞いて、運転手の表情がほんの少しだけ変わった。
本来ならその場所は彼らがいる位置から
かなり遠い場所にあるはずだったが、
運転手の男はまるでその場所にいるかのように
流れるように答えを返していく。
「オスカー・フューゲル・コーヒー。
ドイツ人がやってる店なんだが、
文昌鶏入りの海南鶏飯がとにかく美味いんだよ」
「そうか、ありがとう。
まあ… 僕は今お金がないからフォーでも食べてるよ」
それを聞いて、運転手が会社員の男に
書類が入っているらしい封筒を差し出した。
「行政区政府の動きに関するここ数か月の全報告だ。謝謝 」
どっかでへまして落としたりするなよ」
「
一通り会話を終えると、お互いは
その場から急いで去っていった。
後には人っ子一人いなかった。
海南島の中心部である海口市のビル街で、
一人の男が一軒のビルへと足早に入っていく。
表向きはチェコ資本の会社のように見えるが
その実態はBISの海南支部であり、
内部は汗水たらして働く社員ではなく
ありとあらゆる機密情報が押し込まれている。
そんな情報機関の最前線の中、
この場所をひっくり返すほどのファイルを持って
セザール・フィネル… BIS職員の一人は
この場所にやって来たのである。
「昨日BISの潜入チームから送られてきたデータですが…
どうやら、事態は一刻を争うようです」
そう言いながら彼が机の上に置いた書類には、
大量の発注品が描かれていた。
『戦車:2個中隊分』
『歩兵戦闘車:2個中隊分』
『装甲兵員輸送車:6個大隊分』
『自走榴弾砲:3個大隊分』
『各種支援装備:3個旅団分』
「何だ、コレは?
まさか海南武警の物か?」
そのどう見ても普通ではない発注書を見て、
BIS海南支部の局長である
ミハル・ハニーズディルは目を見張った。
「いえ、違います」
「それじゃ、一体誰の物なんだ?
まさか特別行政府政府か?」
「ええ。そのまさかです」
彼はそのことについて驚くべき程冷静に伝えた。
次の瞬間、空気はすでに凍り付いており
ハニーズディル局長の額からは
冷や汗が流れ落ちていく。
「…奴は、一体、何をしようとしているんだ?」
「完全武装の2個歩兵旅団戦闘団と
1個機甲旅団戦闘団を作れるほどの兵器を買い付けようとしてます」
「チェコ政府に許可は?」
局長は震えかけている声でそう聞いた。
「ありません」
「どうしてそんなことを画策しているんだ?
警備力増強なら海南武警にでもやらせておけばいいだろう」
「あくまでこちらの考えにすぎませんが…
マカオ危機について覚えていますか?」
「ああ、今も昨日のことのように覚えている。
それがどうしたんだ?」
…マカオ危機。東州内戦によるHCOの混乱を原因として始まった
イベリア・ハプスブルクによる奇襲的な領土併合要求であり、
チェコ政府からイベリアへのマカオ譲渡によって解決した
新冷戦中で最も第三次世界大戦に近づいた出来事。
「あの時、マカオ政府に一切の発言権はありませんでした。
いわばトカゲの尻尾… 言い換えれば手ごろな交渉材料にされたんですよ」
「だが、そうしなければ世界大戦が勃発したんだ。
私個人としては必要な犠牲だと思っているよ」
「その事については一旦置いておくとして、
ともかくあの男はその事を激しく憎んでいます。
恐らくですが、自前で海南島を防衛できる戦力を
揃えようとしてるんでしょう」
「防衛? 一体どこの国からだ?」
「全ての国ですよ」
「…す、全ての国と言うと?」
いとも簡単にそのことを言い放った
目の前にいるたった一人の部下の前に、
ハニーズディル局長は動揺を隠せていなかった。
彼は一呼吸おいて続ける。
「連合王国、イベリア、アルゴン、アンデシア―
わがチェコ・インドシナ連邦ですらその対象に入っています」
「馬鹿な… あんなちっぽけな島が
独立できるものなのか?」
「経済力ですよ」
「経済力?」
「あそこには数多くの外国資本を始めとする
莫大な経済力があります。
それを元手にすれば、
ミクロネーションの経済大国として
独立国家になることも夢じゃない」
「国家安全保障はどうなんだ?
経済力はあるが、人口は少ないだろう?」
「それも経済力でどうにかできます。
北米には多くの民間軍事会社がありますし、
足りない装備は海南で買い与えればいい。」
「これも私の考えにすぎませんが…
我々が阻止しなければ、
海南島経済特区は独立戦争をおっぱじめるでしょうえ」
「独立? ここはチェコの植民地ではないんだぞ」
「彼の頭の中ではそうなっているんでしょう。
…まあ、一種のノイローゼですよ。
かわいそうな奴です」
そこまで聞いた後、
ハニーズディル局長はしばらく考え込んでいた。
大体5分ぐらい経っただろうか。
「…海南島はチェコにとって生命線だ。
欧米の影響圏や我が国の首都にも近いし、
それに莫大な資金をチェコ本国に
転がり込ませてくれる。
ここを失うことは我々にとって大きな痛手だ。
本国に海南島周辺の軍備を増強するように
伝えたほうが良さそうだろう」
「了解です。チェコ政府にそう伝えてきます」
セザール・フィネルがそう言って帰ろうとした瞬間、
ハニーズディル局長は一言だけ
強い意志を持って言い放った。
「奴らの反乱を何としてでも阻止しろ。
出来るだけ早く、確実に、秘密裏にだ」
「了解しました」
さて、これで一つの話が終わった。
舞台は次の話へと移っていく。
数十分後、BISの忠実な職員である
セザール・フィネルは連絡を行うために
盗聴防止装置が取り付けられている大型無線機がある
市内のセーフハウスへと電車に乗って向かっていった。
高層ビルの隙間を縫うように電車は進む。
そしてそれと並行して、セザールの目の前に座っていた
一人の女子高生が徐々に眠りへと引きずり込まれていった。
もしも― 彼が未来を予知することができたなら、
この目の前で寝ている女子高生をすぐに起こしただろう。
だがそんなこと、神ならぬ身のこの男に走る由もなかった。
そのまま彼女は電車を寝過ごしていき、
その結果としてストリートギャングから
マフィアと共に逃走劇を演じることになる事など。
→It's So Fly-Day CHINA TOWN/フライデー・チャイナタウン
この世界だと蒋経国が中越戦争でチェコと戦って海南島失った設定なので地獄から蒋介石と戴笠を連れ戻してなんとか海南島を取り戻させますかね…()
同盟国のはずの日本もその支援をしてると知ったら局長はどんなに驚くだろうか(はなほじ)
静かに介入したら面白そうだな()
少年は朝早くからマニラの町を走っていた。
早朝の道路は車通りも少なく、日中の灼熱と比べるとまだ涼しかった。
新聞が入った鞄を抱えながら配達先へスクーターを走らせる。
マリキナ川を越えマニラ中心地へ繋がる道路へ入ると、交通量が増えるのを感じる。ミンダナオ島の併合以降、フィリピン全体で再開発が計画されマニラは以前より活気にあふれていた。しかしそれと同時にテロのうわさが広がり、はしゃぐ子供たちを眺める大人の顔に不安が浮かんでいるのを見かける。
信号待ちの暇にSNSを眺めていると、遠くから破裂音が聞こえた。
反射的に空を見上げると何かが飛んでいくのが見えた。鳥だろうか。
それはまっすぐに空を飛び、遠くへ落ちていった。
爆発音が響く。方向はキャンプ・アギナルドからだった。
テイラー様
これを書いている今、ロンドンでは幻想的なほど深い霧に覆われております。首相官邸は奇妙なほど静かです。就任式を前に、最も重要な閣僚以外はみな辞職しました。私に出来ることといえば、管理人としての役割を務めながら、今日までの約20年間の仕事を振り返ることだけです。
あなたが議員として初めて下院に入った時のことを思い出します。外交活動への献身と議会業務のあらゆる場所での政治的勇気からして、あなたが偉大な人物となる運命にあることは明らかでした。単なる局地的な問題に留まらず、広く国家全体の問題に目を向けていることに、スターティヴァンド氏やストラウド氏は深く感銘を受け、あなたを指導し、助言を与えることになったのです。ウォーカー首相も、あなたの献身な的勢力と能力を知り、高く評価していました。今でも、私はあなたを深く尊敬し、親しい友人の1人に数えています。
あなたのその能力が、祖国の発展のために発揮されることは問違いありません。あなたは常々、人々の向上と福祉政策を献身的に誘引してきました。大きな不和や悲劇が蔓延る激動の時代に、この国はかってないほどその能力を必要としています。この国を変革させ、保守党の伝統的な仕事を完成させることのできる進歩的な法案を可決するためには、あなたの技術と能力の全てを頼る必要があるのです。
このことに関して、私からこれ以上の助言は必要ないでしょう。しかし、あなたには私の絶え問ない支持がついていることを覚えておいてください。あなたの成功を神に祈り、私は私にできることをやっていきます。
敬具
Chester Lawrence, Prime Minister of the United Kingdom.
(疲れた顔に小さく笑みを浮かべた後、丁重にファイルする)
2024:4/1
・チェスター・ローレンス
テイラーの前任。保守党守旧派に位置し貴族の出であり、ウォーカー内閣では副首相を務める。ウォーカー辞任後、総選挙までの間首相を務めた。
・スターティヴァンド
かつての連合王国首相。第二次アイルランド独立戦争を終結。
・ストラウド
保守党守旧派の重鎮。現在は庶民院の議長。
・ウォーカー
エイムズ・ウォーカー、ローレンスの前任。冷戦に伴う他国への介入のため、多数の法案を通過させる際に一部議員に対し汚職を働いていたため、労働党により不信任決議案が採択され辞任。
オルドーニェスの庭②
アイスティーの入ったウルグアイ独立190周年カップを二つ、カロリーナは家の外に設置してある4人用の金属製の机に持ってきた。陶器と金属の当たる音が私にコップが机に置かれたことを知らせた。
「どうぞ、お飲みください」
カロリーナはそう言うと、自分のコップを机に置き席についた。そして、鞄から数枚の紙を取り出して私に見せた。
「こちら、今後の外交方針についての報告書です」
それだけ言うと、彼女はアイスティーを飲み干してしまった。一方で、紙をもらったオルドーニェスは、お茶に手をつけず報告書をただただじっと読んでいた。3枚目を読み始めてしばらくしてオルドーニェスの手が止まる。
「困ったものだな」
私は苦々しい顔をしてそう言った。私が読んでいたのは、外国へのウルグアイ国民の知識、関心の調査報告書であった。調査報告書は、国民の外国への関心の低さを示していた。特に、若者の外国への知識、関心が非常に低い、外交の最大の悩みがそこにあった。
長きにわたる独裁は、国民の外国への知識を失わせた。その結果、私の同盟関係を重視する外交政策は国民の興味を失った。私を支持しているのは資本家と一部の知識人のみだ。大半の農民や労働者は労働党の自給自足的な生活のほうが良いらしい。
「大統領も、労働党と似たような自給自足的な政策を行えばいいんじゃないですか。先進国という夢をあきらめて」
カロリーナは私の考えていることを見透かして言った。私は何も言わなかった。発展途上国が発展した例の大半は独裁だ。民主主義は発展途上国にとって繊細で脆弱すぎるのだろうか。私は結論が出せなかった。
オルドーニェスは、紅茶を一口口に含むと、もう一度草むらへ向かっていった。
先輩、(茶番)好きっす!
アルコールの酔いは、ヨハン・トールの心を蝕んでいた。酔いに任せて部屋の扉を開けると、そこには真っ暗なライフルが6本、いや、7本だろうか、彼の方に真っ直ぐ向けられている。思わず足を止めてしまった。自分の机だろう物の後ろに誰かが座っているのが見える、酔いが一気に覚めていった。
「ミアか?」
そう呟いた。いや、そんなはずがない。まさか。彼女がそんなことをするはずがない。
「どうして?どうしてこんなことを」
回答は無かった。さっき自分が入ってきた扉から、続けて数名の大臣たちが現れミアの横についた。ペートゥルソンにハルビンハンセン、みんな私を裏切ったのか?
『ヨハン…本国はアイスランドの王国への昇格を正式に認め、またあなたの解任を要請しました。アイスランド議会はこれを承認しています。後はあなたの署名のみ』
「最初から嵌めるつもりだったのか?これまでも全部、昔は君はこんな人間では」
ミアが机の上に置かれた万年筆をヨハンに手渡そうとする。彼はそれを受け取らず胸ポケットから別のペンを取り出し署名を始めた。手を見れば怒りが湧いているのがわかる。
「本国は何を考えている。君たちは何が目的だ。私からアイスランドを奪って、一体何をしようとしているのだね」
『この国の平穏と秩序を維持するため…あなたは不適格だった。急進主義を我々は求めていない』
「いつからそんな人間になったのだ。まるで、犬のように尻尾を振る人間に」
『警官隊。アイスランドの英雄に相応しい退陣を』
「後任はペートゥルソンか?くそったれ」
「私は昔から何も変わっていない。変わったのは、おかしいのは君の方だ。私は故郷のために尽くしただけなのだ。この売国奴め。信用するべきじゃ無かった。自分たちの手綱を握るクソのような飼い主に付き従う、香港人の裏切り者め」
銃を突きつけられたまま、彼は手錠をかけられ床に押さえつけられる。彼はミアに罵詈雑言を浴びせたが、彼女は目を逸らし、書類に目を通し始めた。
彼の足と手が殴られると抱えられ部屋の外へ運び出される。議会はペートゥルソン新首相の誕生を祝福している、計画は万事順調だ。だが問題は山積みだ。やるべきことはまだたくさんある。
まずは家の掃除から始めなければ。
・ペートゥルソン
アイスランド副首相
・ハルビンハンセン
アイスランド財務大臣
午前6時、キャンプ・アギナルドの総司令部は張り詰めた空気に包まれていた。司令室の外では、迫撃砲による損壊の修復作業に工兵たちが奔走している。室内では16師団と17旅団の団長、そして駐留軍司令長官らがディスプレイに映し出された状況図を重い表情で見つめていた。
「現在確認されている敵の配置は以下の通りです。マニラ市内に小隊規模、ゼネラル・ナカには7個以上の小隊、ナガ・シティに2個大隊、ビサヤ諸島の主要都市にはそれぞれ1個大隊、ミンダナオ島北部には2個連隊。そして、レイテ島では一部の正規軍兵士による離反が確認されています」 「司令長官、市内の状況は?」
「攻撃発生から数十分以内に警務隊が出動し、実行犯の確保に成功した。現在はフィリピン即応部隊が市の出口を封鎖して逃亡を防いでいる」
旅団長は冷静な口調で質問を重ね、師団長は沈痛な面持ちで状況図の警務隊の駒を見つめていた。人民軍による同時多発テロの被害は広く、一部の駐屯地では火災の影響で戦闘態勢の構築が遅れている。 師団長が口を開こうとした瞬間、司令室のドアが勢いよく押し開けられた。
「おやおやおや。市内のテロリストすらろくに捕まえられない皆さんお揃いですね」
「ノックをしてから入ってきてくれ、長井二佐」
気色の悪い笑みを浮かべて入室した長井は、室内の面々を一人ひとり見渡した後、報告を始めた。
「司令長官、ご報告いたします。駐留軍内の内通者のリスト化が完了しました。いつでも粛清可能です」
「では、直ちに実行せよ」
「仰せのままに」
その言葉を合図に、警務隊員が次々と司令室へ入り、数名の司令要員と顔面蒼白の師団長を拘束して連れ去った。 司令長官と旅団長は、連行されていく師団長に冷ややかな視線を送りながら、再び口を開く。
「第16師団内の内通者はどれほどいる?」
「現在までに確実なのは194名。そのうち士官が61名です。残りは引き続き調査中です。また、第17旅団についてはまだ捜査が進んでいませんが、12名の関与が判明しています」
「第17旅団は後回しだ。今の戦力を削るわけにはいかない」
「報告します。第2戦闘偵察連隊および第17旅団の戦闘準備が完了しました」
状況図の駒がゆっくりと動き出した
第16師団師団長:人民軍に協力し武器流してたので逮捕された。ばいばい
戦況:海兵隊第2戦闘偵察連隊と陸軍第17旅団の即応部隊が戦闘態勢を整え展開を開始、人民軍はマニラ市東側のゼネラル・ナカと南部のナガ・シティからマニラ市に向けて進軍を行っている。
2025年。7月25日。午後。
女子高生の倉田朝羽は、
マイホームへと帰るべく
いつもの電車に乗り込んだ―
はずだった。
理由は漠然としない。
海南島にある滝だの川だのの動画を
時間を潰すためにぼーっと見ていたからかもしれないし、
あるいは電車の揺れ方がちょうど人を寝かしつけやすい
感じの揺れ方だったからかもしれない。
ともかく、彼女は見事に電車を寝過ごしていた。
そんなことも気にせずに
高層ビルの隙間を縫って電車は進み、
それと並行するように
彼女は眠りの中へゆっくりと落ちていった。
ひとまず、彼女が物語の語り手を担えるようになるまで
時間を進ませることにしよう…
「旧州鎮駅ー、終点です…」
寝ぼけまなこで起き上がったのが悪かった。
いつものように改札へ向かい、
読み方が分からない定期券を使う。
「…?」
そこでようやく眠気が覚めてきた…
が、少し遅かった。
目の前に人がいるのに気づかずに
うっかり衝突してしまう。
「あ、すいません!」
しかし、ぶつかった男は聞こえていないのか
そのままどこかへと歩いていってしまった。
(聞こえてなかったのかな…?)
そう思いながら、顔を前に向けたその時だった。
「…え、あれ、ふぁ?」
目の前には、彼女が住んでいる地域より
遥かにカオスな世界が広がっていた。
老朽化が進むビルがいたるところに立ち、
それ以上によく分からない看板が乱立している。
外国人居住区から出たことが無かった彼女が知らない、
海南島のありふれた一面の一つだった。
「え、えと、ひとまず電話を…」
…帰る時間が遅れることを母親に連絡しようとしたが、
唯一の連絡手段は動画が流れ続けていたせいで
あっけなく充電切れになっていた。
仕方なく公衆電話を探すことにして、
あたりをあたふたとうろついていた時だった。
「おい、お嬢ちゃん。大丈夫かい?」
「あ、こんにちは」
目の前には、青色のジャージを着た中年男性がいた。
どこかくたびれた印象があって、片手には煙草を持っている。
「見たところ、初めてここにきて混乱してるクチだな?」
「そうですけど… なんで分かったんです?」
「ここに住んでる奴は、みーんなどこに何があるのか把握してるのさ。
アンタみたいに路頭に迷う奴は人探しぐらいだが、
少なくともお前の容姿じゃこんな所でそんな事はしないだろう」
「じゃ、じゃあ公衆電話の場所を教えてくれませんか?」
色々と言われて戸惑っていたが、色々と聞けるのはありがたい。
快くその親切心に頼ることにした。
しかし、その思いとは反対に
帰ってきた答えは実に悲惨なものだった。
「…あー、よく聞けよ、嬢ちゃん。
残念だが、昨日消滅しちまった」
「…え?」
目をぱちくりしている私を見て、
男は苦笑しながら言った。
「公衆電話は昨日、警察署と一緒に爆破されちまったんだよ。
いい笑い話だろ?」
「わ、笑い事じゃありませんよ!」
「そうムキになるなよ。こんなこと、この場所では日常茶飯事だぜ」
そう言っているこの男の背後を、
1機の海南武警のヘリコプターが飛び去って行った。
「…ま、まあとにかくこんなところで時間をかけるのもなんだ。
とっとと出発しようじゃないか」
「…そ、そうですね!」
この微妙な空気を振り払うために、
彼と一緒に歩き始める。
目的地まで早く着くといいな。
「わぁー、すごーい…」
治安の悪い所だから当然雰囲気も悪そうという
私の予想に反して、大通りは活気に満ち溢れていた。
車道には半装機式オートバイや古い乗用車が所狭しと走り回り、
反対に歩道には商店がずらりと並んで
ありとあらゆる品物を売りさばいている。
「これが海南島だ。
こういう場所も案外楽しい所だぜ」
「そうですね。
こういう場所には近づかないでって
いろんな人から言われたから、
まさかこんな所だって思いもしませんでした」
そんな話をしながら歩いていくと、
道端にある屋台の店主から唐突に話しかけられた。
「お嬢さん、おいしい
一つ63コルナ、今なら一本おまけするよ」(注:日本円に換算して450円ぐらい)
「へー、美味しそう…」
美味しそうなきつね色でねじられた形の
揚げパンみたいなものが目の前に差し出させた。
「お前、財布スられたばっかだろ」
「…あ」
景色に目を奪われて大事なことを忘れていた。
まあ家に帰ってからでも買うことはできるし、
後で食べてみようかな?
…さて、視点を少し彼女の後方に移す。
そこには2人のストリートギャングがいた。
一人は銃を握っている片手をポケットの中に突っ込み、
もう一人はサミュエルと倉田をじっと見ている。
「あのガキは絶対に大金を落としてくれるぜ。
何せ、日本人は礼儀正しいからな。
身代金だってきっちり払ってくれるだろ」
「それに美人だぜ。もしもあいつを捕まえたら
李 梓涵 を周铭轩 は
人質にしてる間だけ好き放題にしていいんだろ、周?」
「ああ。殺さない限り何でもやり放題だ」
「最高だな、そりゃ!」
それを聞いて喜んでいるギャングの
見ながら、もう一人のギャングの
じっと聞き耳を立てていた。
聞こえにくいが、わずかながら奴らの話声が聞こえる。
(さ、こんなところで時間を潰してないで
とっとと海南武警の駐在所に行くぞ)
(あ、それもそうですね…)
「おい、今海南武警の駐在所に行くって聞こえなかったか?」
「何? こりゃ急いだほうがいいな」
「ああ。いいタイミングを見計らってかっさらおう」
こうして、二人のギャング達もまた歩き始め―
そして幸運なことに、その事に標的が気付いたのは
それとほぼ同じタイミングだった。
雑多な屋台だの露店だのが並ぶ道を歩いていると、
ふと後ろから人相の悪い二人組の男が付いてくることに気づいた。
怖くなってサミュエルさんの袖を思わず握りしめる。
「おい、どうしたんだよ?
俺はお前の保護者でも恋人でもないぞ」
「気のせいならいいんですけど、
後ろから怖い人たちが付いて来てる気がして…」
「気のせいじゃないのか?」
「でも、さっきからずっといる気がして…」
「なんだそりゃ?
お前日本人だし、いい人質にでも思われたんじゃないのか?」
「で、でも…」
「ま、用心に越したことは無い。
ちょうど近くにおあつらえ向きの場所がある。
そこで撒くさ」
「撒くってどこに」
「そこだよ」
そう言って、彼は路地裏へと入っていった。
置いていかれるわけにもいかないのでとにかくついていく。
路地裏の中は薄暗かった。
排気口から雑多なにおいが鼻の中に飛び込んでくる。
「一体どこに行くつもりなんですか?」
「仕事上の友人がいる場所だよ。
見た目は怖いが、まあ基本的に善良な奴だから安心しろ」
…基本的に?
彼のいう事がどこか怖かったが、とにかく進む。
だって、ここで置いていかれたら
帰れる自信なんてあるわけが無いし…
路地裏を進んでいく二人を見て、
それを追っていた李梓涵と周铭轩のギャング集団は愚痴をこぼしていた。
「畜生、面倒くさい場所に行きやがって! ああ、クソ…」
「落ち着け、いったん車に戻るぞ。
どうせ行先は分かってるんだ、先回りすればいい。
ついでに増援も呼んどけ」
路地裏の突き当りには一つのドアがあった。
「おい、俺だ!
サミュエル・カヴァナーだ!」
そう言いながら彼が勢いよくドアを開けた瞬間、
中にいるすべての住人がこちらを向いた。
サングラスを掛けたり鉢巻を付けたり違いはあるが、
ただ一つだけ明確な共通点があった。
…全員銃を持っている。
「おい、そんなガキ連れてどうしたんだ?
彼女でも見せびらかしに来たのかよ」
「あいにく、今日はツアー・ガイドをやってるんだ。
一身上の都合で転職したんだよ」
怖くて思わずサミュエルさんにしがみついてしく。
「…だ、誰ですかこの人たち?」
「ただの一般社会人達だよ。安心しろ」
「い、一般人?」
「何言ってんだよ、ここでは銃を持つのが当たり前だぜ。
まあ、お前みたいな外国人居住区済みは例外だけどな」
「一般人だって?」
そう住民の一人が言った途端、
急いで近づいてサミュエルさんが
小声で何やら話しかけている。
(言っただろ、こっちも訳アリなんだよ。
助けてくれよ。な?)
(…ま、普段から色々と借りがあるからな。
たまには返すのも悪くないか)
(…で、俺たちは何をすりゃいいんだ?)
(やってくる奴を追っ払えばいい。
簡単な仕事だろ?)
「…あのー、サミュエルさん?」
「ああ、すまなかった。
もう出発できるぜ、安心してくれ」
そう言ってサミュエルさんは裏口から出ていった。
ここの住民の一人もそれに付いていく。
「この人は?」
「ただの送り迎えだよ。気にしなくてもいい」
「来たぞ。ここで誘拐する」
「了解」
彼らが扉から道路へと出てきた少し後、
李梓涵と周 铭轩の二人は乗用車の中で待機していた。
横に乗り付けてそのまま車の中に彼女を引きずり込み、
そのまま奴から反撃される前に走り去る。
…完璧とは言えないが、少なくとも十分な計画だ。
そう李梓涵が思いながら、アクセルを勢いよく踏み込んだ時だった。
「おい、殺されてぇのか! どけ!」
周 铭轩がそう叫んだ。
目の前を見ると、進路をふさぐようにして
一人のサングラスをかけたチャイナ服の男が立っている。
「…殺されたい? よく言うぜ!」
そうチャイナ服の男が叫んだ次の瞬間、
二人は男が素早く取り出した短機関銃から
連続して閃光が輝くのを見た。
それがこの哀れなストリート・ギャング達の最後の記憶になった。
…彼が持っていた短機関銃の中に装填されていた
30発全てのフルメタル・ジャケット弾が吐き出されるまで、
ものの10秒もかからなかった。
弾丸が真っ向からエンジンを豆腐のようにぶち抜き、
内部にいた人間を片っ端から細かく刻んでいく。
コントロールを失った乗用車が彼の目の前を通り過ぎ、
電柱に激突して爆発炎上したところで一言だけ呟いた。
「徹甲弾なんて使うべきじゃなかったな、チクショウ…」
一方その頃、サミュエルと倉田は駐在所まであと少しのところまで迫っていた。
では、視点を再び彼女に戻すことにしよう。
「駐在所まであと少しだ。
ま、走って3分ぐらいだな」
「ようやく安全な場所に行ける…」
また路地裏を歩きながら、サミュエルさんはそう言った。
既に疲れ切ってはいたが、
それでも目の前にゴールがあるので
頑張ってひたすら進み続ける。
「駐在所の周りは比較的治安がいいし、何より綺麗だ。
ようやくあんたにお似合いの場所につけるぜ」
これでようやく終わる…
家に帰ったら、ゆっくり風呂に浸かって休もう。
「おい、そこの二人組! 止まって両手を上げろ!」
急に大声で怒鳴られて、思わず飛び上がった。
声のした方向を見ると、4人の男たちが立っている。
風貌を見る限り、さっきまで追いかけてきていた
二人組の仲間のように見えるけど…
「さあ、怪我したくないなら
とっととその娘さんをこっちに引き渡せ!
こっちも二人殺られたままじゃ面子が立たないんだよ!」
「ああ、畜生…
おい嬢ちゃん、俺の言う事をよく聞けよ」
「…?」
「ここでコイツらを何とかするから、
お前は駐在所まで転がり込め。
安心しろ、まっすぐ行けばたどり着くさ」
そう小声でサミュエルさんが言った。
「で、でも…」
「行け! たった3分走るだけだ!」
…声は小声だったが、どこか大声で言われたような気がした。
ここでもたついていると、もっと酷いことになる。
理由はわからなかったが、とにかくそう理解できた。
「…後でまた会いましょう、サミュエルさん!」
そう言いながら彼女は走り出していったが、
ここでは視点をサミュエル・カヴァナーの下に
留まらせておく事にしよう。
さて、彼の目の前には4人のイギリス人ストリートギャングがいた。
人種こそ違うが、その服装を見るに
どうやら彼女の予想は当たっていたらしい。
「なんだ、今度はイギリス人か?
悪いがこの場所は植民地には出来ないぜ」
そう言った後、生粋のアイルランド人である彼は
来やがれクソったれ共、
男らしく俺と戦え!
フランダースでどうやって勲章をもらったのか、教えてみろよ! 」
大声で反英歌の一節を高らかに歌った。
「
「素手で戦えんのか、オッサン?」
それに反応したストリートギャングの一人が、
そう言いながらナイフを構えた。
「来てみろよ。
IRAの時みたいにしっぽを撒いて逃げ出すことになるぜ 」
「…この野郎!」
そう言って男は何やら叫びながら向かってきたが、
それを最後まで聞くことは無かったし
言い切ることも無かった。
「.45APC弾がきっちり12発。
やってみろよ、クソ野郎」
そう言いながらCz25大型自動拳銃を
即座に構え、胸に銃弾を2発ぶち込んだ。
男は信じられないという目つきで立ち止まり、
そのままよろけながら地面に倒れる。
それを見て、周りにいた3人のギャング達が後ずさった。
さらに続けざまに真上へと一発だけ銃を派手にぶっ放すと、
そのまま三人は口々にわめきながら逃げていった。
その光景を見て、サミュエルが一言呟いた。
「ま、別に深追いする理由もないか。
うっかり怪我なんてして、彼女の前で出血シーンを
見せるわけにゃいかんからな…」
さて、視点を彼女に戻す。
何はともあれ、無事に駐在所まで
たどり着いた彼女の目の前には
海南武警所属の車両が大量に止まっていた。
先導用の半装機バイクや装脚戦車まで、
とんでもない数の車列が待機している。
「た、助けてください!」
「何だ、どうした!?」
「は、犯罪者に誘拐されかけて…」
息切れしていたが、とにかく不安を口から吐き出したかった。
起こったことをどうにか海南武警の人に説明する。
「…そうか、頑張ったな。
後はこっちで対応するから、氏名と連絡先を教えてくれ」
「名前は倉田朝羽、連絡先は…」
そうやり取りする彼女の後ろ姿を、
一人の中年男性― サミュエル・カヴァナーが
煙草に火を付けながらじっと見ていた。
横にはチャイナ服の男が立っている。
「よぉ、サミュエル。仕事は終わったか?」
「ああ、今ちょうど終わったところさ。
全くひでぇ送迎だったぜ」
「彼女に別れの挨拶はしたのか?」
「いや、何も。途中で色々あって
彼女を逃がしたんでな」
「じゃ、タイミングを見計らってするべきだな。
とっとと行ってこい!」
「おいおい、そんな簡単にできる事かよ…」
そう言って、彼はどこかへと歩いていこうとした。
「サミュエル!?」
「何だ? ギャングの増援でも来たのか?」
「ほっぽり出すのは良くないぜ!
さもなきゃ、彼女はお前の生死を確かめるために
もっかいここに来るだろうよ!」
「ま、それもそうかもな…」
そして、彼はふたたび歩きだした。
最も… 歩き出す方向は少し違ったが。
さて、視点を再び彼女に戻すこととしよう。
海南武警のみなさんは、
私を駅まで装輪装甲車で丁寧に送迎してくれて
おまけに電車賃も貸してくれた。
一応無事で帰ることはできたけど、
それでもどこか気分が重い。
「あの人、大丈夫かな…?」
そう思いながら、ふと窓から
徐々に離れていく駅のホームを見ると―
「あ!」
サミュエルさんがホームの端っこに立って、
こちらに向かって手を振っていた。
「おーい、おーい!」
言葉を返すように、こちらも大きく手を振る。
「また会おうな、嬢ちゃん!」
そう言って、彼は走り去っていく電車を眺めていた。
(しっかし… 幸運と言えば幸運なんだが、
どうしてあんなに海南武警がいたんだ?
何かあったわけでも無いんだが…)
正直なところ、
彼はあれだけの重武装をしている部隊がいるとは思っていなかった。
この事について何も知らなかったし分かりもしなかったが、
当たり前と言えば当たり前だった。
「何かあった」ではない。正確には「何かが始まった」だった。
彼はこの真相を明日の朝刊で知ることになるが…
我々はこの事を一足早く知る事にしよう。
時間は過ぎ、話はまた次に移っていく。
そう―… ちょうど5時間後の事だった。
→今日、今この地点/Present day, Present time
サミュエル・カヴァナー
アイルランド人、出稼ぎ。
服装青ジャージで好物は煙草。
職業はヘリパイロットで、
匿名で送られてくるよくわからん荷物を
日々どこかの誰かへと届けている。
倉田朝羽
日本人、高校二年の女子高生。
父親が海南市に支部を置く企業に転勤することになり、
その結果こんな東洋のカオス空間へと
無慈悲にも放り込まれることになった哀れな子。
でも比較的治安のいい場所に住めたため、
犯罪に巻き込まれたことは今回まで一切なかった。
・李梓涵
ストリートギャング1、
相手を見誤って死んだ。
フルメタル・ジャケット弾30発をぶち込まれたので
かなり見誤った。
・周 铭轩
ストリートギャング2、
相棒を見誤って死んだ。
メモ帳だと常に名前が「周 □□」になるお人。
・チャイナ服のおっちゃん油浩然 。
本名は
三合会の下の下の下らへんにいる人。
死んだ英国人に泣きました。血の日曜日事件起こします
こっちもそろそろ広東動かすか
私もちょっとしたら会社側を書きますかね…
会社ってどの会社ですかね?()
海南駐屯PMCかどっか?
そですそです。
ユニオン構成企業の警備、近隣の巡回をしていると思われるプロトコル・モナーク社の皆様を書こうかなと。
設定のすり合わせを明日あたりに…
鋼鉄の冷気が漂う地下コンプレックスのブリーフィングルームには、淡い青白い照明が灯っていた。壁に貼られた高解像度モニターが次々と戦術マップを切り替え、空気には人工静電フィルターの微かな唸りが響いている。
黒の防弾装備に、赤色の小さな光が脈動する自律識別タグ。全員が、黙って中央の投影に目を向けていた。
「全員揃ってるな、作戦を説明しようか」
『ヒーリアム、工業地区でサイコハザードがあったと聞いてる、その後処理?』
「御名刹、聞いてるなら話が早いな」
前に立つ"ヒーリアム"、指揮官ユン・ハオ少佐。義眼のHUDが淡く明滅し、声は無機質ながら明瞭だ。背後のホログラフィは、工業地帯と数本の地下アクセス路を映し出している。
「依頼主はJLY。内容は知っての通りサイコハザードへの対処だ。対象の工業地域で発生したサイコハザード対処のため、既にTYP-57とKR27の混成部隊が展開しているが、オペレーション・クラルテ以前に建設された地下通路や工場が作戦進行を阻害している。作戦の延長はサイコハザードの更なる拡大を
生み出しかねない。そこで我々の出番…というわけだ」
ホログラムは次々と立体的に工業地帯の状況を映し出す。ついては消える赤い点、中心に向かって進む大小二つの緑色の点と次々増える赤いバツ印。
「現地はドローンによって隔離されており、当分は汚染拡大を防げるが…。情報によれば汚染者の中には銃火器で武装した者もいるそうだ。我々は現地の無人機隊と協働して工業地区を制圧。テミス・システムのエリアスキャンによりUCCI規定値以下の者は全てω9へ降格されている。事前の警告は不要だ、撃って構わない」
『市民だとしてもですか?』
「繰り返す。テミス・システムのエリアスキャンによりUCCI規定値以下の者は全てω9へ降格されている。市民であろうが、テミスは不要と判断した。それだけだ。不満か?スカンジウム」
『いえ…、』
「スカンジウムは最近配属されたばかりだったな。これがここの日常だ。いずれなれるだろう。我々は会社員であって公務員ではない」
テミスが決定したのだ。それが事実であり証拠で、他の誰も異を唱えることはない。
ユン・ハオは表情一つ変えずに説明を淡々と続ける。
「今回の報酬は歩合制、それと別に行政府から治安維持協力金が追加手当で出る。常時仕事はテミス・システムに記録される。明日のうまい飯が欲しければ仕事をやり遂げろ。以上、V-19がハッチで待っている。準備ができ次第出撃せよ」
ユン・ハオがブリーフィングを終えると同時に、室内の照明が切り替わり、赤い非常灯が点灯した。
誰も声を発さない。
それがENノクターン・セキュリティーのブリーフィングだ。テミスに従うこと。管理された秩序の下、この行政区で幸せに生きる最善の選択なのだから。
「ユニット03、南側非常梯子確認。熱源反応2、交戦準備を」
ノイズ混じりの音声が通信に走る中、ENノクターンの黒装備が無音でビル影を移動していく。ドローンがビル群の谷間を滑空し、赤外線の網を張る。既に無人機隊と汚染者たちの抵抗の後が生々しく地面に赤黒くこびりついていた。
「—やめろ! こっちは何もしてない!」
叫び声が響く。工場の一角から、男が両手を挙げて飛び出してきた。後ろからは幼い子どもを連れた女、そして老いた女が這うように出てくる。全員、登録IDタグなし。テミスからの判定は即座に下る。
「犯罪係数371、301、322、319。執行対象です。速やかに執行してください」
バシュッ、と音がして、空気が震える。後ろからTYP-57の砲塔から打ち出された青白い光が一筋の線を描いて、光を受けた男の身体が内側から膨張するように破裂し赤い液体と焼け残った肉塊を振りまく。女は子どもを庇って悲鳴を上げ、だが次の瞬間には隊員の銃撃によって諸共床に崩れ落ちる。
「誰の戦果だ?」
『あとででいいだろ』
周囲で爆音。非常階段の上部で誰かが即席火炎瓶を投げた。
「ユニット05、火線確認! 照準中――」
だが、その言葉よりも速く、1人の隊員が膝をついた。肩口を焼かれた黒装備が煙を上げる。
別の隊員が素早く対応し火元の男を銃弾を浴びせた。血飛沫は雨で即座に洗い流される。
「残存熱源ゼロ。第一区域、鎮圧完了。マグネシウムが負傷したが軽傷だ」
空中からドローンは逐次封鎖エリアをスキャンし執行者をあぶりだす。データベースは逐一更新され、無人機隊は無感情に見つけた執行対象者を無慈悲に撃つ。都市の破壊は最小限に抑えられる。
『空中管制ドローンからのスキャン結果が出た。新たに反応多数。地下通路だ。たくさんいる。CVC照合急げ』
『全員、照合結果が出次第ただちに執行。仕事は早く終えて家に帰れた方がいいだろう?』
「はは、そうだな。さっさとやってしまおう」
少佐の声が隊内通信に走った。
「RELIC群へ伝達。Bエリアの執行完了。死体回収を依頼」
『RELIC09、了解。直ちに向かう』
雨は止まない。無人機の残響音と、遠くで泣く子どもの声、そして銃撃音だけが支配していた。
・JLY
江南綠源農業股份有限公司。蘇州の地元企業。
・特別行政区での警察
珠江特別統治区やヴァスコ・ダ・ガマ行政区などでは警察の民営化に伴い、各団体や企業などから個別にPMCへと依頼を出して"サービス"として警察業務を提供している。対処にかかった時間や人件費などを含めて後から顧客へ請求される。
一応行政区からの補助金も出るが、全額ではない。依頼主は個人から企業、行政区など様々。
・治安維持協力金
行政区における治安維持活動を行ったPMCなどに対して支払われる。依頼の規模によっても金額は変わる。
・RELIC
ENノクターン・セキュリティが有する治安部隊。実弾による執行後の死体回収・血痕などの洗浄を担当する。
・サイコハザード
精神汚染。集団で起こるUCCIの規定値異常を主に指す。
なんだこの絵はたまげたなぁ()
なんかサイバーパンクみある
榊の前に立っている男たちはずいぶん前からギャーギャーと喚いていて、いい加減腹が立っている。ルコラにいる名前を覚える価値もないような部下や、関連会社か何かの会社の社長などだ。榊の広州の執務室に来るために、かなり速い方から来た人もいた。彼らは、自分をうまく自己紹介し、よく準備された発表をした。卑屈にお辞儀をしたり、泣き言を言ったり。榊の改革の急進性を指摘する声や、榊の統治により広東に訪れるであろう『摩擦』や『燃え尽き症保群』に関する懸念。榊の構想に敬意を表しながら、彼らはこれらを言った。
「もう結構」
男たちの1人、佐藤が馬鹿な従兄弟の御涙頂戴話を捲し立てていたとき、榊はそう言った。
「佐藤くん。広州に来るのは大変だっただろう?」
『い、いえ、そんなことはありません、行政長官!』
佐藤が榊を期待を込めた目で見た。
「それはよかった。ただでさえ既に苦労している君が、ここに来るためにさらに苦労をしているとしたら今すぐに日本へ帰ったほうがいい。それに加えて、佐藤君、ルコラの水準を満たすために時間とエネルギーと矜持にではなく、凡庸であるその言い訳に力を注ぐことに決めたのなら、それも今すぐやめろ。そして佐藤君、君の従兄弟は精神と肉体、どっちの障がい者なんだ?」
『な、なんですって』
「障がい者だと言ったんだ!」
榊の挙がテーブルを叩き、皆を驚かせた。
「基本的な仕事も満足にできないほど発達が遅れているんだろう!過剰なおしゃべりをすることなく的確な指示を出して満足のいく結果を得ることや、会社の基本的な指示や要求に従うことは、本当に至難の業か?お前の低脳な従兄弟の凡庸な努力は、人間の精神の勝利と呼べるのか?」
彼の声は今や、唸り声に変化していた。
「脳も神経も何時間も限界まで酷使してもなお、そのようなクソみたいな結果を生み出すことしかできないのか?広東国にはそのような者の為にあるわけではない。日本に帰って生活保護でも受給する方が有意義だとは思わなかったのか?さぁ、君のその小さな脳で意味のない言い訳を喚き散らす前に、俺の執務室からさっさと出て行け!」
ルコラはこれからも卓越さを追求し続ける。
黒い.....ただただ黒い。上も下もわからない。そもそも、自分の身体がどこにあるのかさえも。
延々と続く漆黒の空間で、彼女は意識?を取り戻す。
「なに、、、がっ、、、起こった?私は確か、、、あれ?私は何で、、、ここにいる?」
記憶が曖昧で、感覚も、身体も全て溶けているような、、そのような感覚に包まれる。
「思い出せ!!何があった?!」
必死に思い出そうとする。水中を進むような、もどかしい感覚に苛まれながら、砂浜でダイヤを探すように。
「こ.....体...一部を.....」
「誰の、、、、声?」
聞き覚えのない声だ。一部?何のことだ?曖昧な記憶の散策は”それ”に対する疑問へと変わった。
「こいつは.....がある。できな.....だけだ。手伝え、手..........所を探す。」
声の主は二人、何か話しているみたいだった。
「っぐ!!あ”あ”っ!!!」
突然腹部と左腕に激痛が走る。外傷はない。
「何、、、何よ、、、っ、、これっ!!」
激痛に耐えられず、目線を下に落とすと、赤い血だまりに、無数のどす黒い触手。それが足元から徐々に、体をきつく締めあげながら這い上がってくる。
「離れろ!!このっ!!化け物がぁ!!」
今まで出したことのない怒声が漆黒の闇に響く。しかし、そんな彼女の憤怒も、届かない
ミシ.....ミシ
骨がきしむ音がする。どす黒いそれは上半身にも巻き付き、体の自由を奪いながら、力を強めてくる。
「ガハッ.....待って、、、、も、、、」
意識を手放しそうになる中、一本の触手が狙いを定めるようにこちらに向く。
「そうだ、、、確か、、、私は、、」
ここに来る前のことを思い出す。そして、、、重なる。
「やめろ、、、、やめ、、、、やめて!!いや!!離せっ!!!離してよ!!この!!」
何が起こるのか、簡単に想像が着いた。仲間や家族にも見せたことのない弱い彼女の姿がそこにあった。
触手はゆっくりと彼女の腹に向かって前進する。
ズブリ
下腹部をえぐられ、内蔵がかき分けられながらゆっくりと味わう様に進んでくる。
「ア、、、、ガッ、、、ウプッ、、、、」
もはや声にすらならない呻きをこぼしながら、暗い闇へと、意識は沈んでいった。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」
絶叫しながら体を跳ね上げる。しかし、さっきのような真っ暗な空間ではない。
一定のリズムを刻む電子音、静かで真っ白な部屋。
「っ、、、、、、あ、、、、」
安堵とともに大粒の涙が、とめどなく頬を伝う。
「アー、、、サー?」
右手に温もりを感じる。そして、目を丸くしてこちらを見る女性。黒い長髪が揺れ、オレンジのインナーが見え隠れする。
「ルイーシャ、、、、ルイーシャっ!!」
泣きながら彼女は抱きつく。本来守る対象のはずの彼女に、今は弱い自分をさらけ出している。
「アーサー、、、良かった!!、、、ルーカスさんから、、連絡があって、、、それで、、」
ルイーシャもアーサーを抱き返す
「ルーカス、、、あいつめ、、、気が利くじゃない、、、」
安堵とともに、軽い会話を交わす二人、しかし、ふと思い出す。
「あの2人は?」
「あの二人?、、、ああ!アーサーを病院に連れてきてくれた人たちね!ごめんなさい、、名前は聞けてないらしいの。出来ればお礼を言いたいのだけど、、、」
ルイーシャは申し訳なさそうに話す。そんな彼女の頭を優しく撫でる。
「どうしたの?アーサー?」
きょとんとした顔で聞いてくるこの顔が、何とも愛くるしい。そうだ、帰って来たのだ。
「いや、、、なんでもないわ。いつか、この借りを返さないとね、、、あの二人に。」
雨が止んだばかりの、音を忘れた街。
舗道に溜まった水たまりは、うっすらと紫がかっていた。頭上でまたたく“ELECTRIC ROSE”のネオンが、それを優しく照らしている。
ピンクと藍の光がアスファルトににじみ、まるで割れたステンドグラスのようだった。
彼はその真ん中にいた。
背中を薄汚れたコンクリートの壁に預け、片膝を立てて座っている。グレーのシャツが脇腹のあたりから深紅に染まり、黒革のコートの裾も濡れていた。
血の感触にはもう慣れているはずだった。
なのに今日だけは、体のどこかが違和感を訴えている。妙に静かで、やけに鮮明で。
“Now and then I think of when we were together…”
遠く、誰かの車のラジオが曲を流している。“Somebody That I Used To Know”。
旋律が雨上がりの夜気に溶けて、路地に漂う。
耳に届くたび、心臓の鼓動がゆっくりになるのがわかる。
この曲は、エリーが初めてこの街に連れてきてくれた夜に聴いたやつだ。
――そうだった、あれは確か、ラズベリー・ジントニックのカクテルバー。
彼女はグラス越しに笑いながら言った。
『この曲、悲しいけど、なんか……甘いでしょ。あんたの背中みたいにさ』
背中、ね――
彼は苦笑した。少しだけ喉の奥に熱いものが込み上げて、また咳き込む。そのたびに、舌の上に鉄と泥の味が滲む。
ゆっくりと、指先が胸ポケットを探る。
出てきたのは、小さな写真。ポラロイドだ。
もう随分前に撮った、二人のツーショット。
エリーの髪は金に近い赤で、ネオンに照らされて炎みたいに揺れていた。彼は、その隣で少しだけ居心地悪そうに笑っている。
「撮るなら言えよ」って文句を言いかけた瞬間の顔だ。その写真のエリーは、今でもまるでそこにいるようで。
“You can get addicted to a certain kind of sadness…”
彼は写真を胸に戻し、深く息を吐いた。
目を閉じると、浮かぶのはいつもあの夜の記憶。
冷たい風、騒がしいネオンサイン、ミントと煙草の混じった彼女の香り。
頬にそっと触れた細い指――そして、その声。
『……あんた、さ。いつかこの街に殺されるよ』
その言葉が、今になって胸に突き刺さる。
まるで、未来を見透かしたような顔で彼女は言った。当時は笑い飛ばした。
『街なんかに殺されるもんかよ。俺は……俺はこの街で生きるんだ』
でももう、何の意味もなかった。
足元に落ちた血のしずくが、ネオンの光を反射して薄く煌めく。誰にも知られない場所で、名前のない夜に沈んでいく。彼は目を開けたまま、夜の向こうを見つめていた。
もしも、彼女がこの路地を通りかかるなら。
もしも、ネオンの色で彼を見つけたら。
そのとき彼は、もう一度、名前を呼ぶかもしれない。けれど、そんな奇跡は起きないと、もうわかっている。
ネオンが、また一つ切れた。
“ELECTRIC ROSE”の“R”が消え、“ELECT IC _OSE”になった。意味のない綴り。けれど、今の彼にはちょうどよかった。名前のない夜には、意味のない文字が似合う。
“But you didn’t have to cut me off…”
彼は最後に、ネオンの光を見上げた。
瞼の裏には、かつて愛した人と、もう会えない約束と、終わってしまった音楽。全てが混じり合い、夜に溶けていった。
その姿は、まるで一幅の絵画だった。
濡れたアスファルトの上で、ネオンの光を浴びて。
彼の名前も、罪も、過去も、誰にも知られぬまま、夜がすべてを包んでいく。
雰囲気好き
こっちも海南島の茶番の続き書くか…
モチーフ曲…を使用した動画()
https://youtu.be/N-M6-Y5RbKA?si=q_fce3I6a2TKz4xO
「現在この地球上において、人の知能を超える生命体は発見されていない。…というのが一般的な定説だ。人ことホモ・サピエンスが地球上にて40万から25万年前に生まれて以降、人と同じように文明を築くもの、人類文明を直接的に滅ぼしたものはいないかった。極東ロシアにおける、一部の動物類の特徴が混じった擬人類はホモ・サピエンスとは違うが、基本的には人類と同義と見られている、このことからも人型以外が文明を築けた例はない。ーー、」
__
『客船コロンビア号の沈没事件以降、大西洋における船舶の沈没事故が急増しており、帝国政府は注意を呼び掛けていますー、』
『ーシナロア大学と第6ベラクレス研究所の合同チームは、帝国エーギル自治領に伝わる伝説的生物に関する発表を行いました。しかし、中央アメリカ学会においては非現実的すぎるとして発表は虚偽であるとー』
__
「宇宙においてはこれまでも地球外文明が存在すると提唱する声は多い。しかし人類は古代文明から宇宙に思いを馳せて研究に熱中し1950年代にはじめて宇宙に到達してから今日まで文明の痕跡すら確認されていない。宇宙は我々の観測できないほどに広大なのに。かの有名な物理学者エンリコ・フェルミはこれを"フェルミのパラドックス"と呼んだのはここにいる全員が知っていることだろう。これを否定する仮設としてグレート・フィルターがーー」
__
『帝国某所において打ち上げられた海洋生物は、生物学上の進化の系譜のどれにも当てはまらずーー』
『世界中のインターネットで同時多発的に障害が報告されておりー』
『ー大西洋ーーー地点にて海面変動を観測…、これは…?地面の隆起?地震…、火山でもない…』
__
「人類より賢くて、強くて、思考を統一できて、文明を築ける生命がいたのなら世界はとっくにそれらのものになっているだろう。例えば、"種を存続させる"ことのみを追求して環境に対して世代交代を介さずに適応する能力を持った生命体…とかな。まぁ、今までそんなものがいたことはない。おとぎ話以外ではな。」
__
「大きさは?」
「…最低でも…い、1kmはあります…」
『全世界において原因不明の霧が発生し、ーーー』
『ーーのーーさんが死亡した事件で、警察は最近沿岸部で増加している不審死事件との関連を調べています。ーーでは1ヵ月で11人も行方不明・死亡しており当局は注意を呼び掛けています。』
『生物学会はーーーにおける海洋生物の異常発生に関してー、』
__
「エーギル?あれはおとぎ話だよ。そんなおとぎ話を信じてる暇があったら君は卒業研究を進めた方がいいんじゃないか?このままだと志望しているエレナ・ニーナやANHの研究職にはなれないぞ。最近は競争率が高いし、企業側も優秀な人員を選抜したからなぁ」
__
「最近の異常発生した海洋生物ですが…、規模は違えど全て陸地に向かっています。…、」
「規模は100から…、…、い…、」
「更に毎日新種が発見されており、……いや全てが謎なんです」
舗道の水たまりに映る光は、まるで血のように赤く、時に青く、夜の中で呼吸をしているようだった。
暗い夜の、さらに薄暗い路地裏で転がる男の姿に、誰も気づかない。けれど、その女は例外だった。
「……おや」
ブーツの音が止まり、女がしゃがみ込む。
ロングコートにくたびれた革のショルダーバッグ、懐からわずかな金属音を出したその女は、慎重に男の顔を覗き込んだ。
唇に乾いた血。脇腹に濃く広がる染み。
そして――かすかに上下する胸。
「なぁ、青年。こんなところでロマンチックに死んでる場合じゃないよ?ジッポ持ってなぁい?ライターでもいいけど…今の子は吸わないかぁ」
彼女の声は軽く、夜風のようにさらりと耳に抜けていく。けれど、その目つきは鋭く、揺らがない。
手慣れた動作で男のシャツを裂き、傷口を確認する。
「……ふぅん。左脇腹ねぇ。肺は無事のようだ。
青年、運が悪くて、運が良い」
そう呟きながら、彼女は自分のストッキングを破って即席の止血帯を作った。その動きには無駄がない。助け慣れてるというより――見捨て慣れてきた女の手だった。
「エリー……」
男がかすれた声で呟いた名に、女の手が一瞬止まる。けれど次の瞬間には、また淡々と包帯を締めながら、口元に笑みを浮かべる。
「へぇ、好きな女の子?いいねぇお年頃だねぇ」
彼女は男の手の中にあるポラロイドをちらりと見る。もう色褪せた薄い輪郭を見せる写真。女の顔は、笑っていた。
「いい笑顔じゃない。……でも、今は置いてこうか。過去はお荷物になるからね」
立ち上がって肩のバッグを漁り、小型の医療キットを取り出す。その横に見えるハンドガンのグリップが、路地の明かりにかすかに光った。
「さて……“今夜のロマンチック”はここまでにしようか。青年、生きるのは下手そうだけど、運はまだある」
彼女は再びしゃがみ込み、男の腕を肩に回す。
男の頭がぐらりと揺れる。
「しっかり掴まって。歩いてよ? 無理でも歩く。文句は、あとで聞こー」
彼女は一歩ずつ路地を進み始める。
夜の底を踏みしめながら、ひとりとひとりを連れていく。
「……そうだな。名前、いる?」
男は返事をしない。けれど、吐息だけはまだある。
「なら、今夜は“ロス”ってことで。……うん、悪くない。名前なんてものは、後から拾ったって、誰も文句言わないからね」
ネオンが、またひとつ消える。
労働党議員会議における政策方針の対立から発展した党首ドワイト・ラッテンバーグとアーレ・ブラウダーの極めて激しい対立、それは労働党内のみならずウルグアイの政治全体に影響を及ぼしていた。労働党の内部対立によって圧倒的な個人的人気を誇るオルドーニェス大統領率いる与党自由党を阻む勢力がいなくなる事危惧したブラウダーとラッテンバーグの両者は和解に至るため2者会談に踏み切った。
田園地帯の中、ブラウダーの家は農民の集団居住地の中にある。周りの人が掃除をしてくれている為、彼の家の前は郊外の集団居住地として綺麗な方に入る。それでも、正装を着たラッテンバーグの前では見劣りするだろう。ラッテンバーグの服の生地は地方の人々から見たら別世界の物のようでもあった。彼が来た時ブラウダーはちょうど玄関に立っていた。ラッテンバーグは時間に正確である事を美点としていた。
「こんにちは、ラッテンバーグさん。ようこそ、我が家へ。」
ブラウダーは握手の手をラッテンバーグに差し出した。ラッテンバーグはその手を握る。その様子は先日の対立からは想像もできない。ブラウダーは応接間にラッテンバーグを招くとコップ一杯のマテ茶を出した後、早速話題に入った。
「ラッテンバーグさん。単刀直入に言います、この党内分裂をどうするつもりですか?このままでは、あのオルドーニェスに勝つどころか議席の4分の1をとることも不可能になりますよ」
ラッテンバーグは質問に質問で返した。
「青年局は妥協の兆しはあるのか。あれが反対し続ける限り党はまとまらんぞ。ラッテンバーグ派の強硬派や青年局解体派は妥協させた。あとは青年局の妥協だけだ。」
「青年局の幹部は全員ラッテンバーグ派との和解に賛成しました。…しかし、地方までを解決することは現実的に不可能です。これからは、地方の学生に向けて遊説に出ますが…効果はそれほど期待できません」
ブラウダーは地方議員の名前などをいくつか挙げながら、それは右派修正主義者などと罵られる恐れを抱きながらも地方議員に対してブラウダー自ら妥協の利点を説いて回った事を説明した。それは、若手中堅の中心人物であり党執行委員会副委員長であるブラウダーですら、現地に赴いて直接働きかけねば止められない動きが存在する事を示していた。
「それで、オルドーニェス政権とはどう妥協するのですか?認めるのは癪ですがオルドーニェスの行動は純外交政策的、純軍事政策的には間違っていません。専門家も彼を支持しています。マラカナン級5隻を売りつけるのも解体費を削減と新型艦の建造費の一部調達を達成する方法の一つであります。1面とはいえ、正しい事をしている人物を説得することは難しいでしょう」
ブラウダーの指摘は尤もだった。新型フリゲートの建造案を含む第4号建艦計画は上院を追加して残りは下院の通過のみという状況。下院でも労働党の議席は自由党を下回っている。ストライキ以外にオルドーニェスを止める方法はない。
ラッテンバーグは少し悩んだ後答えた。彼の顔には何かの決断の色が浮かんでいた。
「私に任せてくれ。自由党とは折り合いは既につけてある」
その後、オルドーニェスとの二者会談についてラッテンバーグは話た。オルドーニェスとの自分の関係は公にしない予定ではあったが、70を超えた彼には病状不安が付き纏っていた。彼はラッテンバーグ派のことを含めた労働党のすべての情報を100枚の書類にまとめブラウダーに渡した。
円滑したブラウダーへの権力移譲には、早めに行動を開始した方が良いだろうと彼は考えた。彼は決断した。ブラウダー以外に新しい党首に相応しい人物はいないのだ。
ちょっと理詰めで描きすぎた。人間味がない。
沿岸を眺める高台の上に2台の装甲車が止まっている。周囲は都市の喧騒もなく至って平和で、波が満ち引きを繰り返す音だけが耳に届いていた。
「衛星通信はまだ繋がらないのか?」
『はい、軍民共に』
装甲車の通信機は、5時間前から聞くに堪えない雑音を喚き散らしており知る限りの回線に切り替えてもそれは変わらなかった。
『こちらアゾレス分隊、本部。応答せよ。繰り返す、』
〈____…〉
「しっかしな、最後の命令…お偉いさん方は狂ったのか?正気とは思えない」
『大量発生した海洋生物の駆除…、』
「笑えるだろ?ゴジラか光の巨人でも出現したのかってな?そしたら俺らは映画序盤で蹴散らされる役かもな」
『冗談でも笑えませんよ…』
『地平線上に艦影視認。3時方向。ー…、』
海洋を監視していた隊員の一声で、隊員達は一斉に海洋の地平線上を眺める。地平線上に見えたのは島だった。
「数は?」
『いえ、…数は1?…島が…近づいてきています』
「は?……そんなわけないだろう。目の前のやつは元から…」
『いえ、地図ではこの方角に島が見えるはずがありません…。推定される大きさは2km…。』
海面は不穏だった。
風もないはずの水面が、緩やかに、しかし確実に膨らんでいく。"島"は今も"隆起"している。まるで深海から何かがゆっくりと浮上してくるかのように——そう、それは波ではない。鼓動だった。
やがて、それは音になった。重低音。海そのものがうめき声を上げるような、鈍く湿った音。魚が一斉に跳ね、逃げた。
「ばかな…!?」
最初に目にした者はそうつぶやいた。水平線の先に、薄く盛り上がった灰青色の塊。だが、それは島ではなかった。それは生物のように「動いた」。
表層が裂け、水が放物線を描いて飛び散る。その中心から、二枚の巨大な翼膜が音もなく広がった。まるで大空をゆるやかに舞うイトマキエイ——しかしそれは空ではなく、海上で。翼膜の端から端まで、異様な大きさ。皮膚は滑らかで、墨を垂らしたような黒と青のまだら模様が陽光を吸い込む。頭部は……あった。だが顔はなかった。ただ、鈍く光る二つの「凹み」が、その存在が知覚するという事実だけを突きつけていた。
海から半身を現したそれは、まるで浮いているかのように静止し、やがて、翼のようなひれをゆっくりと打ち振るった。
その瞬間、潮が反転し、風が逆巻き、島のような巨大は空へと持ち上がった。
そして、それが空を見上げたように僅かに頭をもたげたとき、空の雲が円形に裂け始めた。
まるで世界そのものが、それの通過を許容する準備を始めたかのように——。
唖然とする隊員達の視界の横から煙の線が見えた。20発を超えるミサイル、島司令部基地の方向から化け物へ向かって一直線に突き進む。
化け物は回避行動を取ることもなく空を悠々と進み、ミサイルの全てが巨体へと命中する。
爆光、更に爆発の光が次々と。
だが、次の瞬間、煙の中から浮かび上がった輪郭は、損傷していなかった。
むしろ――ミサイルの衝撃を吸収するかのように、皮膚が液体のように波打っていた。
そして、生物は静かに回頭した。
その“顔”が、ミサイル発射が向かってきた先へと向けられる。
空が割れた。
生物の額にあたる部位が、淡く脈打つ。青白い光が、まるで深海の生物の発光器官のように明滅し、やがてそれは、一点に集中して収束していった。
「な、何が起こって!?」
誰かがそう叫ぶより早く、光が溢れた。
轟音はなかった。一瞬、世界が静止した。全ての音が消え、空気すら振動を止めた。
そして、閃光だけが存在した。
それは「ビーム」と呼ぶにはあまりに異質だった。直線ではなく、微かに揺らぎ、滲み、ねじれながら前方へと突き進む純粋なエネルギーの奔流。色は青白く、縁に紫が混じり、波のように脈動していた。
閃光の先は司令部のあった場所に大きな爆発をもたらし、衝撃波が海上を走る。
生物はゆっくりとひれをたたみ、静かに沈みはじめた。
まるで、何もなかったかのように。
長い悪夢の始まりだった。
保守党が勝った。
それはテイラーによる「統制された平和」が続くことを表していた。労働党と自由民主党の議席数は議会の4割ほどにまで落ちぶれ、保守党と首相は自由にこの国を動かすことができる。エイヴォンは権力の座を負われるだろう。本当に彼の責任だったのかはさておき、党全体の利益のため総選挙の敗北の要因をすべて彼に押し付け、また新たな有能を見つけるためだ。
深淵を覗く時。
この言葉の意味する通りとなった。大陸に充満する国家社会主義と共産主義の脅威から国家を守ると宣言したかつてのテイラーは今や新保守主義の名の下、統制された民主主義を自由と呼んでいる。なんと滑稽なのだろう。
しかし多くの英国国民の生活は変わらない。昨日と同じ時間に起きて、食事を摂り、仕事をし、就寝する。彼らにとって憂慮すべき点とは日々の生活が政府により侵害されるかどうか。大半の国民にとって騎馬警官が街頭を巡回して、路地裏で思想犯罪者が拘束され、保守党が法案を強行採択したなどということは自身の生活に何の影響も無いのだ。
変わりなく、テイラーの治世と治安維持は続く。過激派は姿を消し、労働組合は声高に訴えかけ、貴族は貴族院に帰還する。古き良き20世紀の光景は蘇る。
これこそが大英帝国なのだ。
希望と栄光の国
テイラーは満足げに机の後ろに座った。エイヴォンたちは失敗した。労働党は失敗したのだ。 首相は、夫の用意してくれたスコッチを飲みながら微笑んだ。
この選挙は、労働党の大義名分を揺るがすものだった。エイヴォンはその地位を追われ、労働党強硬左派のマイケル・チャリントンが労働党党首の地位に就いた。酒を飲みながら、彼女は次の手を考えた。労働組合を権力の座から完全に締め出さなければならない。これからの経済改革、新自由主義的な経済体制への移行は間違いなく彼らからの反発を生む。国家に安定をもたらす強力な男たちに取って代わらせる必要がある。
街を眺めながら、テイラーはもう一口飲み、椅子にもたれかかった。 この選挙は、国民がかつての大英帝国を追い求めている何よりの証明となった。実際、労働党の失敗は、彼女の政権にとって最高の出来事だった。これで真の改革をこの国にもたらすことができる。
テイラーは窓に向かってグラスを掲げ、自分自身と大英帝国にささやかな乾杯をした。
強者に乾杯。
I vow to thee, my country, rule Britannia!
ハロルド・エイヴォンは台所に座り、ウィスキーのグラスを傾けていた。すでにショットで7杯を飲み干したが、酔いが醒める気配はない。かつて酒に溺れかけていたころは、禁酒は彼の個人的な誇りでもあった。パイプを吸っていたので結局のところあまり変わりがなかったのかもしれないが、しかし、プライドを傷つけられ、希望を打ち砕かれた今、彼は昔の酔いの感覚を楽しんでいる。
もう少しだった。選挙は、保守党によって悪用されたシステムに、正義と自由のかけらをもたらすチャンスだった。しかし、結局はすべて無駄だった。支持を集めるために交わされた取引や約束、多くの労働者に抱かせた希望や夢は、テイラーの勝利によって灰と化した。
労働党は彼を党首からおろした。確かにチャリントンはこのような情勢において彼よりも優秀な男と言えるが、それでもショックは大きかった。自らの政治生命の終わりに、彼は吐き気がした。自分のキャリアを通して、国民のために尽くしてきたことが、すべて帳消しになってしまったのだと思うと。涙がこぼれそうになりながら、エイヴォンは目をつぶった。
労働者の自由のための最後の希望であったハロルド・エイヴォンは、キッチンで酔っぱらって号泣した。涙は、彼がもう一杯酒を注ぐのに十分な時間だけ止まり、再び始まった。
それでも人生は続く。
いま一度、同志諸君に訴えたい!
私たちの闘争は、単なる過去の遺産ではない。我々が守るのは、労働組合と連帯しながら築き上げてきた社会の礎、そして互いの尊厳です。しかし皆さん、新保守主義の名のもとに、保守党は何をしてきたのか?マーガレット・テイラー、あの鉄の女が率いる保守党政権は、企業の利潤を国民の福祉よりも上位に置き、強者だけに光をあて、弱き者を切り捨てた!
テイラーの政策は市場の自由と自己責任を絶対視する一方で、労働組合を抑え、社会の連帯を引き裂いた。公営住宅は売り飛ばされ、鉱山や工場は閉鎖され、働く者たちの誇りは踏みにじられ、地域社会は荒廃した。同志よ!これは進歩ではなく、反動的な停滞だ!
保守党が掲げる政策は、「効率」の名のもとに弱者を置き去りにし、福祉国家という、すべての人が安心して暮らせる社会の大義を蝕んでいる。思い返してほしい。私たちの祖父母が、血と汗と涙で培ってきた福祉国家の夢を、いとも簡単に切り捨てようとしているのが、テイラー政権そのものだということを!植民地の民を弾圧し、野党の大半を粛清し、この国を監視国家にしようとする試みを止められるのは我々のみだ。
同志諸君、今こそ立ち上がろう!我々の連帯を、誇りを、そして労働者の声と力を、テイラーと貴族院のブルジョワに示そうではないか!福祉国家の理想を、この手に取り戻すために。心を一つにして、団結して進み続けるのだ。
団結よ永遠なれ!労働者に栄光を。
マイケル・チャリントンは反省していた。この労働党党大会において、初となる強硬左派の党首就任。党首演説は完璧なものとしたかったが、改善点は多い。声の揚々の調整は度々失敗が見られ、振り付けは全員に注目を向けさせることができなかった。それでも大半の党員は彼を称賛してくれていたが、出来る限り完璧を目指したいものだ。
既に演壇には労働党党内の幹部が集結していた。この党大会ももう終わりを迎える。戦いはここから始まる。弾圧を続けるテイラーの時代を終わらせ、労働者の時代を作り上げるため、彼は動かなければならないのだ。
だが、今は歌うときだ。党の結束のためこれからの戦いのため。労働党の党歌「The Red Flag」だ。
民衆の旗、赤旗は、戦士の屍をつつむ。
屍固く冷えぬ間に。血潮は旗を染めぬ。
高く立て赤旗を。その影に死を誓う。
卑怯者、去らば去れ。我らは赤旗守る。
万国の労働者よ、団結せよ!
2025年7月25日、午後9時半。
倉田朝羽の帰宅から3時間後、
先ほどと打って変わって
海南島には小雨が降り始めていた。
そんな中、ある一つの駐屯所で、
二人の男女が壁にも足り掛かりながら会話している。
「…で、あの子はどうなったの?」
「無事に帰宅できたとさ。
さっき連絡が来たらしい」
「そう。助かってよかった…」
男の方はクリストファー・トンプソン、
女の方はミラネッティ・サーラ。
どちらも海南武警に勤務する二人組だが、
今回はトンプソンの視点から話を進めることにしよう…
「それで、仕事の方はどうなったの?」
「何を言ってんだ、変わらず時間通りに続行だよ。
さ、分かったらとっとと出発するんだな」
それを聞いて、彼女はめんどくさそうにこちらを見てきた。
「えー、あたし傘持ってないんだよ?
ほんの少し移動するだけで濡れるなんて、
そんなことお断り」
「おいおい、駄々をこねるんじゃない…」
そう言いながら、仕方なく折り畳み傘を取り出した。
彼女が何のためらいもなく傘の下へと入ってくる。
「えへへ、ありがとー」
「全く、お前って奴は…」
天気は徐々に小雨から霧雨に変わりつつあった。
海南武警所属の事を表す白と緑色に塗装されている
雑多な車両が並ぶ隊列の横を、傘の中で話しながら二人で歩いていく。
「で、今回の敵はどれぐらいいるの?」
「いつものように完全武装したギャングだとよ。
人数は30~40人ほどと予想されてる」
「へー。そんなに逮捕して護送できるの?」
「いや、その事についてなんだがな…」
「もったいぶらずに言え!」
そう言われたので、あえて一呼吸おいて言った。
「…酷いもんだぜ。逮捕者が出なくても構わん、だとよ」
「え? ストでもやるの?」
「…全員ぶっ殺してもいいって事だよ。
こりゃ、上も相当頭に来てるな」
彼女に向かって、呆れるようにそう言った。
警察だというのに本当にどうかしている。
一体、上層部は何を考えてるんだ?
「ま、あたしはそんなことどうでもいいけどさ。
どうせ外で張ってるだけだし」
「おいおい… なんだよ、それ?
逃走車両に対してはお前が管轄なんだぞ?」
「その時はその時で、まあ何とかなるでしょ」
「全く、お前って奴はなぁ…」
「いいじゃん別に。
あんたこそ、愚痴ばっか吐いてると精神に悪いわよ」
…その愚痴の原因はアンタだがな。そう言いかけたが、
幸いなことにその寸前で踏みとどまれた。
「ほら… 目的地だ。着いたぞ」
そう言って、目の前に停車しているトレーラーの
上に載せてあるLTVz.08多脚強襲戦闘車―
海南の特異な地形が作り出した
市街地における高速戦闘用の車両であり、
彼女がいつも操縦している勤務先を見上げた。
「おい、何やってんだ?」
しかしここまで来たというのに、
彼女は全く動こうとしていない。
何を考えているのやら、この娘は…
「えーと… この中ってさー、結構狭いんだよね。
ずっと乗ってると体が痛くなってくるんから…」
「そうか? 蜂の巣にされるよりはマシだと思うが…」
「ふはははー、対14.5mm装甲だぞ。凄いだろー」
「そうか。背が低くて良かったな」
「…今なんて?」
「いや、何でもない…」
さて。先ほど彼女が言ったように、この車両は非常に狭い。
要は機動性と装甲の為に居住性が犠牲になっており、
そのため悲惨なことに屈強な軍人よりも小柄な乙女の方が
運用には遥かに向いているのである。
「よいしょっと」
そんなことを思っていると、
いつの間にか彼女は車両に乗り込んでいた。
全く、すばしっこい奴だ…
「おい、トンプソン! イチャついてないで早く乗れよ!」
遠くからヤジが飛んできた。
その方向を見ると、トラックの運転席から
知り合いの武警であるオレクサンドルが顔を出していた。
「ああ、今行くよ…」
そう言いながら、トラックの後部座席に乗り込もうとする。
上空を2機の哨戒ヘリが飛んでいった。
現場は既に戦闘状態に入っていた。
装輪装甲車が建物の窓を片っ端から撃ちまくり、
道のど真ん中では一台のトラックが炎上している。
そんな危険地帯の中を、多脚戦車の後ろに張り付きながら
ゆっくりと確実に前進していく。
「阻止砲火を貼り続けろ!
奴らを建物から出すんじゃない!」
「うわぁ、凄い事になってる…」
「何言ってんだ。向こうも同じようなも」
…言い終わらないうちに銃弾が頭の上を掠めた。
「阻止砲火!」
「分かってる!」
彼女がそれを言い終わらないうちに、
7.62mmガトリングが短く回転した。
窓ガラスを一列まとめて粉砕し、
撃たれた一人のギャングが倒れて
看板に激突しつつ地面へと 落下していく。
それを見て流石の敵さんも恐れをなしたのか、
途端に発砲が止まった。
「いいぞ! 前進しろ!」
その瞬間、全員で一気に斜線が通らない場所まで移動する。
そこには先に来ていた武警達が固まっていた。
「お、ようやく来たか。戦力は?
「多脚戦車が1台と武警が二個分隊!」
こちらの指揮官がそう回答したが、
正直増援は必要のないように思えるほどの
戦力がすでに展開している。
ざっと三個分隊はいるだろうか?
「じゃ… ぼちぼちやるか。
おい、開錠頼む」
「了解!」
次の瞬間、既に多数の銃口が空いている建物の入り口めがけて
多脚戦車の12.7mmと7.62mmガトリング砲が炸裂した。
銃弾が壁を貫通して入り口の周辺で
待ち伏せていたギャングを片っ端から打ち抜き、
射撃が終わり次第即座に武警の一個分隊が
壊れかけているドアを蹴り開けて突入していく。
内部はすでに血の海になっていた。
いくつか死体が転がっており、
その周りに千切れた腕だの足だのが吹っ飛んでいる。
「入り口付近は全滅か。息のある奴はいるか?」
「いえ、何処にもいません。
そこらじゅう血だらけですよ」
奥には木製のドアがあったが、
貫通している形跡はない。
中にまだ人がいるな…
「スタングレネードを使いますか?」
「どうせ上は逮捕者が出なくても構わないんだ。ただのグレネードでいい」
中に一発の破片手榴弾を投げると
部屋の中から怒号と叫び声、
それから走り回る物音が聞こえて来て―
爆発音。
中にいたギャングの一人がドアを開けてかろうじて出てきたが、
直後に倒れて動かなくなった。
背中には手榴弾の破片がいくつか突き刺さっているが、
それでも念のためで2発の拳銃弾をぶち込まれる。
「突入」
そう分隊長が静かに言うと、
武装警察たちが中でうめき声を上げながら
地面に転がっているギャング達を素早く掃討していく。
息があろうがなかろうが、頭に一発ずつ叩き込んでいった。
「殺してやる、殺してやる、殺してやる…」
一人のギャングが最後の抵抗をするべく
震えた手で自動拳銃を向けようとするが、
まともに銃を上に上げる事すらできていない。
「出来るもんならな」
そう言ってリボルバー銃を男の額にぶっ放した。
力が抜けた手から銃が抜け落ちる。
「第一分隊はそのまま一階を制圧しろ!
そっちは二階を頼む!」
そう言いながら、武警達が部屋の奥へと移動していった。
「こっちも展開するぞ! 分隊前進!」
分隊長の命令を聞いてこちらのチームが二階へと移動しようとした瞬間、
途端に上から阻止砲火が飛んできた。
「階段上に2名、武装は9mmSMG!」
こちらも負けじと短機関銃や拳銃を撃ちまくった。
銃弾がいたるところに当たり、
そのたびに照明や窓ガラスが壊れていく。
「どうします? フラグを投げますか?」
「投げ返されたり、失敗して
こっちに転がってきたら面倒だ。辞めとけ。
それよりも向こうの弾切れを待った方が賢明だ」
言われた通りにしばらく待っていると、
本当に弾幕が途切れた。
どうやら、撃ちまくっているうちに
両者とも同じタイミングで弾切れになったらしい。
「行け!」
短機関銃をバースト撃ちしながら突入していく。
リロードしていた二人のギャングが撃ち抜かれて倒れ、
一人は階段を転がって一回へと落ちていった。
続いて廊下に飛び出して来た一人も同じく射殺する。
「廊下を制圧!」
「そうか。制圧を続けろ」
武警達が片っ端から部屋に突入し、
次々に高速で内部を制圧していく。
「お前はそこ突き当りにあるの部屋だ! 行け!」
そう言われて、自分も部屋の中に
一人の武警と共に突入することになった。
「おいおい、マジかよ…」
その部屋はいかにも奴らのボスがいそうな雰囲気を醸し出していた。
観音開きの扉の前には高給そうな装飾品が転がっており、
おまけにその下には防弾チョッキを付けて
頭をぶち抜かれたギャングの一人が転がっている。
「とにかく行くぞ。弾薬を再装填してから突入する」
目の前にいる一人の武警が、ドアの横に張り付いて
サプレッサー付きの突撃銃を装填しながらそう言った。
こちらも同じようにリボルバー銃に弾丸を込める。
「行くぞ」
「ああ」
「3,2,1― 突入!」
そう言いながらドアを蹴破って
部屋の中へと飛び込んだ次の瞬間、
内部にはありきたりで衝撃的な光景が広がっていた。
ギャングのボスらしき男が女性を人質に取り、
頭に大口径のリボルバー銃を突き付けている。
「おい! この女がどうなっても―」
サプレッサーにつきものの特徴的な銃撃音がし、
男は政府を言い終わらないうちに倒れた。
女の方はショックか何かで地面に倒れこんでいる。
「畜生、条件反射で撃っちまった」
「おかげで躊躇しなくて済んだな。
…で、この女はどうするんだ?」
「拘束するさ。殺さない事に越した事は無い」
そう言いながら女の方を見ると、
こっそりと男が持っていたリボルバー銃を持とうとしていた。
目線があった瞬間急いで銃に飛びついたが、
撃つ前に容赦なく射殺される。
顔面のど真ん中に穴が開いた。
「おいおい、美人だったのがこれで台無しだ。
容姿に頭が少しは伴ってりゃ、
こんなところで無様に死ななかったのにな…」
そんな言葉を聞きながら、無線に制圧完了を示す
短い報告を入れようとしたその時だった。
突入した反対側から爆発音が二回連続で響き、
直後に半ば叫ぶように無線連絡が入ってくる。
「こん畜生、一階のガレージから逃げられた!
奴ら梱包爆薬で封鎖線を強行突破しやがった!」
散発的に銃撃音が響き渡る中、海南武警に所属する1機の
哨戒ヘリコプターがその上空を飛んでいる。
「こちらブラボー11、逃走車両を発見した。
種類は普通自動車で台数は4台、ルート251を南南西に移動中。」
道路を4台の雑多な乗用車が走り、
それを一台の多脚戦車が追いかけている。
下手なSFのような、実に珍妙な光景だった。
「こちらブラボー11よりチャーリー4※、撃てるか?」
※LTVz.08のコールサイン
「ダメ!民間人に当たる!」
「とにかく追跡を続けろ。
いるだけでも十分に助かる」
その一方でギャング達は平然と銃火器をぶっ放しまくっているが、
多脚戦車の装甲は貫通できずに全て跳ね返されている。
代わりに跳弾がいたるところへと命中し、
そのたびに看板やガラスがぶっ壊れた。
「あー… ブラボー11よりチャーリー4、
フォックスロット17が対応中。
終了次第、発砲許可を出す」
「うん、分かった!
それで対応はいつ終わるの!?」
「5分もあれば終わる。終了次第報告するから待て」
戦闘にいた乗用車のが急カーブして横道に逃げ込んでいった。
無理に移動したせいでブロック塀に車体を擦ってしまい、
カーブミラーがもぎとれる。
「一台が逃げた!」
「こちらブラボー11了解。
仕方ない、オブサーバーに対応させる」
周りに民間車両がいるのにもかかわらず、
近くに待機していた狙撃ヘリの14.5mm狙撃銃による
正確無比な一撃が無慈悲にも火を噴いた。
タイヤを撃ち抜かれてコントロールを失い、
ガードレールを飛び越えて用水路の下へと転落していく。
車が水路に墜落すると同時に、サイレンから
街路封鎖と建物内への避難を告げる放送が流れてきた。
「こちらフォックスロット17、
街路の封鎖及び付近に警告を発令した。
もうハデに撃ってもいいぜ」
「了解っ!」
次の瞬間、多脚戦車が一気に加速して
前方にいた一台の乗用車を跳ね飛ばした。
車が近くの建物に思い切り衝突する。
それと同時に上部12.7mmRWSが横を向き、
銃口を向けられた逃走車両が
ブレーキを踏んで緊急回避をしようとするが
運転手が前部座席ごと撃ちぬかれた。
車は急減速しながら横転し、
そのまま止めてあった無人のトラックに衝突して
中身入りのスクラップと化した。
「おい、ヤベェぞ! もっとスピードを上げ―」
ギャングの一人がそう叫んだが、すでに手遅れだった。
前方の12.7mmと7.62mmガトリング砲が火を噴き、
最後の一台はまともによけきれずにもろに被弾して
銃弾が次々と乗用車の薄っぺらい鉄板を貫通しつつ
最終的にエンジンに引火して爆発しながら
前方に向かって吹き飛んでいった。
その光景を上空から見ていた監視ヘリのパイロットが、
一言だけ無意識のうちに小声で呟いていた。
「容赦ねぇな、あの操縦手…」
戦闘終結後、上空には監視ヘリの代わりに
報道社のヘリコプターが飛びまわっていた。
無線を聞くに逃走車両どもは
いとも簡単に殲滅されたらしいが…
あのバカは大丈夫だろうか?
「あー、疲れた疲れた。
速く帰って休みたいなぁ」
…そう言いながら、
建物の屋根伝いに彼女がとことこやって来た。
コンテンツ「お、戻って来たか。
今回も無事だったようで何よりだ」
「ありがと」
そう言って、彼女は銃痕だらけの建物に
もたれかかっている。
「ところで… 早く帰りたいならどうして、
屋根の下で呑気に雨宿りなんてしてるんだ?」
「あ、その事なんだけどさ…
ねぇ… また、傘貸してくんない?」
再びそう言いながら、彼女はウインクしていた。
全く、懲りない奴だ…
そう思いながらも、先ほどと同じように傘をさす。
「あ、そうだ。傘じゃなくても
逃走車両を捕まえたお礼のタクシー代か
代わりに車で送ってくれてもいいよ」
傘の下に入って次の瞬間、
彼女はそう言いながらこちらを見てきた。
「お礼? なんで俺が」
「えー、だってあいつらを取り逃したのはあんた達じゃない。
私がいなかったら、とっくに解雇されててもおかしくないぞ
…本当に、全く、性懲りもない奴だ!
数日後。海南島にあるチェコ軍駐屯地の一室では、
特別行政区政府の一部の主要メンバーやチェコ軍、
そしてBISが勢揃いしていた。
「…また奴らにやられました。
一つのギャング・グループが壊滅したようです」
「それが何だって言うんだ?」
「奴ら、最近海南独立賛成派のマフィアグループと
ドンパチやってたらしいですよ。
要は独立に協力する事へのお礼でしょう」
「マフィア? 行政区はそんなものまで動員してるのか?」
「ええ。金で動くんです、海南にとっては楽に動かせる駒ですよ」
「有事の際は酷いことになりそうだな。チェコ軍は迎撃できるのかね?」
「恐らくはできます… が、多くの損害を被るでしょうね」
「どのぐらいだ?」
「向こうがどれだけ兵器を密輸しているかによります」
「そうか… 現状ではどのような対策が出来る?」
「親チェコ派によるクーデターですね」
「クーデター? 独立勢力じゃあるまいし」
「いえ、それよりもずっと穏便な物ですよ。
とにかく説明を―」
…そして彼は説明を始めた。
その「穏便な」計画が、
後にもっと過激な計画を招くことも知らずに。
→会議は進む、されど踊らず/La réunion continue, mais il n'y a pas de danse
多脚戦車パイロット
ミラネッティ・サーラ
イタリア系。
明るく元気で活発な子。
クリストファー・トンプソン
元チェコ警察、米国系。
情報収集能力だのなんだのに優れているくせに
何故か戦闘しまくる部隊に配属されてしまった哀れな男。
2025年8月8日、海南省東方市。チェコ第8軍総司令部。
海南島にあるチェコ軍最大の駐屯地の一室では、
特別行政区政府の一部の主要メンバーやチェコ軍の要人、
そして在海南BIS職員の合計15人が勢揃いしていた。
機密保持のために部屋に窓は付いておらず、
天井に付いた蛍光灯のみが淡々と
部屋をの中を照らし出している。
「さて… 現状ではどのような対策が出来る?」
「親チェコ派によるクーデターですね」
「クーデター? 独立勢力じゃあるまいし」
「いえ、それよりもずっと穏便な物ですよ。
とにかく説明をします」
そう言っているこの男は、
海南島行政区政府の主要メンバーである
レグロ・カンティロだった。
その隣にも二人の政府顧問が座っている。
「一体どうするんだ」
BISの局長であるコンラート・オブロフスキーがそう言った。
「奇襲的な解任投票による政府長官及び海南武警の指導者交代。
既に過半数はこっちの勢力下ですよ」
「そうか。で、チェコ政府派は何人いるんだ?」
「14人。奴を政府の座から引きずり下ろすには十分な数です」
「その後はどうするんだ?」
「徐々にチェコ側の勢力圏に入れていきます。
海南武警は解体するか、あるいはこちらの指揮下に入れます」
「タイミングは」
「そちら側の許可があればいつでも。
あまり遅すぎると奴らの戦力が膨れ上がることが予想されるため、
出来るだけ早く行った方がいいと思います」
「ああ、分かった。では次に移ろう。
…予想される犠牲者の数はどのぐらいだ?」
「最低で8万人、最高でも15万人。
難民はその倍出ます」
「経済的損失は」
続いての質問をしたのは、
財務大臣のエミール・ミハルだった。
額に汗を浮かばせており、
しきりにハンカチでそれを拭いている。
「チェコ本土への間接的な打撃、
それからHCO諸国への影響も考えると
推定で42兆円程かと」
「悲惨だな。リーマンショックの再来か」
「それと、これに伴う海南島の7割が
壊滅するとの予想が出ています。
あくまで悲劇的観測ですがね」
「有事の際は早急に鎮圧しないと酷いことになるな。
奴らの戦力はどれぐらいなんだ?」
国防長官である
ヴァーツラフ・アンドレイチャークがそう質問した。
「まず主力部隊である旅団クラスの内衛総隊が四個、
大隊クラスの機動総隊が二個」
「武装は?」
「海南武警は数多くの装備を保有していますが、
その大半は非致死性兵器や軽装備です。
極端な話、戦車が一台でもあれば壊滅しますよ」
「行政区が密輸した兵器はどうなんだ。
うちの部下の報告では、MBTやIFVを保有していると言っていたが」
BIS長官がそう横槍を入れた。
が素早く回答する。
「恐らく島のあちこちに隠匿されて配置されています。
武装蜂起の際に使うんでしょうが、集中配備では無いでしょう。
航空攻撃や携行式対戦車兵器で各個撃破できます」
「内衛総隊に運用できるのか?」
「それは国内軍としての機動部隊が担当するでしょう。
武警総部により指揮される部隊で、
規模は2個大隊のみです」
「特殊警察部隊はどうなんだ?
精鋭部隊だと聞いているが…」
「うちの特殊空挺で対応できます。
規模でも練度でも勝ってますよ」
が答える前に、
空挺軍総司令官のテオドル・クレツァンダが答えた。
国防大臣も同じようだというように首を縦に振る。
「逆に海南にいるチェコ軍はどのぐらいの戦力なんだ?」
これに対しては陸軍総司令官の
ヴォー・グエン・ドゥックが答える。
「戦車旅団と空中機動大隊がそれぞれ1個、
自動車化歩兵旅団と憲兵大隊は2個づつ。
規模では劣っていますが、十分対応できる戦力です」
「3個旅団と3個大隊か。
海南武警相手には少々手間取るな」
「しかし、海南島には多数の市民がいるじゃないか。
彼らが独立勢力側に着く可能性と、その戦力はどのぐらいだ」
「それが一番の懸念点ですよ」
「何?」
カンティロがそう言うと、
国防長官は驚くように立ち上がった。
「人数は海南武警…
いや、駐屯チェコ軍よりもはるかに多いです。
ひょっとしたら負けるかもしれません」
「武装はどうなんだ?所詮は市民だ、
あって短機関銃ぐらいしかないだろう」
続いて立ったのは陸軍長官の
「一般市民の銃器所持率は凄まじいものですよ。
拳銃、散弾銃、突撃銃…
一部は対物ライフルや汎用機関銃まで持ってます」
「…奴らが動員できる勢力はどのぐらいなんだ?」
「勢力ではないですが、多数の民間人が味方に付くかと。
それから雑多なギャンググループも動くと予想されています」
この質問に対して、BIS長官が回答していく。
「逆にこちらが味方につけられる勢力は?」
「独立に反対する勢力がいるとは思えませんが、
強硬独立派に反対する勢力なら大勢いるでしょう。
無政府主義者や共産主義者、
労働者の自警団に退役軍人会…」
「それじゃあ… 独立勢力はどうなんだ。
多数いると聞いているが」
「親中派や親日派、それと少数民族の独立勢力。
前者は両者ともHCO加盟国ですし、
後者は非常に戦力が少ないです。
さほど脅威にはなりませんよ」
「さて―
諸君。それでは結論を出そうじゃないか」
「ええ」
「やはり、海南島における即自的なクーデターを行うべきです。
奴らに先手を取られたら負ける」
そう言ったのは空挺軍長官だった。
周りにいる何人かもそれに賛同する。
「慎重に行った方がいいのでは?
せめてうちのBISが証拠を確保するまで待った方がいい」
逆にそう言ったのはBIS長官だったが、
これはあまり賛同を得られなかった。
「意見が二分されているようですが、
あくまで我々は民主主義者です。
平和位に投票で決めることにしましょう」
全員の視線がそう言ったカンティロに向いた。
「賛成の方は右手を、反対の方は左手をお上げください」
…賛成11、反対3、棄権1。
「では、明日にでも直ちにクーデターを実行します。
皆様も異論はありませんね」
全員が一斉に立ち上がり、短い拍手をした。
「解散!」
そうカンティロが言った瞬間、
そのまま部屋から重要人物たちが早急に出ていく。
誰もいない部屋には暗闇だけが残っていた。
そしてー
その夜、全てが一斉に動き出すことになる。
謀略が実行に移され、チェコ空挺軍は有事に備え移動を開始し、
BISは早々に海南島からの機密書類を移送し始めた。
止められるものはいなかったし、
誰も止められるとは思わなかった。
そして全ては始まった。
→Hainan's Longest Summer/海南の最も長い夏